ゴブリン先生による集団戦の極意
この作品を読んでくださっている76名の読者様、今年は大変お世話になりました。来年もよろしくお願いします。(年明けちょっと前に投稿する投稿者のクズ)
「とりあえず攻撃モーションを見せてもらおうか!ソウルデコイ!」
俺のHPの三分の一が削れ、俺の姿をした影人間が現れる。それは動くことがないものの、ゴブリン達はそれを俺だと勘違いしたように突撃をかます。ソウルデコイ、自身のHPを三分の一消費することでヘイトを強制的に押し付けることができるデコイを生みだすことができるスキルだ。HPを結構振っているタンクなら何度も使える……というわけでもなく、固定で三分の一持っていかれるので、誰が使っても性能はそこまで変わらない。ただし、装備の効果も再現するので、攻撃に反応する効果を持った装備をしていれば色々悪いことができそうだ。
そんな影人間に向かって突撃していくゴブリン達は、見事なまでの連携で影人間をタコ殴りにしてしまう。まずは手斧を持ったゴブリンが斬り込み、その後ろから短剣を持ったゴブリンがアンブッシュ気味に刺突を繰り出し、後方に回り込んでいた棍棒を持ったゴブリンが飛び上がって後頭部をぶっ叩く。そしてとどめをゴブリンブレイバーがツヴァイへンダーっぽい大剣で行う。お手本のような数の暴力だ。
「これ、連携ってだけで他にもモーションあるんだよな?」
「そうだねぇ。ある程度慣れてきたプレイヤーの甘えた行動を刈り取ってくるよぉ」
「なるほど、初心者卒業式モンスターってわけね」
ソウルデコイが消えたことで本体の俺に向かってくるゴブリン達を前にして、ラザニと出会ったゲームである【ワークインセクター】というゲームを思い出す。あのゲームでラザニと出会った時も集団で襲ってきたプレイヤーやMOBとの戦闘をやった覚えがある。その時はラザニにおんぶにだっこだったが、今は違う。
「ドラゴンロアッ!!」
竜の咆哮にも、竜に挑む者の雄叫びにも聞こえる叫び声が俺の喉から発せられ、範囲攻撃を喰らったゴブリンのヘイトが全て俺に向く。ちなみにドラゴンロアの攻撃範囲はスタミナ依存。ただし、攻撃力は固定。ダメージはおまけで、ヘイトを稼ぐのとバフがメインだから仕方がない。スキルの詳細を掲示板やサイトで調べるとドラゴンロアの威力を上げろとかそういったコメントがあったりするが、ヘイトとバフがメインだから仕方ないだろうと思うのだが……分離して別のスキルと融合すればいいはずだが、分離しないということは、この先のスキルで何かいいものでもあるのだろうか?
「ゴブリンって賢いイメージなかったんだけど……なっ!」
突撃してくるゴブリンの一体目、その攻撃を受けるのではなく横ステップで回避することを選択し、後ろから飛び出した短剣持ちゴブリンの顔面に向けて、シールドバッシュを叩き込む。
このスキルを手に入れてから全く使ったことがなかったが、ほぼ木製のバックラーであっても凄いノックバックが発生するようで。盾に顔面をぶん殴られたゴブリンがゴブリンブレイバーを巻き込むルートで吹っ飛んだ。なおゴブリンブレイバーは吹っ飛んできたゴブリンを華麗に回避した。遺跡の残骸に激突した短剣持ちゴブリンは頭を強く打ったようで、スタン状態になっている。ちなみに俺が回避した斧持ちゴブリンはティアラによって細切れにされた。哀れゴブリン。
「ギャギャギャギャギャギャ!!」
「何言ってるのか分かんねぇ。せめて英語で頼むわ」
棍棒を振り回すゴブリンの攻撃を盾で弾き、呪毒の槍を突き立てる。スライムオブレギオンにも通用した呪毒はこのゴブリンにも通用するはず。そう思って叩き込んだのだが、毒になる前にゴブリンが爆散した。………………ああ、そうかレベルが上がったからか。適正レベルじゃないもんな、ここ。
今の俺のレベルは80で、ジョブレベルも含めたら100を超える。あの修羅の国に籠ったり、カリュドーンと戦ったり、テンライとかいう上澄みを更に濾して煮詰めた上澄みみたいな存在と戦ったりしていたから強くなった感覚が少なかったものの、俺は四つ目の街に向かう時のレベルではないのだ。つまり、雑魚相手ならある程度雑に戦っても勝てる。
「ギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャ!!!!」
「ま、ちゃんと丁寧に立ち回るけどな!」
臆せば死ぬとでも言わんばかりの雄叫びを上げてツヴァイへンダーを振り下ろしてきたゴブリンブレイバーをパリィングカウンターで迎撃する。テンライの一撃を思えば何と軽い一撃か。
大きく仰け反ったゴブリンブレイバーは大きな隙を晒しているが、まだ闘志が燃え尽きているようには見えない。ブレイバーの名に恥じない闘志は見事だと称賛したいところだが、お前はもう詰んでいる。俺がスキルを使って攻撃するまでもない。なぜなら、大きな隙を晒した相手を前に涎を垂らして攻撃を仕掛けるやつがここにいるからだ。
「美味しいところ貰っちゃうようであれだけどぉ……コメットインパクト!」
グシャアッ!! と飛び上がったラザニが振り降ろした巨大ハンマーが打撃音を超えた破砕音を掻き鳴らし、ゴブリンブレイバーを叩き潰してしまった。見事な筋肉の鎧を貫通してぺしゃんこにされてしまったゴブリンブレイバーは、何か抵抗ができるわけもなくポリゴンとなって爆散する。そもそも、このエリアのレベル帯が400代の筋力に適うわけもないのだ。大きな壺に俺とティアラを入れて運べるくらいの筋力ってことは、STRが400を超えている気がするものの……まあ、ステータスの過度な詮索はマナー違反。親しき中にも礼儀ありという言葉もある。
そんなことを考えている間にスタンから復帰した短剣持ちゴブリンは、状況を確認して「えっ、マジですか?」みたいな表情を浮かべていた。本当に凝ってるなぁ、リヴライン。だからといって慈悲を与えるほど俺は優しくないが。
「ほい、終わり」
辞世の句を詠ませることも、断末魔を上げることも許さずスパイラルバーストで確実に仕留める。オーバーキルだろうが、知ったことか。援軍を呼ばれたら数の暴力が再開されるかもしれないだろうが。
「他にモンスターは見えませんね」
「とりあえず終わりかなぁ? お疲れ~」
ゴブリンブレイバーとその取り巻きを撃破してリザルトを確認する。素材は……お、何か落ちてるな。アプデで一定以上の高レア素材以外は地面に落ちるようになったんだったか。さっさと回収してボスエリアまで行かないとな。もたもたしていたらサードグロリオで接触してきたようなプレイヤーに出くわす可能性もあるし。
「あ、団長、僕の分の素材も持って行っていいよぉ」
「ん? アイテムは分配だろ」
「いやぁ、今素材持っちゃうと重くなっちゃうんだよねぇ」
「どんだけ持ってきてるんだよお前」
この世界におけるインベントリは、無限にアイテムを入れることができるわけではない。アイテムを溜め込み過ぎる――――具体的にはインベントリが九割以上埋まってしまった時、重量過多となって動きが鈍るそうだ。その場合はアイテムを捨てたり、他のパーティーメンバーに預けたりすればいいのだが、ソロで活動しているプレイヤーはそれが難しい。だからというわけではないが、四つ目の街からインベントリの拡張を行うことができる店が存在する。料金は少々高いものの、動きが鈍ってモンスターやPKを行うプレイヤーに襲われてしまうことを考えると安いだろう。
俺もそろそろお金を貯めてインベントリの拡張に手を付けてもいいかなと考えているので、四つ目の街に到着したらインベントリ拡張を行う店を探そうと思っている。
・古代の遺物
遺跡から発掘された遺物の一つ。何のために作られたのか、何の用途があるのかは全く分からない風化したもの。
鑑定を行うことでその似姿を見ることができるかもしれない。
過去の文明に想いを馳せることもまた、考古学の醍醐味というものだろうか。
・故知らぬ両手剣
ゴブリンブレイバーが奪ったのであろう、名も知らぬ誰かの両手剣。ゴブリンなりの手入れが施されているが、技無き力任せの攻撃を繰り返した結果、随分と摩耗している。
修理したとしても、本来の姿を手にすることは二度とないだろうそれはしかし、未だ武器としての誇りを忘れていない。
「んー?」
古代の遺物はともかくとして、この故知らぬ両手剣とやら、修理しても治らないようだ。ということは打ち直せば別の武器に生まれ変わるのだろう。というかゴブリンはやはりゴブリンなのか? いやでも倒したやつの武器を戦利品として持ち帰って自分のものにするっていう行為自体はゲーマーなら結構やることだしな……
「まぁ、あとで打ち直してみるか」
どんな武器になるのか気になるしな。鉱石、モンスターの素材……どっちも使うべきか。選択肢が多いってのはいいもんだ。色んな武器があるゲームなら、色んな武器を使いたくなるのがゲーマーの性というやつである。次の街に着いたら打ち直しに必要な素材を探しに行くとしよう。鉱石の発掘場所、プレイヤーで溢れ返っていないといいんだけど。
「渓谷ってこともあって、ただひたすら真っ直ぐ進むだけだな」
「そうですね。何も考えることがないというのも、時には良いことです」
「腐敗の女神フレアがいるらしい地下ダンジョンは超入り組んでるらしいねぇ」
遺跡の残骸が散らばる渓谷をただひたすら真っ直ぐ進むだけというシンプルな道は、モンスターもそこまで現れることがなく、本当に静かなものだ。たまにゴブリンとかが現れる程度で、特徴的なモンスターは現れていない。ゴブリンブレイバーとその取り巻きがいたくらいで、凄く強いモンスターとか、このエリアにのみ現れるようなモンスターは現れていない。
設定的にも遺跡の残骸がモンスター除けになっているって話だったし、モンスター除けをものともしない――――もしくは気にしないモンスターしか現れないのだろう。その中の一種類がゴブリンというのは、何か理由があるのだろうか。
「そういえばテンライはどうだったぁ?」
「超楽しかった」
「だろうねぇ。いいなぁ、ぶっつけ本番、僕も参加したかったなぁ」
「今度強そうなやついたら皆でやろうぜ」
その時は七人全員揃っているといいんだが……まぁ、皆それぞれ用事があるから噛み合わないと全員集まるってのは難しいんだよな。初めてのオフ会なんかも色々試行錯誤して年長組にセッティングしてもらったし。ソフィア達にもこの現状を報告しておくべきだよな、きっと。じゃないと絶対に色々厄介なことが起きそうだ。
「四つ目の街に待ち伏せいると思うか?」
「いるかもねぇ。フォースグロリオ着く前に壺にまた戻ってねぇ」
「助かります」
ティアラがいるお蔭でギルドの部屋を格安で借りることができるため、街に入ってギルドに辿り着ければこちらのものだ。変装のことも考えないとだけど、今はまだ考えないようにする。
それはそうと、最近鈴音姉さんが事あるごとに予定を差し込もうとしてくるのが凄く怪しい。しかも花音姉さんと紅兄さんも差し込んできているのが怪しさを加速させている。別にダンスイベントとやらを見に行くのはいい。鈴音姉さんのダンスを見るのは嫌いじゃないし、むしろ好きだから問題ない。だが、ダンスの体験ができるというのが俺の足を鎖で縛り付ける。さらに言えばプライベートじゃないソフィアにエンカウントするかもしれないというのがあれだ。仕事モードのソフィアを見たら、いつも見ているソフィアの姿との差異で絶対に笑ってしまう。いや、尊敬はしている。尊敬はしているのだが、やはりソフィアはソフィアなのだ。俺にとっての認識は『有名人かもしれないけど、ゲーム好きで歌が得意な美人な女の子ってだけ』なのだ。多分他の皆もそういう認識だ。
「…………」
今後の予定とか色々考えている間に、今まで見ていた渓谷よりも開けた場所に辿り着いた。
「十中八九ボスエリアだよな、これ」
「そうだねぇ」
「ゴーレムが見当たりませんが、注意を」
目視できる限り、プレイヤーもボスモンスターも見当たらないため、ボスに挑戦することが可能だろう。どんな感じに現れるのかちょっと楽しみ。
「んじゃ行くか……」
「ポーションとか飲まなくていい~?」
「問題ないだろ、レベル差的にも」
ただ油断はしないようにしないとな。
ゴーレムという情報からして、毒は効かないだろうと予想を立てた俺は武器をドラゴスパイクに変える。巨骸骨刀も使いたいんだけど、今回は槍だ。
ボスエリアに侵入し、遺跡の残骸らしきものが散らばる広い空間を見回していると、広場の中心にボーリングの玉くらいの大きさの黒い球体があることに気付く。その球体に気付いた直後、その球体が震え始め――――遺跡の残骸がどんどん球体に集まっていく。
ガチャン、ガチャン、ゴゴゴゴ、ガガガギギギ、とけたたましい音を鳴らし、無機物の巨獣が現れた。遺跡の残骸を無理矢理繋ぎ合わせたような、不自然な見た目をしているものの、熊のようにご立派な四本の脚が獣感を強くしている。本体である球体を守るヤマアラシのように分厚く刺々しい装甲を貫くのは、本来なら至難の業だろうが、今回はラザニもいるし、魔法や呪術の剣を使えるティアラがいる。俺もリーチが売りの槍使い。苦戦することは……多分ないはずだ。
そして最後に凄く印象的に感じるのは、奴の顔。葉脈のような線が球体を中心にして定期的に光るのも気になるが、顔だ。顔が……こう、人間と鳥とトカゲを足して3で割らずにぶちまけたような冒涜的な見た目をしている。金属やら岩やらで構成されているからこそ、気持ち悪さが引き立てられている気がする。
「あれがゴーレムってことでいいんだよな?」
「はい。古の残骸巨獣。ギルドでは一応ゴーレムとして登録されています」
「まぁ、被造物だしねぇ……ゴーレムってカテゴリでいいのか」
これが生物のあれこれを繋ぎ合わせていたら、きっとSAN値を全力で削ってくる見た目をしていたに違いない。
懐かしいなぁ、去年の夏にソフィアと一緒にVRホラーゲームをやってギャーギャー騒いで汗びしょびしょになったり、お互いに寝ることができずに寝落ちするまで電話したりした思い出……二度とやるかよということでゲームソフトを置いている棚の奥に封印しているあのホラーゲーム、アプデが入って更に怖くなったことでR18指定を頂いたとかなんとか聞いたので、本当に二度とやることはないだろう。
「――――――――――――!!!!!」
「まぁ、とにかく……やるか!!」
どこに声帯があるのか全く分からない古の残骸巨獣が咆哮すると同時に、俺達も戦闘態勢に移行する。さぁ、お前は楽しいボスか?




