気の短い女神様
「女神様って云うのは、もっと気が長いと思ってたよ。世界の始まりから生きてるんだから」
「私はそうだけど、あなた達の時間は一瞬じゃない。何万年も生きるみたいに悠長に構えられたら困るわ」
「だからって、出会った瞬間に結婚しましょうっていうのは急ぎ過ぎでは?」
僕のお相手は元転生の女神様だ。暴走トラックにFly me to the moonされ、勢い余って異世界転生と相成った事を告げるより先に、女神様は一言、「ねえ、私と結婚してくれない?」と宣ったのだった。
衝撃と一回転する視界と次の瞬間には求婚だ。当時の僕がしばらくフリーズしたのは至極当然だろう。
「もう今、200年間有給取ったから。早く返事して。ちなみにこれは夢でも走馬灯でもないから」
半ば強引な形で僕らは交際を始め、半年後に結婚した。
二人で異世界を旅し、迷宮や遺跡を冒険した。
「異世界を案内してあげますよ」と息巻いていた女神様の異世界常識が数百年遅れだったり、王国と帝国の争いに巻き込まれたり、引き継ぎの不備がどうとかで女神様が天使の大群に泣きながら天界へ引き摺られていったり(三日後に帰ってきた)、本当に色々な事があった。
冒険者を引退した後は、湖の辺りに小さな家を建てた。終の住処という奴だ。
僕らはこの家で、時たま訪ねてくる知り合いとの昔話を楽しんだり、一緒に釣りをしたり、何ということもない話をしたりして暮らした。
目を覚ますと枕元に女神様がいて僕の手を握ってくれていた。その手は柔らかく温かい。
「よく眠れましたか?」
「お陰様で」
僕はもう長くないのだと思う。この頃は体調が優れず寝たきりだ。
「———君が言った通り、一瞬だったよ」
「だから言ったじゃないですか。これでも私が女神のくせにせっかちだって言います?」
「降参だよ。君がいつも正しかった」
「当然です、私は女神ですから」