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森の王

全身、まるで刃のような銀色の羽で覆われたフクロウは、石化が解けても身体を拘束した鎖までは外れません。羽を拡げようとして、それに気づくと大きく息を吐き、久しぶりの世界を隅々まで見渡してから、3人を睨みつけています。何かを探るような眼差しでしたし、値踏みするような風でもありました。とにかく嫌な見られ方をしていると思いました。

まるで蛇に睨まれたカエルのように、体がすくんで動けません。

「これは、珍しい。」

唐突にフクロウが話しました。

「!!」(喋った!)

「そこのものは森のエルフだな。そしてお前は風の大妖精の加護を受けたものか。ふむ、そしてお前は、フン普通の人の子のようだが・・いや、使い魔か?」

「友達よ!」

ミーティアは思わず言い返してしまいました。

「友とな。ふむ、いいだろう。普通の人間でないことは分かる。普通の人間ならば、この世界で自我をたもつこと等、出来ぬからな。お前たちが私の呪縛を解いたと見える。相違ないか?」

「石像が喋る大フクロウに変わったというなら、そうよ、私たちよ!そして突然喋る大フクロウが現れて、理由もなく睨まれている私たちに何か言う事は無いの!?」

「ちょっとミーティア!危ないわよ!」

「そうです。まだ何者かよく分からないのですから。」

「大丈夫よ、あいつ鎖につながれてるじゃない。動けやしないわ。」

3人がヒソヒソと話していると

「おい、お前たちは何者だ。」

と大フクロウからの先制です。

「だーかーらぁ、あんたこそ何者よ!」

とミーティアの応酬です。

何度かその大きな眼を見開いていたかと思うと、突然フクロウは大笑いし始めました。3人はあっけにとられましたが、しばらくするとフクロウが落ち着いた声で話し始めました。

「そうかこれは、失礼した。我は“サレックの森の王”と呼ばれしもの。名はポロ。こたびは我を石化の呪縛から解いてくれた事、礼を言おう。お前たちに敵意がある訳ではないが、あれほど強力な魔法を解いた事が不思議でならない。まこと訝しんでおったのだ。」

「そう、ならいいわ。私はミーティア・ホワイト。こっちは私の友達のフレイディアとジェネス。よろしくね、ポロ。」

「ご機嫌麗しゅう、王様。フレイディア・ノックスです。」

「ジェネス・ビジターです。陛下。」

「何よ、二人とも!急にかしこまっちゃって、変なの。」

「ちょっと、ミーティア!」

「よい。お前たちは我の恩人だ。構わぬ。」

こうして落ち着いて聞くと、なかなかイケメンボイスじゃない!なんて思いながら聞いていると、ポロが尋ねます。

「ところで、いささか疑問があるのだが、どのようにしてお前たちはここへたどり着いたのだ?妖精界へはコトワリの赦しが無ければ入れぬはず。」


ミーティアたちは、代わるがわるこれまでの経緯を早口で説明しました。

自分たちが来た世界の事、学校の事、キャンプの事、先生の話し、戦争や妖精のこと、突然この世界に迷い込んだ事、不思議な扉の事、光の粒たちの事、黒い影に襲われた事、そして今ここで大フクロウに睨まれた、いや、出逢った事。

余りの剣幕にフクロウ王のポロも、幾たびとなく首をグルリと回しながら、それでも黙って最後まで聞いていたようです。

「今度は、あなたの番よ!」

ミーティアはさっきから聞きたいことがあって、うずうずしていました。

「さっき、私の事を大妖精のなんとかって言ったわよね。それからジェニーのこともエルフだって。おまけに私の親友が使い魔ですって!?どういうことか説明してもらおうかしら!」

「ちょっと、ミーティア。あまり失礼な態度を取らないほうがいいわよ。」

フクロウが全身の毛を逆立てて、一瞬倍以上の姿になったのを見たフレイディアは小声で忠告します。

「なんと!何も知らんと見える!そうか、お前たち、どうやら先の戦いの事も知らぬのであれば、生きた時代が違うのであろう。よかろう、お前たちが妖精族とどのようにして生きてきたか、どうしてわしがこのような所で繋がれたか。話して聞かせよう。」

そういうと、フクロウ王は大きく息をついて、3人に尋ねます。

「まず初めに聞いておくが、お前たちはいつの時代から来たのだ?」

「そうね、私は1972年生まれよ。6月生まれの蟹座!こう見えて結構尽くすタイプよ!」

「ちょっと!」

「なんと1900年とな!20世紀だというのか!」

フクロウ王はさすがに驚きを隠せなかったのですが、そこは王様です。首を一回だけ回すと、静かに話し始めました。

「おぬしたちの時代からは、想像もつかんだろうが、1千万年以上も前、この地は雪と氷に閉ざされた、全くの尊き世界であった。白く蒼き大地はどこまでも純粋で、大地を深く覆いつくす氷床は、時に太陽の光が射すと、明るく青く澄んで輝き、太陽のない時にはまた更に白く深くその衣を厚く固くした。そこに時間は無であり、ただ荘厳で静寂で尊さのみ溢れる、そういう世界であった。」

ポロは懐かしそうに眼を瞬くと、黒目がちな瞳は更に大きく膨らんだ。

「何もない事の、美しさと怖さがそこにはあったのだ。しかし大地も次第に変わっていった。」

「そうよのう。4,5千年も前の事、少し前(!)の事ではあるが、気候は変化し少しずつ暖かくなると、氷の大地も南方より溶けていき、土の大地が現れる様になった。そうなると、氷は水となり、その水はやがて川となって低地にそそぎ大海となっていった。この頃になると、大地の熱も複雑に絡み合い、やがて気流となって空へ駆けあがり、あちこちで風が起きる様になった。もちろん海の上でもな。ほどなく、風は小さな胞子を運び、川沿いには草が芽吹き、花が咲き、実をつけ、種となり、また風に運ばれるようになっていったのだ。」

(!)はミーティアの突っ込みたくなる気持ちの表れのようです。でも話の腰を折るより、先を聞きたい気持ちのほうが勝ったようですね。

「さて、妖精というものがこの世界に誕生したのは、丁度その頃であったか」


「始めに神がいて、妖精族はその恵みから生まれたのだと言う者が出てきたが、そんなデタラメがはびこるのは、もっとずっと後のことである。妖精こそがこの世界で初めに意志を持ち、この世の全ての理の中で生まれ出でたもの。妖精こそが今この世で生きとし生けるものの、全ての根源であり、そのものの心理が抽象化され、具現化されしものであるという事。お前たちは理解しているか?」

「え、ちょっと解かんない。」

「うむ。妖精は解けて流れる雫の中で、また、気流とともに昇る風の中に生まれる。そうじゃ。静ではなく動の中にこそ生まれるものが妖精であった。それ故、地脈に生まれ、水脈に生まれ、咲く花々、育つ木々、虫や動物たち、森羅万象、あらゆる動の活力の中に妖精が生まれ、宿り、そして命を導いてゆくことや、死ですらも操る唯一のものとなっていったのだ。

妖精こそが、この世界の意志そのものであるという事。理解したかな」

「え、ちょっと解かんない・・かも」

「うむ。まあ良いわ。いずれ理解する時もくるであろうて。この北方の地より南には、ここより先に大地が動き、妖精が生まれ、人が生まれた地がある。そこはここよりも早くに気候が変動し、静から動に移ろっていった大地である。5、6千年ほど前にはもう、南方には人間どもが生まれ、その土地とともに暮らしておったが、温暖化が進むと農耕も発展し、人口が増え、また食料が必要となり、食料が増えるとまた人が増え、その為に必要な耕地を求めて、この北の地を目指してくるようになったのだ。」


ポロの話しは、たぶん4世紀から6世紀辺りの話し。

”ゲルマン大移動”といえば、それまでユラン半島、今のデンマーク辺りで暮らしていた沢山のゲルマン人たちが、ブリテン諸島や北欧に移住して暮らすようになった事だと言われています。どうやらこの頃の話のようですね。


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