お前もまた強敵であった。
新年、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
俺の目の前にいるシャームドラゴンの攻撃パターン、その予想は大きく分けて4つ。噛みつき、爪での攻撃、尻尾による薙ぎ払い、そして転がる……この4つである。
だって見るからにアルマジロな蜥蜴だし。アルマジロとコモドドラゴンが合体したような姿をしているのだ。間違いなく転がってくる。大技に分類されるであろうそれを放つ時、必ずモーションが発生するはずなので、注意しておきたい。
「ギュルルォッ!」
って、早速かよ!? 意外と機敏だなお前!?
「カウンターバッシュ!!」
転がりながら迫り来る巨大なボーリング玉を拳で迎え撃つ。ガリッ、と自身のHPが削れたのを見て、パワー負けしてるのを確信する。なので、このまま馬鹿正直に正面弾きをするのではなく、受け流しで対応! カウンターバッシュ、意外と融通が利くスキルだな! 受け流したら、横からソニックパイクを発動するがーーーー硬いものにぶつかったような音が響いた。
「ハハハッ! 硬いなぁっと!?」
お返しとばかりに放ってきた引っ掻き連打からの噛みつきフィニッシュを捌きつつ、俺はアルマジロ蜥蜴もとい、シャームドラゴンを観察する。
図体のわりに俊敏で、硬い。確かにこれは初心者がソロで戦うことは難しいだろう。マルチ前提難易度、というやつである。けどなぁ……!
「こちとらソロで上位ランカー集団相手にしたこともあるんだよ!! ふざけやがってあの戦闘狂共!!」
「嫌われてるのね、あなた」
ソフィアが何か言ったような気がするが無視! 反応している余裕や心の隙間など、今の俺にはない!
ああ、楽しい! 目の前にいる強敵との戦いが楽しくて仕方がない! 一撃喰らえば紙装甲の俺は瀕死になるであろう攻撃! 速いけど、捌けないわけじゃないくらいの速度! 間違いなく序盤のボスとしての貫禄がある素晴らしい難易度。夜だから強くなってるのもあるが、こんなに楽しいボス戦は久しぶりだ。
断言しよう、シャームドラゴン。お前は俺を、間違いなくこの世界の沼へと沈めた!!
「その、お礼は……しねぇとなぁ!!」
そら来たぞ、引っ掻き6連続からのディレイ噛みつきフィニッシュ。引っ掻きは右、左、右、左と動きが6回。これを槍と籠手で弾き、受け流したら次は噛みつき。体感3秒くらいのディレイがあるので、噛みつきのモーションが見えたら心の中でカウント。
「ーーーー今ぁッ! カウンターバッシュ!!」
噛みつきに合わせたカウンターバッシュは、クリティカルのエフェクトと共に、シャームドラゴンの体を大きく仰け反らせる。仰け反り、倒れたやつがさらけ出している腹は、明らかに弱点だと分かるくらい柔らかそうだ。
そんな柔らかそうな部位に対して放つのは、リキャストが終わったソニックパイク。さっきのようには弾かれず、古草原の槍が深く突き刺さる。間違いなくクリティカル!!
「ひっくり返ったら起き上がるまでに時間がかかるみたいだなぁ!?」
復帰しようとしてもがいているシャームドラゴンの弱点部位を滅多刺しにしながら、あとどれくらいで倒せるのかと考える。最近のーーーーというか、VRゲームの殆どがボスなどのエネミーのHPを表示しない。ちょっとだけ億劫になる時があるのは否めないが……まぁ、死ぬまで殴ればHP表示などなくてもいいんだけど。
クリティカルのエフェクトは出てるけど、まだ倒せないだろうなぁ、と思った矢先。アルマジロ蜥蜴が体勢を立て直そうと体を横に動かしたため、腹の上から離脱する。飛び退く直後に俺を引っ掻こうとしてきたのは、中々初見殺しが過ぎないかね? それはそれで楽しいから良し!!
「楽しいなぁ、アルマジロモドキよぉ!?」
初見だけどなぁ……初心者の壁だからかモーションも簡単で慣れてきた! 噛みつきからの派生は3連引っ掻きのみ。6連引っ掻きは威嚇行動あり。それと尻尾は突進してきた後すぐにドリフトみてぇな動きからァ!!
「転がりは知らん! カウンターバッシュ!」
受け流せるなら問題ない。多分、スキル使わず受け流そうとすると大きいダメージ喰らうだろうが。
弾き、避けて、攻撃して……的確なタイミングでスキルを入れる。大雑把かもしれないが、どんなゲームでもそういう戦い方が基本になる。どんなに強力な攻撃スキルや魔法があっても、当たらなければ意味がない。それは敵にしたってそうだ。どれだけ強力な力を持ってる敵だとしても、その攻撃を全て弾くか避けるかすれば、こっちはノーダメージクリアが可能。オワタ式だろうが何であろうが、とりあえず殴り続ければ相手はいつか死ぬし、喰らわなければこちらが死ぬことはない。
さて、そんなことを考えている間に、シャームドラゴンの動きが若干速く、そして大雑把になってきた。ソフィア曰く、このゲームのモンスターはHPが0に近付くと動きのキレや速度が上がるという。その代わりに攻撃が大雑把になるため、ある程度やり込んだプレイヤーはモンスターの残りHPをそういった変化で把握しているそうだ。
「さぁて、シャームドラゴン……」
「ギュルルル……」
ボロボローーーーと言ってもお互いにHPは見えていないし、砂埃が軽く付着している程度だが……それでも俺とシャームドラゴンの間に、シンパシー……じゃないけど……うーん………………そう、目の前にいる敵に負けたくないという闘争本能のようなものがお互いに溢れている。相手はデータの塊ーーーーAIだというのに。
「お前と、俺……最後に立ってるのはどっちか」
「ギュルルルル……!」
凄く上等なAIを積んでいるのか、俺の言葉に反応するように唸り声を上げるシャームドラゴン。心なしか笑っているようにも見える。全力の突撃をかましてくるであろう奴に対し、俺も歯を見せるように笑う。
「最後の激突と行こうじゃねぇか!!」
「ギュルルルルォオオオオオオッッッ!!!!」
発狂状態にでも突入したのか、シャームドラゴンが最初に放ってきたのは突進からの噛みつき。その数秒後には高速で立ち上がって引っ掻き連打。そこから噛みつき派生ではなく、なんとのし掛かりプレスを放ってきた! いきなり初見の技出さないでくれますぅ!? ワクワクしちゃうだろ!!
爪は弾く! 牙は避ける! バックステップからの突進ドリフト! 尻尾攻撃なのでジャンプ! 回転攻撃はーーーーしてこない! 上空にいる俺を噛みつき攻撃で仕留めようと構えるシャームドラゴンを見て、俺は勝利を確信する。残念だったな、シャームドラゴン!
「リキャストは終わってるんだよ!!」
安心と信頼のカウンターバッシュ発動! 大きく口を開いたシャームドラゴンの顔面に突き刺さる拳は、奴をもう一度大きく仰け反らせ、転倒させた。
「じゃあな、シャームドラゴン。楽しかったぜ!」
腹の上に降り立った俺は、槍を振り回す。気持ちいいくらいのクリティカルエフェクトとポリゴンを撒き散らしながら、最後の一撃としてリキャストが終了していたソニックパイクを放つ。
その瞬間、シャームドラゴンの体が不自然に硬直し、ポリゴンの塊となって爆散した。
「……しゃあっ!!」
シャームドラゴン(よるのすがた)討伐完了! 経験値美味しい! ドロップアイテムもあるし、最高!
「お疲れ様、アオヘビ君」
「おう、ソフィア。やってやったぜ」
レベルアップもしたので、スキルポイントが振り分けられる。このゲームはパーティーを組んでいても、その戦闘でどれだけ貢献したのかで経験値が振り分けられるため、参加していなかったソフィアに経験値は入らなかったようだ。面白味のない寄生プレイは絶対に許さない、という信念が感じられるシステムである。
「夜のシャームドラゴンは結構強いんだけど……本当にソロ討伐しちゃったわね」
「初心者の壁……ではあったけど、読みやすいモーションばっかりだったからな。楽しかったぁ……!」
「ソロ討伐したし、称号も手に入ったんじゃない?」
称号? …………ああ、システムウィンドウの装備メニューの下にあるな。どれどれ……?
「【竜狩りの始まり……?】、【ざわめく森の夜の主】ってやつ?」
「それね。前者はシャームドラゴンをソロ討伐。夜のシャームドラゴンを討伐で獲得できる称号よ」
へぇ、称号ごとに報酬も用意されてるのか……討伐系、収集系、探索系と幅広いな。これは捗りそうだぁ……
「さて、ボスは倒したし、次の街に行きましょうか?」
「だな。多分、ここら辺のモンスターは雑魚になっちゃっただろうし……あ、ステ振りさせて」
レベル16になった俺のステータス更新は……こんな感じ。
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プレイヤーネーム:アオヘビ
レベル:16
職業:戦士
所持金:1000ギール
体力:35
魔力:10
持久:20→30
筋力:15→21
敏捷:35
技術:56
耐久:5(10)
幸運:20
スキル
クイックステップ→バーストステップ
ソニックパイク→ソニックランス
バックスラッシュ
スパイラルスタブ
シールドバッシュ
カウンターバッシュ→パリングカウンター
エンデュアーアジリティ→エンデュアーアジリティⅡ
エンデュアーテクニック
ドラゴンスレイ
装備
古草原の槍
闘士の籠手
頭:戦士の額当て
胴:戦士の胸当て
腕:戦士の腕巻き
腰:戦士の腰布
脚:戦士の靴
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何か色々増えてるけど、とりあえず保留。結構な時間やってるし……街に向かってリスポーン地点を変えたら一度落ちようかな。