2番目の街、3個目のエリア、そして坑道!
古戦場から逃げるな。
「シャームドラゴンの甲殻を持ってるなら、こんなのも作れるだろうよ」
ソフィアに案内されて訪れた装備ショップ。やはり目ぼしいものがなかったため、素材を提示すると、NPCは見たことがないーーーー初心者だから当たり前だがーーーー槍を表示した。
「ドラゴスパイク……?」
「あれでも最強種と名高い竜達の末裔だからな。名前にもドラゴンってのが付く」
ドラゴンだったのか……でもあいつはシャームって付いてる……しかもこの武器ドラゴン、じゃなくてドラゴ……でも予備を持っておくに越したことはないからな……よし。
「これ作れる?」
「おうよ……って兄ちゃん、鉱石がねぇな」
「鉱石」
よく見たら、シャームドラゴンの甲殻だけではなく、鉱石も必要素材に含まれている。えーと……魔銅鉱石?
「これはどこで手に入るんだ?」
「このセカンドグロリオから東に行くと湿地帯があってな。そこに坑道があるんだ。今はモンスターの巣窟だが……鉱脈自体はまだ生きてる」
なるほど、つまりはダンジョンというやつか。
「そこで採掘していると、たまに地脈の魔力を吸い上げた鉱石が手に入る。その1つが魔銅鉱石ってわけだ」
「へぇ……って、どうしたソフィア」
凄く嫌そうな……いや、凄く微妙な顔をしている。何だろう……俺が乱数調整に失敗した時のような……コーヒーを淹れるのに失敗した時のような顔をしている。
「ま、とりあえずツルハシは持っていけ。掘るにしても、掘る道具がねぇと始まらねぇからな」
「お、ありがとう」
とりあえずソフィアの微妙な顔は一度置いておこう。目指すは湿地帯の坑道、そこにあるという魔銅鉱石だ。ツルハシ……別のゲームで意外と振り下ろすのが大変だった記憶があるけど、大丈夫だろうか。
装備ショップを出て、坑道があるという場所に向かう道を歩いていると、ソフィアが小さく呟いた。
「乱数の時間ね」
「おっと、聞き捨てならねぇぞその言葉」
俺には嫌いなものがいくつかある。乱数、バグ、チート、グリッジ、素材を落とさない竜、素材を落とさない神。代表的なのはこれらだ。特に乱数は俺の天敵と言っても過言ではない。というかゲーマーの天敵だ。
「このゲームの素材は基本的にランダムドロップなんだけど、魔銅鉱石みたいな少し特殊な鉱石はもっと酷い確率ね。私は2時間掘り続けた記憶があるわ」
「うわぁ、聞きたくなかった」
物欲センサーというのはどのゲームにも存在しているんだな……というか比較的運がいいソフィアがそれなら、俺はもっとヤバイのでは……?
……よし、考えるのは一旦止めよう。これ以上は精神的なダメージを負うだけのような気がする。
「とにかく行こうか……坑道へ」
「そうね。……どれくらいで出るかしらね」
「やめろ! 聞きたくない!」
ソフィアめ……! そんな悪戯が成功した子供みたいな笑いを見せても許さねぇぞ!? ああ、ポイントを残していなかったことが悔やまれる……少しくらい幸運に振っておくんだった……
「ん? おーい、そこの解放者!」
俺が頭を抱えていると、年老いた男のNPCが声をかけてきた。解放者とは俺達プレイヤーのことであるのだが、何から何を解放するというのだろうか?
「どうかしたのか?」
……まぁ、考察は苦手なので、解放者云々とかは考察メインでやっているプレイヤー達に任せることに決め、俺はNPCの言葉に耳を傾ける。
「あんたら、坑道に行くんだろ?」
「何でそれを?」
「鍛治師のおっさんと話してるのを偶然聞いたのさ。あんたらに頼みがあってな……」
ピコンッ、と軽快な効果音が鳴ると共に、俺の視界にクエストの受注画面が出現した。なるほど、この街にいるNPCの誰かから坑道の話を聞くことでフラグが立つタイプのクエストがあったのか。
リーヴラシル・フロントラインのクエストは、NPCから発注されるものと、ギルドと呼ばれる施設に貼り出されているものが存在する。今回のクエストは前者だ。クエスト名は……【暗がりにて石を掘る】。
「ソフィア、受けていいか?」
「構わないわよ」
ソフィアから了解を得たので、クエストを受注。すると、NPCは嬉しそうに礼を言ってから、クエストの内容を話し始める。
「うちの若いもんが、坑道に鉱石を探しに行ったっきり帰ってこねぇ。考えたくもねぇがモンスターにやられちまったって可能性もある……! だが、俺は少しの可能性に賭けてぇ……!」
「代わりとして俺達がその人を助けに行ってほしい、ってことか?」
「ああ、そうだ! 頼む! 報酬も渡すからよ……!」
凄く感情表現が上手いな、このゲームは。積んでいるAIが優秀なのか、声音、表情、素振り、どれを見ても一級品だ。こういったNPCの挙動というのも、多くのゲーマー達がこのゲームの虜になる理由の1つなのかもしれない。
「分かった。その人を探してくるよ」
「ありがてぇ……! 地図を渡しとく! 若いもんがいるとしたら、ここと、ここと、ここのどれかだ!」
「あら……この地図、ほぼマッピングが終わってるわね」
渡されたのは目的地の坑道、その地図。しかもソフィア曰く、ショップで売っているような簡素なものではなく、ほぼ完全にマッピングされている地図だ。地図にはマーカーがあり、ここのどれかに帰ってきていないNPCがいるらしい。
探す場所は3つか……ストレージに収まったことでウィンドウ画面で表示される地図を見る限り、件の坑道はそこまで広くない。序盤のミニダンジョンといった印象だ。
「じゃあ頼んだぜ、蛇目の兄ちゃんと灰髪の姉ちゃん!」
そうして坑夫らしきNPCは去っていった。この世界に来て初めてのクエスト、少しワクワクしている自分がいる。報酬もそうだが、ダンジョンという現実世界では存在しえないものへと侵入し、攻略するという行為に心が踊っているのだ。
「行くか」
「ええ。……ところでアオヘビ君」
「ん?」
「坑道には松明を持っていくことをおすすめするわ」
現実遵守で暗いってか? 坑道なら光源置いておけよ。
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2番目の街、セカンドグロリオから東へと進んですぐに現れる湿地帯ーーーー名を【悪路苦進の湿地帯】。じめじめとしていて、スライムやらカエルやら……そういう水場にいそうなモンスターが多めに闊歩しているエリアだ。
時折プレイヤーを見るが、誰もが凄く歩きにくそうである。アイテムショップに水避けの秘薬という変なアイテムが売っていたが、ここで使うものだったのか……
「少しぐらい買っておけば良かったなぁ……」
ソフィアと予定が合わない時にここへ行く時は、必ずいくつか買っておくことにしよう。
「あら、魔法じゃ不満?」
「いや、そういうわけじゃないけどさぁ」
本来なら歩きにくい道であっても、ソフィアのお陰で歩きやすい。脚装備に氷属性のエンチャントを施してもらっているからだ。1歩、また1歩進む度に氷が生まれて足場となるため、快適な移動ができている。レベル差によるパワープレイはしないが、こういう細かいところで助けてもらう。レベル差が埋まったら本格的に一緒にプレイ。どのゲームでも俺達はそんな感じの関係性を築いていた。
「レベルがカンストするまで、アオヘビ君はどれくらいかかるのかしらね」
「すぐ追い付くっての」
「ふふ、どうだかね」
信用がねぇな? 俺の集中レベリングを知らないからこその考え方なのだろうが。
ソフィアと軽く駄弁りながら歩いていると、ボロボロの標識板が見える場所までやってくる。この先に坑道があることを示している標識のようだ。
「この先に坑道がねぇ……? 何か、ざわめきの森と繋がってそうな感じがするんだが」
明らかに湿地帯とは思えない植物達ーーーー森の先にあるみたいだし。
「まぁ、その辺りも行けば分かるわ」
「何か知ってるな?」
「まぁ、リリース当初からやってるからね、私」
「ふーん……レベルキャップは?」
「現在確認されている最大上限は150ね」
おや、99がカンストじゃないのか。ならソフィアもまだ伸び代が……もしかして、レベルキャップ外した瞬間、レベル150にするために99のままにしていらっしゃる?
「ほら、行くわよ」
「はいよ。何が出てくるんだろうなぁ……」
坑道に現れるモンスター……コウモリとか、ゴブリンとかだろうか? それとも鉱石を纏ったゴーレムみたいなモンスター? どちらにせよ、楽しみだ。もちろん、NPCを探すことも忘れてはいけないのだが。