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初めての作戦

「さあ、二人とも。これからの作戦を立てましょう!」

ここはもう洞窟の外です。ポロの洞窟からは小舟が送ってくれました。

「いま、何時なのでしょう。外は相変わらず明るいですが。時間が判らないというのも不便なものですね。」

「不思議とお腹は空かないわね。パウンドケーキを食べたのはいつだったかしら。」

「あれは、私たちまだ人間の頃でしょ。あなた妖精の自覚が足らなくてよ。フレイディア。」

「あんたって、ほんとに馴染むのが早いわね。ミーティア。風の魔法使いでしたっけ?」

「違うわよ。魔法使いじゃなくて妖精よ。」

「どう違うのか教えてほしいわ。」

「お二人とも、この地図を見てください。」

二人の会話にらちがあかないといった顔をして、ジェネスが話しかけました。

「どうかしたの?」

「妖精のカケラたちです。微かですが反応しているようです。」

ジェネスの言う通り、地図には印のようなものが、かすれて描かれていました。

「そうだった!二人とも私につかまって!」

二人はいぶかし気にそれぞれに腕を取りました。

「さあ、離さないでよ!」

そう言ってミーティアは、足首の模様を合わせました。クロスさせるように組むと、たちまち風が捲き起こり、土煙を巻き上げながら、三人をあっという間に空の上へと運び上げてしまいました。

フレイディアとジェネスは、自分の体重が無くなったかのような錯覚と、恐怖心から、ぎゅっと腕をつかんだままでしたが、いま起きている事が信じられず、足元に地面がない事、周りの山頂を見下ろし、雲の上に自分たちの影を落としているのを見ていても、何がどうなったのかを理解するのに時間がかかってしまいました。

「どう、二人とも。意外とうまく行ったわ。初めてにしては上々だと思わない?」

「どうって、何!どうやったの!?」

「一瞬でこんなに高く昇るなんて。どれもみんな小さく見えます。あれが“風の大滝”ですね。あの神殿は“風の国の聖域”。国中が見渡せますわ!」

「そこよ!」とミーティア。

「地上をちまちま歩いてたんじゃ、妖精のカケラがどこにあるかなんて、わかんないわ。ポロが言ってたじゃない?私の足首の模様、風紋って言ったっけ。これを重ねると飛べるって。」

「そう言えば、そんな事言ってたっけ。よく覚えてたわね。」

「そりゃそうよ。あの時すぐやってみたかったのを、我慢したんだから。」

「私たち、重くないんですか?」

「いいえ、ちっとも!たぶん私に触れていれば、一緒に飛べるって事かしらね。ねえ、少し空を散歩しましょうよ。」

そう言うと、ミーティアは二人の手を取って、飛び込み選手のように何もない空に飛び込みました。ギューンって降下したと思ったら、今度は手を上に伸ばして、垂直上昇です。かと思えば右旋回、そして左旋回。気流を上手につかんで、本当に自由自在です。

「キャーッ!気持ちいー!これってサイコーッ!」

「私たちって、昔話しの妖精みたいじゃない?これからきっと海賊たちと戦うの!魔法の粉は無いけれど、光の粒が運んでくれる。そのうち影だって動きそうよ。」

「何を夢みたいなこと言ってるの。現実を見なさい、私たち妖精なのよ!あれ、なんかおかしいわ!ああ、もう自分でも何が現実なのかわかんなくなっちゃた!」

「あら、フレイ。もちろんこれが現実よ。だって今私たち、空を飛んでいるんだもの!」

「ミーティア、フレイ、何か感じませんか?なにか気になる感じというか、こっちを誰かに見られてるんじゃないかという気がしてなりません。」

「え、誰かって?」

「分かりませんが、べつに恐ろしい感じではないのです。むしろ懐かしいというか・・。」

「妖精のカケラよ、きっと。この子たちが激しく動き出したもの。」

「この子って、この光の事?じゃあ、あなた達、案内してちょうだい。」

ミーティアが言うと、光たちはまるで生き物のようにブワッと一瞬膨れ上がったかと思うと、一つのスロープのように固まって、小高い丘に見える三本の石柱の方へ橋を架けたのでした。


三人はスロープを滑るように降りることが出来ましたが、勢い余って8回ほど転がってからようやく地面の上にいることに気が付きました。

「いったーい!ちょっとミーティア!もっと優しく降りれなかったの!」

「そんな事言ったって、飛ぶ方法しか教えてもらわなかったもの!文句ならあのフクロウに言ってよね!」

「みんな、地図をみて。」

そこには、新しく描かれた三本の石柱と、その横に文字が浮かび上がっています。

「ジェニー、読める?」

「はい、問いかけのようです。『影を岩の狭間に縫い付け、月明かりに落とせ』と書かれていますね。」

「さっすが、森の妖精。」

「でも、どういう意味だろう。」


洞窟から出た時は、まだ頭上にあった太陽も次第に傾き、いつのまにか夕日があたりを染め始めました。オレンジや赤紫のグラデーションは、まるでオーロラのように揺らぎながらその姿を美しく変化させ、夜の世界の天幕を降ろしていくのでした。


「ちょっと、暗くなってきたわね。」

「明かりの欲しいけど、焚火なんかできないかしら。」

「ジェニー、なにか先生から渡されてない?」

「待ってください、マッチの代わりだと言ってくれたものがあります。」

「マッチの代わりって、ライターじゃないの?」

「説明書がありました。『火をつける時に読んでね』だそうです。」

「読んでねって、何これ、ハートランド先生の手書きじゃないの。大丈夫?」

「まあちょっと見てみましょうよ。用意するもの、焚火台、チャコール練炭、松ぼっくり、小枝、麻ひも、フェロセリウム棒、ナイフですって。」

「何よ、それ、面倒じゃない。却下!」

「まあまあ。それでジェニー、それって全部入ってるの?」

「はい、どうもこの重い鉄板を拡げると、台になるみたいです。それから蓮の根を輪切りにしような炭が何個か、あとそれを縛っていたのが麻ひもですね。ナイフもありましたけど、フェロセリウム棒って何でしょう。この鉄の棒の事でしょうか。」

「松ぼっくりや、小枝は無いみたいね。辺りにも落ちてなさそうだけど。」

「続きは?なんて書いてある?」

「まず、焚火台を拡げて地面の上に置きなさいって。その下の地面を焦がさないように、防火マットを敷くようにだって。」

「なんか、地面の中の微生物がどうとかって書いてあるわ。」

「はいはい、分かったわよ。これでいいでしょうか。」

「次に、チャコール練炭を一つ、焚火台の上に置くんだって。」

「うわ、指が真っ黒んなった!あ、それ火ばさみがあるじゃない!それ、貸して。」

「その上に、麻ひもをほぐして火口にします。だって。」

「ほぐすって?よじってある紐をほどいて?ああ、こういう事?」

「その上に、フェロ何とかって棒をこすって、粉を落とすんだって。」

「ナイフで?削る感じ?あ、ほんとだ、こすったら粉でるじゃない。」

「その粉に火花を飛ばすらしいわ。」

「え、どうやって?たたくの?違う?強く滑らす?」

「強くこすると、火花が出るって。」

フレイディアが言うと、すぐに「ギャッ!」という声がしました。

「ついた、ついた!」

「あーっ!着いたけどすぐ消えちゃったわ。」

「麻ひもが一瞬で燃えてしまいましたね。」

「ああ、だから小枝とかがいるんだ。」

「小枝や松ぼっくりなどを用意しろって書いてあるわ。火口に火が着いたら燃やすのに使うんだって。」

「どこにそんなものあるのよ、丘の上の草っぱらよ?」

「火は育てるものだー!とか言ってわね、あの先生。」

「小さいな火を、大きくしていくってことですね。」

「でもこの練炭、薪不用って書いてあるのに。」

「火が付けばってことでしょ!」


便利なのか不便なのかよくわからない、ハートランド先生のキャンプギヤは、またも役に立ちそうもありませんね。

「もう、どうすればいいのよ!ちょっと誰か火を点けてよ!」


その時、光の粒がフワッと飛んできました。今度の光の粒は赤く火花を散らしながら飛んでいます。

それが、焚火台の練炭に降りたかと思うと、あっという間に炎を上げて燃え上がりました。

「なにこれぇ!ちょっとこんな事ができるんなら、もっと早くやってよー。」

「え、あなたがやったんじゃないの?」

「知らないわよ。まったくもう、だからキャンプは嫌いなのよ!」

ミーティアは又もや吐き捨てるように言いました。

「フレイ、不思議だとは思いませんか。私たち、ピンチの時には必ず不思議な力が働きます。」

「そうね、フクロウ王が言ってた魔法かしら。」

「そう思います。私たちの心の動きが魔法になると言っていましたから。」

「願えば叶う的な?」

「そうかもしれませんが、言葉が魔法の発動条件だとも言われました。」

「言葉で良くも悪くもなるような事を言ってたわよね。選ぶ言葉次第で、魔法が変わるという事かしら。」

「そうかもしれませんね。いずれにしてもよく考えて言葉を使わなければならないように思います。」

「あのお調子者に、そんな難しい事できるかしら。」

フレイディアは、ちょっとため息をついてミーティアを眺めるのでした。


すっかり暗くなって、正面の空にはこれまでに見た事もないくらいの大きな銀色の月が昇り始めました。辺りはまるで昼間のように明るく照らされるのでした。

「『影を岩の狭間に縫い付け、月明かりに落とせ』かぁ。」

ミーティアは三本の石柱に飛び乗ったり、渡ったりしていましたが、不意に思いついたように、言いました。

「フレイ、ジェニー、この変ななぞなぞ、私分かったかもーっ!影を岩の狭間に縫い付けろって事は、影が必要だわ。」

「それに影を縫い付ける針と糸もね。どうやって影を捕まえる?」とフレイディア

「まあね。」ミーティアは肩をすくめて

「はい、降参。」

「はやっ!」

「影って何かしら。洞窟で見た闇の影たちの事かな。」

「あの影たちは、何だったのでしょうね。」

「きっと、悪の手先ね!なんかすっごく悪そうだったもの。フレイなんか真っ青になっちゃって。」

「すごく寒気を感じたわ。心の芯が凍てつくっていうのはきっとあんな感じ何でしょうね。」

「もう一つ、『月明かりに落とせ』というのは、比ゆ的表現でしょうから、まずは影と月明かりの関係を、どう結び付けるのか考えてみなければと思います。」

「それなら、ジェニー。月明かりが無ければ影は生まれないわ。」

「そうですね、影になるのは、月明かりに照らされるもの。だったら、それは影ではなくて、影をつくるものです!」

「なに?どういう事?」

「ミーティア!来てください!つまりこういう事です!」

ジェネスはミーティアの手を取り、石柱まで走っていくと、柱と柱の間に手をつきました。

「みて下さい、影を岩の狭間に縫い付けるというのは、こういう事だと思います。」

「あ、そうか!じゃあフレイもそっちの柱の間をお願い、私はこっちの柱で。」

三本の柱の間に、向かい合った三人の妖精が手をつなぎ、円が描かれた状態になりました。確かに影は、柱の間に”縫い付け”られたように浮かび上がっています。月の光が増して、更に影は濃くはっきりとした姿になりました。

「それで?それで、こっからどうなるの?」

「私たち向かい合っても、影は一方向にしか伸びないんじゃない?これって影が落ちることになるのかしら。」

「待って下さい。もし月が私たちの真上に来たとしたら、どうでしょう。」

「うーん。影は真下に映るんじゃないかしら。」

「あ、そうか!真下に落ちるって事かも!」

「いやよ、また落っこちるなんて。ごめんだわ。」

「もう少しで、月が真上に来ます。それまでもう少し待ちましょう」

月明かりはいよいよ眩しく輝きを増し、影は更に濃さを増していきます。辺りにはいつの間にか集まった、光る粒たちがフワフワと飛び交っていて、これから起きることを知っているかのようでした。


ポロは考えていました。先ほど自分を魔法の呪縛から解き放った少女たちの事です。

これから、あの若い妖精たちは、この国に隠された秘密を解き明かし、すべてを魔力から解放する事が出来るだろうか。その為に起きるであろう数々の試練を乗り越えていけるだろうかと。

「いやあ、我らとて敵わなかった闇の手のものが相手であるなら、まだあの子らには試練が重すぎる。しかし、あの無垢な心根こそが闇を払い、魔を退ける事が出来るやもしれん。現に、闇の魔力を打ち破り、私のところまでたどり着いたではないか。うーむ・・・。そうは言っても、まだ妖精の自覚も持っておらぬ者たち。助力も必要であろうて。さあどうしたものか。」

しばらく首をグルリと何度か回して考えている様子でしたが、くちばしで自分の銀の羽を一枚抜き取ると、ふっ!と鋭く息を吹きかけました。羽は空中でクルクル回転していましたが、しばらくすると白い光を放ちだし、そして眩しく輝いた瞬間に現れたのは、小さな白いフクロウです。ポロが小さくなったような姿で、両手にすっぽり収まるようなサイズでした。

「さあ、行きなさい。きっとあの子らの助けになるのだぞ。」

フクロウ王のポロがそう言うと、小さなフクロウは夜空に向けて飛び立ちました。


一方、ミーティアたちは苦戦しているようですね。自分たちが石柱の間に立つ事で、月明かりに影を落とすことは出来ましたが、そこから先、どうしたものかがさっぱり判らないようです。

「影を落とすってことは、影が地面に写るってことでいいんじゃないの?」

「いいえ、ミーティア。まず影を縫い付けるところから考えなくてはいけません。」

「まさか本当に針と糸が必要って事?」

フレイディアも不思議そうです。

「そうでもあって、そうでもないのです。きっと影は動き出すのでしょう。それを止める事が必要なのではないでしょうか。」

「ああ、そうか。月が動くと影も動くわね。でもそれは時間を止めない限り出来ない相談じゃないかしら。」

「そうですね。でももう一つ方法があるとしたら。」

「なによ、ジェニー!分かってるのなら早く教えてよ!」

「月と共に動くのです。」

「え?」

ミーティアが「解かった!」と、得意げに割って入ります。

「そうか、月の動きに合わせて移動すれば、いつも同じところに影を写せるわ!」

「でも、どうやって。」

「いいから、いいから。皆、石柱に両手でしっかりつかまっててよ!」

皆が石柱の間で輪を作るのを確かめた途端、ミーティアは足の風紋を重ねて叫びました。

「さあ、飛びなさい!月の輝きに勝るなら、その後を追って高く舞い上がって!」

さっきまで、あたりをフワフワと飛んでいた光の粒たちが、一斉に集まってミーティアたちの周りを激しく回りだしました。あっという間に光の壁が出来たかと思うと、エレベーターのように地面ごと、夜空に浮かびあがっていきます。

「いいわ!その調子!」

「これって、なに!?どうなってんの!」

「いい加減慣れなさいよ、フレイ!」

「ミーティアは初めて自分の意志で魔法を使ったのですよ。フレイ。これは特別なことです。光たちは彼女の使役精霊なのでしょう。精霊に命じ、自らがそうしたいと願い、言葉にしたことで、動いたのです。これはミーティアの魔法なんですよ。」

「ヤバイじゃない、それ。スゴ過ぎ!」

「さあ、ジェニー。どこまで行けばいいのかしら。」

「待ってください。今地図を確認しますから。」

ジェニーは地図を取り出すと、「まずはここから。」と指示しました。


「ここって、私たちがこの国に来てから、通った川の側よね。」

「そうですね。地図に書かれているのは”ウンディーネの眼”です。先ずはこの上まで行って下さい。」

「分かったわ。」

「そうしたら、私たちの影が真ん中に集まるようにして下さいね。」

「え、傾くわよ?」

「ちょっと、止めてよ。落っこっちゃうじゃない。」

「大丈夫、”引き寄せ”は常に足元であって、下ではないのですから。」

「はあ?」

「分かったわ!」

ミーティアは呑み込みが早いのか、あわてんぼうなのか、行動は早いですね。フレイディアが、どういう事か説明してよという間もなく、石柱のエレベーターを月の光にまっすぐ向けて傾けてしまいました。

「ほら、落っこちないでしょう!」

「なによ、その自信。」

「みて下さい。」

ジェニーが影を見るように促すと、石柱の影も、三人の影も、真ん中へ向けて伸びていき、中央で結んで止まりました。

「これが、”影を岩の狭間に縫い付け、月明かりに落とせ”という問いの、解答です!」今度はジェネスが叫びました。

すると、先ほど影が交差して結んだ所、中央が揺らぎ、中から現れたのは、丸く大きなブルーダイヤです!ちょうどピンポン玉くらいの大きさでしょうか、奇麗なカットで磨き上げられたダイヤは、月明かりを受けて益々その輝きをあたりに放ち、存在感を示します。

「すごい。きれい・・・。」

三人は息を呑んで見つめていましたが、ハッと我に返ったジェネスが言いました。

「さあ、ウンディーネ、あなたの眼をお返しします。その瞳に輝きの戻らんことを!」

川の水が青く光りはじめ、空高く噴水が吹きあがりました。そしてその中心から水の精霊”ウンディーネ”が現れたのです。

「小さき妖精よ、私の眼を取り戻してくれた事を感謝します。ようやくとこれで水の番人たる勤めが果たせます。」

「あなたは、女神様ですか?」

思わず、ミーティアが聞きました。

「いいえ、私は水の妖精ウンディーネ。水の流れを作り、清め、運び育むもの。あなた方と同じ妖精です。このあたりも、先の戦いで荒れ果て、水は濁り、毒を運び、何もかもが涸れてしまいました。憎悪の妖精に眼を取られた私は、水を癒す力を失ってしまったのです。でも今、皆さんがこの眼を取り戻してくれました。これで、水の命が取り戻されます。感謝の印に、水の妖精たる魔法の言葉を授けましょう。必要な時に思った願いを言葉に乗せなさい。きっとあなた方の助けになるでしょう。」

そう言うと、噴水と共にすっと消えて行ってしまいました。

「ちょっと!感動!」フレイディアが叫びました。

「素晴らしい出会いです。私も感動しました。」

「水の妖精の魔法って何だったんだろう。まあ、必要な時に判るわよね。」

「きっとこれで、精霊のカケラを集めた事になったのよね。」

「そりゃそうよ!この調子で、カケラたちを集めて行けば、全ての妖精が復活するんだわ。」


三人が今の出来事を興奮気味に話していると、いつの間にか月明かりが無くなっています。どこからか強い冷気が充満し、黒い霧が立ち込めると、音さえ聞こえなくなりました。冷たい憎悪と孤独が、心をさいなむ様な陰鬱な空気となって、辺りを支配します。


「ちょっと震えが止まらないんだけど。」

「急にどうしたのかしら。」

「何か来ます!」

空気を引き裂くと、こんな音がするんだと初めて知りました。衝撃波が脳を強く揺さぶり、意識が一瞬にして飛ばされてしまいそうです。

ギーンッ!!と強い音がしたと思ったら、高い周波数のチーッ!!という音が耳に残り、他には何も聞こえません。そう感じた途端、黒い霧に全身が覆われて、息が吸えなくなりました。

「苦しいっ!」

「ミーティア、早く上に抜けて。」

目で合図すると、ミーティアは石柱を大きく傾け、斜めに霧を突き刺すようにして一気に上昇しました。

「はあ、はあ、はあ、はあ。」

「うわ、死ぬかと思ったわ。」

「なんなの今の。冗談じゃないっ!」

「あれを・・」とジェネスが言ったか言わないうちに、二人とも、もうその姿を認めていました。


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