第五話 道連れ
おまんたせいたした
──────水谷が異世界召喚された数時間後
午前5時、今日のバイトが終わった
「お疲れ様でした〜」
「おー中山、おつかれさーん。また明日な〜」
今日も今日とてバイトに明け暮れる中山竜也。
社員さんに挨拶をして事務所を出る。夏だからか夜明けでも蒸し暑さを感じてしまう。
「今日も疲れた...。1日8時間も働くのは中々体に効く。帰ったらゲームするかぁ...」
そんなことを考えながら帰路についていた俺の前に、蹲る少女がいた。
「助けてください。私の世界には、あなたの力“も”必要なのです。」
「えっと...なんですかあなた??」
いや待て待て、俺はホラーが全般得意じゃないし、現実でこんな状況にあったら普通に怖ェ。この状況で緊張ほぐすために変なこと言えるやつなんか水谷や村守くらいだろう。それに「助けてください」っつったのか??なんなんだよこれ...
「あの、、なにかの撮影だったりは...」
「...助けてください」
「いや、その...ご、ごめんなさい!!」
無理無理無理!!会話出来てないっぽいし何より雰囲気やばい、辺りが明るくなってきたから少女の姿がよく見えてきたが、めっちゃボロボロやん...めっちゃ、ぼろぼr...
「───...」
少し...少しだけ、可哀想って感じた。なんでそんなこと感じたかは分からないけど、あの消え入りそうな声を思い返せば、少し心が揺らぐ。
少女の方を見ると、両手を握りしめてこちらを伺っている。その姿がとても儚く感じてしまった。
「さっきの話、教えてくれる?」
「...!!」
少女の顔が、明るくなったような気がした。
俺が何か出来る保証はないけど、できることならやってあげたいな。
そう考えていると少女はおもむろに話し出した。
「わ、私の世界を救って欲しいのです。あなたからは、マナ操作の素質を感じました!」
「ま、マナ操作??」
マナって、異世界とかでよくある魔力のことだよね?
ってなると...厨二病??
多分まともじゃない感じかな...真剣に向き合って損したかも。
「ごめんやっぱり俺じゃ力になれなそうかも...」
早く家に帰ろう、そう考え帰路に戻ろうと後ろを振り返る。そこには、女の子がいた。
「え、女の子が二人...?な、え、なんこれ」
「逃げないでください、少々強引な手を使うことになりますが...ご了承ください、すべては私の世界のためなのです」
そう少女が言った瞬間、俺の足元に謎の魔法陣のようなものが現れた。そして、一気に地面の中へ吸い込まれてしまった。
「ふぉぉぉぉぉおおお!!??」
―――――――――ガサガサッ
木漏れ日がまぶしい、木々が揺らいでる音も聞こえる、まるで森の中にいるかのような...森か?ここ
あたりを見渡すが、おそらく地元のどこにもこのような場所はない。誘拐にしてはかなり新手だけど、とにかく周辺の情報が欲しいな、ここまじでどこなんだ?
「...涼しいな」
日本の気候は夏真っ只中のはず、なのにこうも涼しいとなると、、、あー考えたくない。
それにしても、辺りが獣道だらけなのも怖いな、、、これって俗に言う、
「異世界、、、なのか」
正直異世界ってものに憧れはあった。けれどまさか現実になるとはだれが思うんだ。
現状で言ったら水と食料もない上にここがどこかもわからない。異世界であれば魔物がいる可能性だってあり得る...結構詰みっぽいな...
「あれこれ考えても仕方ないし、とりあえず開けた場所を探すしかないか、、、」
そう考え、歩き出した瞬間──────
「"はぁぁぁぁぁあああ!!"」
遠くのほうから凄まじい声が聞こえた。それに、鉄と鉄がぶつかるような音も。聞いただけでわかる、明らかに物騒な雰囲気で溢れている、が
「人...もしかしたら、いい人の可能性も...」
異世界の人間がどんな人間かわからないが、藁にもすがる思いで草むらから音のなる方を覗く。
するとそこには、全身から無数の刃が生えたハリネズミのような魔物と戦っている女性がいた。
「うっわ、まじかよ。これが魔物...?でかすぎんだろ」
ハリネズミのような見た目の魔獣は推定4,5mはある巨体だ。そんな巨体の体からは無数に刃が生えている。対峙したらひとたまりもなさそうな見た目だ。なのにあの女性は、勇敢にも剣一つで応戦して見せている。現代の剣術では到底再現できない美しい剣技だ。
「!!」
目の前の女性がおもむろに剣を掲げ、何かを言った。
「唯一無二の剣!」
そう言い放った斬撃はハリネズミに直撃した。あんなエフェクトみたいなの、初めて見た...。
あれほどの威力の斬撃だったら、あの凶悪そうなハリネズミもひとたまりもなさそうだ、、、
「あれが魔法...まじかよ」
流石にあのような凄まじいものを見たのは初めてだった。これが異世界...すげぇ。
そう心が高鳴っている気持ちを落ち着かせて再び女性の方を見たら、、、
なんか倒れてね?
え、あの女の人倒れてんじゃん、大丈夫なのか?
──────ゴゴッ
さっきの斬撃を受けたはずのハリネズミが瀕死ながらも再び立ち上がってきた。
その眼には明確な殺意と復讐に溢れていた。
「いやいや待てよ...あの人起き上がんねぇぞ!?まずいってこれやばい...」
目の前の見ず知らずの人を助けるために自分を犠牲にできるほど俺はできた人間じゃない、けど、、、
助けなかったらそれはそれで後味が悪い!!――――
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!」
気づけば木の陰から飛び出していた。考えなんかないよ。ただこうして注意をひいてる数秒のうちに目を覚ましてくれないかななんて考えて、それで、、、あっ、起きない...
「起きて、、、起きてよ、、、」
──────起きない起きる様子がない女騎士に絶望したまま、目の前に迫ってくる化け物の前で今にも腰が抜けそうだ。、、、多分不細工な顔になってんだろうな、当たり前だ。目の前には見たこともない恐怖そのものが立ちはだかってるんだ。全身の穴という穴から変な汁まで出そうなほど怖い。恐怖で足も竦む始末だ。
目の前でハリネズミが腕を振り上げた。爪がかなり鋭そうだな...。あんなので襲われたら、、、
──────死
何もできなかった。注意を引き付けても無力な俺はそれが精一杯で、、、
こんなことなら、木陰でおとなしく隠れてるんだった。、、、冷静になれば後悔の念が津波のように押し寄せて俺の心をズタボロにしていく。絶望に崩れ落ちた俺は、気づけば力なくつぶいやいていた。
「...オォン。」
そう言った途端だった。目の前でハリネズミの動きが止まったように見えた。上を見上げると、、、
全身の穴という穴から血を噴き出して、死んだ。
「助かったのか...?あ、あぁ泣」
完全に腰が抜けてしまった。たぶんさっきまでのハリネズミは死力を尽くしていたのだろう。俺を仕留めるほんとうに直前に力尽きたのだ。きっと、そうだ。するとどこからともなく声が聞こえた。
――――レベルアップしました
「へ?今レベルアップって言ったか??」
確かに言った。この世界にはレベルアップとかの要素もあるのか、、、
レベルアップできるのはありがたいな、もしこの世界でこれから生きていくということになっていたら生活やその他諸々がその人の能力値に依存することになる。その点で言えば早い段階でこのことに気づけたのは不幸中の幸いだった。
それにしても、さっきの女騎士は大丈夫だろうか、そう思いふと振り向くとまだ気絶しているままだった。
いつまたさっきのような化け物が現れるかも分からない状況でここで寝たままにさせるのは流石に危険すぎる...。
そう判断した結果、女騎士を抱えて近くの洞穴に身を潜めることにした。
───いや装備重すぎんだろ
書いててたのすぃ