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Episode05:Domestic Loadout Customization Chapter3-Kitchen Loadout Optimization

 包丁の完成を待つあいだ、和維の“前線装備”への意識はますます高まっていた。


(刃物が変わる。ならば当然、周辺装備も最適化すべき)


彼女にとって調理とは、単なる家事ではない。

であるなら、今やるべきことは、

“任務環境の変化に応じた装備体系の再構築”だった。


最初に目をつけたのは、エプロンだった。


「前線に立つ者の防護服として、これは性能不足です」


和維はリネン地のエプロンを手に取り、シワの伸縮性と縫製の耐久を指先で確かめた。


(防御範囲が狭い。水分吸収も偏る。動作時の揺れも出る。戦闘中にこんな装備じゃ──いや、調理中にこんな装備では事故る)


彼女は口には出さなかったが、頭の中では完全に“兵站任務用装備選定”と同等の思考が走っていた。


求める条件は明確だ。

・耐水性/撥油性が高いこと

・包丁や火器具に対する耐切創性・耐熱性を持つこと

・長時間の着用でも身体への負担が少ないこと

・動作時の引っかかりやバタつきを最小限に抑える形状であること

・そして何より──「洗っても劣化しない構造強度」


「素材は……ナイロン? いや、アラミド繊維……撥水コーティングはテフロン加工、できればダブルステッチ……」


スマートフォンで検索をかけ、プロ用・業務用・アウトドア用の調理エプロンを比較すること十数件。

国内のメーカーから個人職人まで、レビューと製品データを漁る。


「これ……全部料理用なんだよね?」

背後から聞こえた圭人の声に、和維はうっかり「これは……」と口ごもった。


「これは……」


「これは…?」


圭人が息を呑む。


「これは…“前線支援者”にとって必要な装備です」


「……いや、答えになってないよ」


和維は検索画面を見せながら説明する。


「このモデル、ケブラー混紡で耐切創試験済み。火の粉にも強いし、肩回りの動作負荷も最小限。しかもポケットの深さが25センチあって、トングと温度計を分けて収納できる」


「ちょっと待って、トングって、そんなに深く刺す必要ある……?」


「あります。“手元の整理”は戦闘継続能力に直結しますから」


「……料理って戦闘だったんだ……」


圭人は完全に置いてけぼりだった。


「ねえ、ちょっと聞いていい? そのエプロンって……どのあたりが“必要な装備”なの?」


「……エプロンは、私にとって“タクティカルベスト”なんです」


「……うん、つまり重要ってことは伝わった。伝わったけど何言ってるかはわからないけど…」


続いてはまな板。


現行使用中の木製ボードを見つめながら、和維は腕を組む。


「全長:横420mm、縦260mm、厚み35mm。……この面積では、ターゲットが動きすぎる」


「ターゲットって言うのやめよう?」


「では獲物」


「もっと言い方あるよね?」


「たとえば、“切除対象”?」


「うん、結果的に物騒…」


サイズの見直しに加えて、和維は“素材”にもこだわった。


木の温かみは捨てがたい。しかし刃への優しさと抗菌性、滑り止め性能、重量バランス。すべてを両立できる選定は至難の業だ。


(滑り止めはゴム足では不足。吸盤方式……あるいはマグネット式?)


照明の角度に対する陰の出方まで検討しながら、和維は試作品の紙モックを三種作成した。


「え、紙で? モックって、あの試作模型の?」


「寸法を取るにはそれが一番早いの」


キッチンの作業台に紙のまな板を三枚広げ、立ち位置と手首角度の変化をチェック。

まな板を中心に、すでに軽いフィールド演習の様相を呈していた。


「……オレ、なんかこの場所、入りづらくなってきたかも……」


圭人の弱気なつぶやきに、和維は迷わず言った。


「あなたは、輸送支援ですから」


「……あ、そうだった。役割あったわ」


ちょっとだけうれしそうな圭人に、和維も口元を緩める。


そして最後はキッチンタオルと鍋敷き。


「吸水性、速乾性、耐摩耗性……あとはストラップへの固定互換性ね」


和維が手に取ったのは、キャンプ用品売り場の耐熱タオルと耐火シリコン鍋敷き。


「この鍋敷き、アルミ芯材入りで湾曲に強い。熱源を持ち上げた状態でも支えになる。緊急時には──」


「武器になる、とか言わないでよね?」


「……ならないわ。でも、なったら嫌でしょう?」


「やっぱ言うんだ……」


選定の基準はすべて“機能性重視”──だが、そこに生活者としての矜持もある。


(美しい道具は、使う者を律する)


構造、素材、動き。

“考え抜かれた機能”は、それだけで人を動かす力を持っている。


和維の“家庭戦域”は、着々と整備されていた。


包丁が届くまで、あと一日──

ネットで注文した装備は、明日には前線に揃うはずだ。

その刃が“最大効率で機能する環境”を構築するための、最後の工程だった。


その夜。照明の色温度が落ち着いたキッチンで、和維は整備済みの装備配置をひとつずつ確認していく。

無駄のない導線、過不足ない配置。完璧だった。


照明の落ち着いたキッチンで、和維は静かに腰を下ろす。

棚に揃った器具の配置。まな板の角度や導線を想定した各ツールの配置位置。

視線の端で圭人が湯を沸かしているのが見えた。


(“戦場”ではない。けれど、やっぱり“備え”は要る)


包丁、まな板、タオル、そして──自分。

そのすべてが一つの連携ユニットとして機能すること。

無駄なく、無理なく、迷いなく。それが和維の理想だった。


「ねえ、これ全部、どこかのプロ厨房を真似してるとか?」


圭人の問いに、和維は少し考えてから首を振った。


「いいえ、これは……自分の“癖”に合わせて、設計してるの」


「癖?」


「人には、動きにリズムがあるから。自分にとって自然な流れが、装備と噛み合うと──疲れないのよ」


「疲れない?」


「うん。長く“立ち続ける”ためにね」


そう言って、和維はコンロの下に手を伸ばし、小さな引き出しを開けた。

中には丁寧に並んだ計量スプーン、温度計、予備のトングが、それぞれ仕切られて収まっている。


「……うん。やっぱり“いいフィールド”になったわ」


「うわー……キッチンに向かってそういうセリフ言う人、初めて見たかも」


和維は振り向かず、タオルを手に笑った。


「でもこれが、私の任務なの」


「……じゃあ、俺は?」


「輸送支援。……あと、たまに癒し」


「癒しもあった!?」


笑い声が、キッチンに優しく響いた。



タクティカルベスト?いいえ、エプロンです。

Status: Operation ongoing → Chapter4

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