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金杯の園

「フレイディア!今何時よ。そしてここはどこよ!」

「何言ってんのよ、あんたが連れて来たんでしょうよ!」

「だって、火曜日、じゃなかった、火竜の所へ行くんじゃなかったの?地図通りに来たはずじゃない!あの時、光のつぶ子たちが邪魔しなけりゃ、今ごろ火竜とやらと一戦交えてるわ!」

「光のつぶ子って、何?なんて名前つけてんのよ」

「呼び名も無いんじゃ可哀そうじゃない?粒子だからつぶ子。つぶ太郎でもいいけど。」

「わかったわよ!あんたのネーミングセンスがない事は皆知ってるわ。」

「みんなって誰よ!」

「そう言えば、つぶ子ちゃん達、笑っていましたね。」

「そうなのよ、いまいましいったら。そっちは違うよ~みたいなさ。ケタケタ言いながら、連れて来られちゃったし。そんでどっか行っちゃったし!」

お日様はまだ高いところにありますから、きっとお昼頃でしょうか。ここは地図でいうところの”金杯の園”です。

園という割には、辺りは見渡す限りの雪原で、枯れた草木がところどころに生えているだけです。

荒れた土地と言いましょうか。孤独に打ちのめされた、背筋が凍るような、寒々とした風景が拡がっていました。ミーティアでなくても”ここ何処よっ!”て言いたくなるようなところです。

「さあ、そんな事言っていても仕方がないわ。いずれ行くつもりだったんだし、さっそく手がかりを探しましょう。」

「地図に書いてある通り、園だとしたら、手入れが行き届いたきっと美しい所だったに違いありません。おそらくダーク・エルフの手にかかって、荒れ放題にされてしまったのだと思います。」

「なあにぃ!またあいつらか!」

「今度はどんな手で襲ってくるか分かりませんね。用心していきましょう。警戒係と探索係とで手分けして行動するのはいかがでしょうか。」

「さっすがジェニー!あったまいい!じゃあさっそく探しに・・。」

「あなたは警戒係!」

「何でよ。」

「空から見張っててちょうだい。あなた飛べるんだからね。」

「!」

仕方がないと首をすくめて見せてから、にやっと笑って、ミーティアは二人の頭上に飛んでいきました。

「うふふ。トンビみたいね。」

「輪を描いていますね。」

「それでジェニー、ミーティアに内緒の話しって?」

「ええ、すみません。幾度か私たちを襲ってきた、霧の中の人影についてです。」

「人間みたいだったわよね、あれが何?」

「どこかで見た気がしてずっと気になっていたのですが。」

「え、そうなの?」

「実は、パン屋のご主人に似ているのではないかと。」

「え?パン屋って、サングリア・レイバーの?ってミーティアのお父さんじゃない!」

「ええ、だから心配になってしまって。」

「そりゃ、無いでしょ。いくら何でも。第一私たちが見たのは真っ黒けの影よ?どうしてそうだと思ったの?」

「いえ、確証はないのです。だからくれぐれもミーティアには内密で。ですがどこに敵の罠が潜んでいか分かりません。注意を忘れないようにしないと。」

「そうか。身内なら安心してしまいそうだものね。でもミーティアが間違えるわけないと思うけどなあ。」

「そうかもしれないって事だけです。あまり気にしすぎないでください。」

遠く頭上からミーティアの声が聞こえます。

「ちょっとぉ!どうなってるぅ?何か見つかったぁ?」

「まぁだぁよぉ!もうちょっと待ってー!そっちこそ大丈夫でしょうねー!」

「何もないわよー!だいじょーぶー!」

「じゃあ、こっちはこっちで手がかりを探しましょうよ。」

「はい、そうですね。」

「粒子たちが此処へ連れて来たという事は間違いないでしょうね。」

「何かの意図が働いたという事でしょうか。」

「光のつぶ達は、精霊よね。だったら使役する妖精が居てもおかしくないと思うの。」

「そうですね。妖精だとすると、やはり金杯がキーワードになりますね。ゴールド・カップってどういう事でしょう。」

「金杯に関係する妖精なんていたかしら。金とか鉱物系ならドワーフかもだけれど。」

「ミーティア!戻ってきてちょうだい!」

空をクルクルと回っていた女の子が降りてくると、3人は頭を寄せて考えをまとめます。

「いい?地図には”金杯の園”と書いてあるわ。そして光たちが此処まで運んできた。」

「だから、ここには妖精のカケラに関係する何かがあるはずよね。」

「これまでも言葉が魔法のカギになっていたわ。きっと何かしらキーワードがあるはずよ。」

「キーワードは”金杯”と”園”ね。」

「園と言えば、公園とか動物園かしら。」

「そうですよね。でも畑の意味もあるんですよ。果樹園とか菜園とか」

「へー、そうなんだ。じゃあ金杯が木に沢山なっているのかしら。」

「そう言えばミーティア、あなたのお母さんが育ててた花って何て言ったかしら。」

「へ?うちのハーブガーデンに何か植えてたっけ?」

「ガーデン!それですよ。ガーデンも園ですから!何を育ててたのですか?何とか思い出してくださいよ。」

「えー?うーん、金色の草花なんてあるわけないじゃない。」

「違う、違う!黄色い花で確かにカップの形をしていたわ。確かトロ何とかって言ってたの。これは山の花畑に咲く花よって。トロリ・・・。」

「トロリウス・エウロパエウス!」ジェニーが叫びます。

「トロリウス・エウロパエウス!またの名を”金杯草”!」

「そう!それよっ!」

その瞬間、これまで、雪原だった周りの景色が一変しました。山の中腹と思われるなだらかな丘です。金杯草の花じゅうたんが見渡す限りに拡がっていました。それは、見事な景色です。バックに高い雪山の山脈が連なり、空に浮いたように拡がる花畑は、白い雲とたっぷりの日差しの中で、風にそよぎながら波のようにさざめきたて、一輪ごとに今を盛りと咲き誇っているのでした。


「わあ!すごい!これが”金杯の園”ね!やったわ、私達たどり着いた!」

「すごいじゃない、フレイ。よく思い出したわね。私すっかり忘れていたわ。」

「ジェニーこそ、よく花の名前を知っていたわね。」

「はい、私も花は知っていたのですが、まさか金杯とつながっているとは気づきませんでした。フレイのヒントのおかげですね。」

「なによ、私の家にハーブガーデンがあったからじゃないの。ちょっとは私もホメなさいよ。」

「ハイハイ、忘れていたくせによく言うわね。」

「さあ、ここからが本番です。どこに妖精のカケラがあるか探さなくてわ。」

「ねえ、その必要はないみたいよ。」

ミーティアが指さした先を見ると、光の粒子が蜜を集めるミツバチのように、一輪ごとにノックして回っています。

すると、花の中から一斉に精霊たちが解き放たれました。あちらこちらで金の光たちは嵐のように巻きあがって、いくつもの柱が空まであがり、やがてすべてが金色に染まっていきました。

金色の柱の中から、クスクスと笑い声が聞こえます。小さな子供たちがあちこちで笑っているようです。

(ねえ。お姉さんたち。どこから来たの?)

(私達はここよ)

(いっしょに遊びましょうよ)

(悪いやつはもういなーい、悪いやつはもういなーい)

(かくれんぼは好き?わたしかくれるの得意なの)

「ちょっと、誰よ!出てきて顔を見せなさいよ」

ミーティアが叫びます。

(ウフフ。鬼ごっこしよっか)

(アハハ。花の蜜はいかが?あげないけどね)

(フフフ。たいへん、花の電車がくる時間だわ)

「ちょっとこれ、何とかなんないの!?」

さすがのミーティアもちょっと困っていますねえ。

ジェネスが前に出て

「私がやってみましょう。」

「聞きなさい、私はジェネス・ビジター。森を司る妖精、精霊の使い手の名において、そなたらに命じる。いたずらに謀るのをやめて出てきなさい。」

今まで、ぺちゃくちゃと喋っていた精霊たちが一斉に静まり、柱は花に帰りました。そこに残ったのは、ひとりの手のひらサイズの小さな金色の精霊です。

「失礼しました、ドリュアスのジェネス。確かにあなたのエメラルドの髪色は森の妖精族の証。わたくしの名はシシリー、あなた方が闇のエルフからお救い下さった。おかげで我らは解放されました。」

「シシリー。あなた方を救ったのは闇の呪術からこの国を救わんがためです。わたくし達は、フクロウ王ポロよりその望みを託されて旅をするもの。けして怪しいものではありません。今後私たちを謀るのは止めてもらいます。よろしいですね。」

「仰せのままに、ドリュアスのジェネス。今後はわたくし達、フローリア・フェアリーは、あなた様に忠誠をお誓い致します。」

「よろしいシシリー。ともにこの国、ハイオルトの為に力を合わせましょう。」

「何?これって、もうこの子たちと友達って事?やるうジェニー!」

「ねえ、私ミーティア!みんな、宜しくね。そしてこっちがフレイディアよ。」

するとシシリーはフレイディアを見て、険しい顔つきで言いました。

「こちらの方は人族ではございませんか。かようなものと我々はともに行くことは出来ません。」

「えー、なんで?フレイは私の親友よ?大丈夫、あなた達に危害は加えないわ」

「であっても、人間は影を呼び込みます。我々をあの雪原の暗闇に閉じ込めたのは、おのれの欲望の為に魂を影に売った人間どもでした。けして許す事のできぬ所業です。」

「私は、その人間とは違うわっ!」

「いいえ、人族はみな同じです。力の強いもの、声の大きいもの、権力、財力に頼み、他を蹂躙し、弱い者から搾取するのが人族なのですから。我らの仲間がどれほどの犠牲を負ったか。」

「シシリー、そのくらいにしておきなさい。わたくしの友人を蔑視してはなりません。くれぐれも勝手なふるまいをしないように、皆にも申し伝えるように。」

ジェネスが少しきつく言うと、シシリー達はお互い顔を見合わせながら、あるものは怪訝に、あるものはケタケタ笑いながら、戻っていきました。

「ごめんね、ジェニー。なんか変な事になっちゃって。」

「あなたが謝る事ではありませんわ。確かに彼女たちを呪縛したのは人間かもしれませんが、それは遠い昔の事です。これからは、人も妖精も、協力してこの国を守らなければなりません。あなたはその架け橋となるにふさわしい方です。」

「ジェニー。ありがとう。」

「さすが、ジェニーね!その通りね!なんてったって私の親友なんだから!」

「しかし、彼女たちの人間嫌いも困ったものですわ。」

「ねえ、見て。地図が更新されたみたい。」


その夜は、シシリー達が用意してくれた食事(花の蜜!)と金杯草のハーブティで過ごしました。フローリア・フェアリーたちは元来陽気なのか、クスクスと笑い、噂をし合い、楽器を鳴らしたり、ダンス大会が始まったり、花粉を投げ合ったりして、さっきまでフレイディアの事を警戒していたことが嘘のようです。

「ポロ、ありがとうね。」

夜になってようやく起きたポロは、事態の顛末を聞いて、シシリー達にとりなしてくれました。風のフェアリー・ゴッド・マザーの意を受けて彼女たちが選ばれた事や、自分を呪いの石化から救ってくれた事。影と戦って水の妖精ウンディーネを解放したこと等。

シシリー達はまばたきもせず話しを聞いていましたが、ポロの話しが終わると、皆フレイディアにキスをして、仲直りの挨拶が1時間ほどかかってやっと終わった所です。

食事をとりながら、三人と一羽は、これからどうするかを相談していますから、明日にはまた次の冒険に出発ですね。


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