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第7話

魔物を隘路に誘き寄せての狩りは、その後も順調に進んだ。


始めて二日目は銀貨二十一枚、三日目は銀貨十九枚を稼ぎ出し、トアとポコの一日分の食費銀貨八枚を差し引いても累計銀貨三〇枚の貯蓄を実現。早くもポコの装備の購入が視野に入ってきた。


「革鎧はやめとけ」


トアも装備を購入した開拓公社横の雑貨屋で、トアたちは店主のグスタフの忠告に首を傾げた。ポコに合うサイズの革鎧が無いかという質問に対する第一声がこれ。まさか金属鎧を勧められているわけではあるまいが、革鎧の何がマズいのかとトアは首を傾げた。


「……どういう意味ですか?」

「サイズ、値段、動きやすさ。そいつにゃ革は不向きだ」

「ワフ?」


グスタフの言葉は端的過ぎて理解が難しい。トアとポコが説明の続きを待っていると、ハーフドワーフの店主は嘆息して億劫そうに口を開いた。


「……まずここにはそいつに合うようなサイズの革鎧はねぇ。サイズ調整にも限界があるし買うならオーダーメイドだ」


なるほど、とトアは頷く。ポコの身長はコボルトとしてもやや小柄で九〇センチあるかないか。幼児サイズの鎧を辺境で探すのは無理があるだろう。


「当然、オーダーメイドとなりゃそれなりの値段だ。最低でも銀貨一〇〇枚はくだらねぇ」

「……今すぐは無理ですけど、それぐらいは必要経費じゃありませんか?」


確かに高い。トアが装備している中古品フルセットが丸々買えてお釣りがくる値段だ。だが命がかかっている以上、多少無理をしてでも防具は買うべきだろう。


グスタフはトアの反論を否定することなく無言で頷き、ポコに展示してあった薄手の革鎧をポンと投げつけた。


「──ワフ?」

「これが三つ目の理由だ。試しに着てみろ。一応フリーサイズだから締めれば横幅は何とかなるだろ」


グスタフはそれ以上説明する気はないようで、仕方なくトアは言われるがまま革鎧をポコに着せてみる。横幅は紐を締めてもかなりぶかぶかだったし、下は草摺くさずりが地面に付きそうだったが辛うじて着ることはできた。


「どうだ、動けるか?」

「ワフ? ン~……ワフゥ」


グスタフに促されポコは歩いてみるが、サイズが合わないだけでなく見るからに動きがぎこちない。横からその様子を見ていたトアは原因に思い至った。


「……筋力不足ですか?」

「そうだ。材質が革だろうと鎧ってのは服じゃねぇんだ。身に纏ってまともに動くにゃ相応の筋力が必要になるんだよ。防御力と動きやすさはトレードオフ。そいつが動けるようにペラッペラの革にしたんじゃ、もう鎧の意味がねぇ」

「ン~~ワフフッ!?」 


確かに、革の固さに負けてまともに身体を曲げることもできないポコの様子を見ると、革鎧は厳しいかもしれない。


だがトアにもそう簡単に鎧を諦められない理由がある。力尽きてへたり込んでしまったポコの鎧の紐をほどいてやりながら、トアは一見関係のない話を始めた。


「……受付のアルドさんには、辺境ここで一か月生き延びて見ろと言われました」

「ふむ?」

「一か月経ってアルドさんが使えそうだと判断したら仕事を割り振ると」


一か月生き延びれば仕事を割り振るとは言われていない。この一か月の様子を見て、開拓者としてやっていけるかどうかを判断されるのだ。


極論ではあるが、支度金銀貨一〇〇枚があれば、食事を切り詰めれば働かなくても一か月生きて行くことはできる。だが本当にただ生き延びただけの人間に、開拓公社がまともな仕事を割り振ろうとするだろうか?


「俺はアルドさん──公社が、満足に装備も整えられない人間を“使える”と判断するとは思えません。だから安全性だけの話じゃなくて、多少無理をしてでも防具ぐらいは揃えておきたいんです」

「……そうだな。その見立ては正しい」


グスタフはトアの意見を肯定した上で、疲れて床にへたり込んだポコに視線をやる。


「別に儂も鎧を諦めろとは言わん」

「と言うと?」

「……こいつの場合、革より厚手の布の方が向いてるだろ」

布鎧クロース・アーマーですか?」


その発想はなかったとトアは目を丸くした。


布鎧とは即ち厚手の布で作られ綿わたなどで補強された丈夫な服のことだ。丈夫で厚いとはいえ所詮布だし防御力はお察しだが、最低限の防刃性能は備えているし、とにかく軽くて扱いやすい。辺境の外ではよく呪文遣いがそうした布鎧を装備していると聞く。


「確かに布ならサイズ調整もしやすいだろうし、値段も革よりは手頃でしょうけど、実際防具としてはどうなんですか?」

「布鎧単体で見れば無いよりはマシって程度だ。お前みたいなヒューマンが装備する分にゃ勧めねぇが、そいつにゃ自前の毛皮があるだろ。その上から厚手の服を着るだけでも、ちょっとした刃物や牙を防ぐ分にゃ十分だと思うぜ」

「……なるほど」

「一応防水やら何やらで表面は加工するから、見た目の方もそう悪かねぇ」


つまり開拓公社の査定面でも最低限の基準は満たすということか。


どの道ポコがまともに攻撃を受けるような状況は既に詰んでいる。防御力より動きやすさを優先するというのは、ポコの体力的には悪くない選択かもしれない。


「……ちなみにお値段は?」

「銀貨五〇枚ってとこだな。代金前払いで、調整に二、三日はもらうことになる」


トアの革鎧が銀貨三〇枚だったことを考えるとちょっとお高いが、サイズ調整などの手間を踏まえれば妥当な値段だろう。どのみち今の手持ちでは足りないので、注文するにしてもあと二、三日は狩りをこなしてから。もう少し金を貯めながら考えれば良いだろう。


──となると、先に傷薬と毒消しを追加購入するのもありか……?


一応、手元には初日にここで購入した傷薬と毒消しが一本ずつあるが、念のためもう一本ずつ購入しても良いかもしれない。


それぞれ銀貨一〇枚なので、購入しても銀貨一〇枚が手元に残る。だが、そんなトアの思考を見透かしたようにグスタフが忠告した。


「傷薬と毒消しはまだ残ってるか?」

「あ、はい。二人で一本ずつしかないので、もう一本ずつ買おうかとも考えてるんですけど……」

「やめとけ。余裕があるなら追加で買うのも悪かねぇが、今はまだカツカツだろ」

「……でも、イザという時のことを考えれば、手元で金を遊ばせるよりいいんじゃないですか?」

「遊ぶほどの金じゃねぇだろ」


グスタフはワザとらしく溜め息を吐いた。


「今、お前らの生命線はその中古の装備だ。剣にしろ盾にしろ、スタイル的に片方でもおしゃかになればアウトだろうが。その時に備えて最低限の予備費は確保しとけ」


この店で買った武器防具を五日目でもう壊れる心配をされるのは微妙な気がしたが、実際つい先日も大蜥蜴ジャイアントリザードに盾を噛み砕かれそうになったばかりだ。要は優先順位をつけて買い物をしろということなのだろう。


──ポコの布鎧は今すぐ必須って訳じゃない。となると、銀貨五〇枚ぐらい貯まったら傷薬と毒消しを追加購入して、一〇〇枚ぐらい貯まった段階でポコの布鎧を注文するイメージか?


ポコの武器をどうするかという問題も含めて考えると、思った以上に先の長い話なのかもしれない。トアは宙を見上げて軽くため息をつくと、床にへたり込んでいたポコに声をかけて立たせ、グスタフに軽く一礼した。


「ありがとうございました。もう少し金が貯まったらまた来ます」

「ワフ! マタクル!」

「…………ふん」


さあ、装備を整えるために、今日もしっかり稼がなくては。




──そう、気合いを入れ直して狩りに向かったトアとポコだが、順調だったはずの彼らの狩りは、その日早くも暗雲が立ち込めることになる。

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