縛りプレイは変態プレイの第一歩
「んで、どんなイベントがあるんだ?」
俺の見立てだと、上位職になるまでの時間が短縮されるだとか、そういった経験値系のボーナスが発生すると見るが。
「このゲームの検証組が検証して判明したのは、上位職へのジョブチェンジクエストの発生速度の変化ね」
「熟練度が全てメインに注がれるからか?」
「ええ。生産職+戦闘職だとまた話が変わるみたいだけど」
ただし、職業の熟練度は格下を倒しているだけでは上がらないようだ。職業経験値、職業称号と呼ばれるものがあるらしい。ただしこれは内部データで裏ステータスのようなもの……とりあえず戦っていれば、戦闘職はそのうち上がるそうだ。
「ただ、デメリットもあるわね。一番はサブのステータスの補正を貰えないことかしら」
「なるほど?」
サブの職を手に入れることで、武器適性やステータス補正も増えるから戦闘の幅も広がるのだという。ステータス補正はあくまでもサブということで低いらしいが。
「だから基本的にはサブクラスを取る必要があるわ」
「先生、質問です」
「はい、なんでしょう?」
「サブは上位になりますか?」
「ならないわね。当たり前だけど」
「ならいいや」
サブも上位職になるのなら、戦士とシナジーがありそうなサブも育てて行こうという気にもなれたが、そういうのがないのであればいいや。
手札はたくさんあるといいけど、多すぎると出し切らずに死ぬ、なんてことになりかねない。過去の俺はロマンコンボを決めようとして何度かやられている。ロマンコンボはロマンであるからこそ美しいのだ。ロマンが何なのかって? ロマンはロマンだろ。そこにロマン以外の何を求めるんだよロマン。
「アイテムの補充だけど……さっきお金使ったからなぁ……」
「アイテムくらいなら対価なしで融通するわよ」
「何を考えていやがる?」
「信用ないわね。対価なしで、って言ってるじゃない」
何も考えていないのなら、その何か企んでいますって笑みを浮かべるのをやめろ。確かに打算ありきの善意の方が分かりやすくていいとは言ったが、それは常にそうであってほしいという意味ではないんだよ。
「まぁ、あとで消費分は払ってもらうけど」
「あ、思ったより普通の対価だった」
高難易度クエストとか、面倒くさいクエストとかに連れていかれるのかと思ってた。高難易度は大歓迎だが、面倒くさいクエストは勘弁。特にデート系クエストとか。好感度稼ぎなど俺にはできない芸当だ。そこら辺は毎年毎日毎時間毎分毎秒彼女さんの尻に敷かれている兄貴に任せる。
「何を要求されると思ったの?」
「俺やお前が苦手なタイプのクエの手伝い」
「あら、それもいいわね」
あ、くそ! やぶ蛇だった!!
「冗談よ。そのうちアオヘビ君の狂人プレイヤースキルに助けてもらうつもりではあるけどね」
「褒めてるつもりか?」
ソフィアは何も言わず小さく笑みを浮かべるだけ。凄く絵になるが、忘れることなかれ。こいつも俺と同じ変態ビルドや変態スタイルに魂を売った変態なのだ。
さて、ここいらでこいつの悪行、もとい変態行為、もとい偉業を述べておこう。俺がソフィアと初めて出会ったゲーム……イモータル・デストラクション、略して芋デス、あるいは芋死での偉業をな。
そのゲームは不死を探求する者と不死を殲滅する者に分かれて戦うチームデスマッチゲームだったのだが、まぁ、よくあるFPSのようにロールアウトが決められている。そのゲームにおいてソフィアが使っていたロールアウトは……いわゆる速度が上がるアドレナリンだの弾薬補給だので後方支援や回復を行う衛生兵などの後衛ロールアウトだ。
そこまではいいんだよ、そこまでは。目の前で俺に笑みを向けている彼女は、そんなロールアウトの役目を捨てて、自分に薬品使いながら最前線に突撃しまくっていた。しかも薬品の使いすぎで死ぬオーバードーズまでに最低でも9キル、最高で30キルしてくる化け物であった。しかも得物は使えるのなら取り回し最強と謳われた癖強武器、小型マチェット二刀流である。俺? 刀モドキの電磁ブレードとリボルバーでしたが? 弾丸だろうがハンマーだろうがマチェットだろうが弾けばいいんだよ。リボルバーは飾り。ハジキはいらん。
初めて出会った時は驚いたね。俺以外にも変態がいるのを見て。お互いに「「変態だ!!」」と叫んだのは今でも忘れていない。
そしてそんなソフィアは、この世界でも変態ビルドや変態スタイルに魂を売っている生粋の変態プレイヤーなのだ! その心意気、見習いたいぜソフィア……!!
「アイテムとかもいいのなら……フィールドで稼ぎましょうか」
「パワープレイはしねぇからな」
「それは無粋だから頼まれても絶対しないわ」
ほぼ初期からやっているというソフィアのレベルはカンストに至っている。ここら辺のモンスターは確実に雑魚だろう。だから今回、ソフィアには悪いが後方で俺を見ているだけにしてもらうと決めている。正直ソフィアの戦闘スタイルは見てみたいけど。
「で? 【穏やかな草原】の夜モンスターでも狩るのか?」
「それじゃあ面白くないわ。森に行きましょう」
森……ああ、コボルトが出てきたあそこか。あそこの適正レベルってどれくらいなんだろうか……ボスとかは大体10~15ってイメージだけど、他が分からない。
「夜間の森ーーーー夜の【ざわめきの森】の推奨レベルは13~17。エリアボスのレベルも変化してるわよ」
「やり応えがあるじゃねぇの……!!」
まだ初めて数時間しか経っていないが言わせてくれ……最高だぜ、リーヴラシル・フロントライン!! サービス終了まで……いや、サービス終了しても着いていくぜ!!
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……強くない? ねぇ、俺、こんなモーションしてくるコボルト知らないんだけど?
「「ガルルァッ!!」」
簡単なフェイントはもちろんのこと、コンビネーション攻撃! さらに攻撃速度も昼間のコボルトよりも速くなっている。ということは火力も上がってんなぁ?
「援護は?」
「いらねぇよ! ハッハァッ! 楽しくなってきたぁ!!」
「グルゥッ!?」
1体目の攻撃をスキルではなく普通に籠手でパリィ! そんでもってぇ……!
「《カウンターバッシュ》!!」
「ガルァッ!?」
突進してきたコボルトの槍を、スキルを発動した闘士の籠手で弾き飛ばす! パリィやカウンターをし続けて手に入れたスキル、《カウンターバッシュ》……名前の通りカウンター系のスキルで、パリィにも使える。パリィとカウンターが合体したスキルとでも言えばいいだろう。
「ところで人狼コンビ。横一列になってていいのか?」
しかも武器を取りに背を向けて。喰らいやがれ!
「《バックスラッシュ》!!」
背面からの攻撃によるクリティカル+古草原の槍のクリティカルボーナス+攻撃スキル=相手は死ぬ! 最高だぜ古草原の槍! マジでずっとお世話になりそうな武器だなぁ!!
さて、断末魔すら上げることなく消えていくコボルト(夜の姿)を見送り、ドロップアイテムと経験値の確認を行う。……マーベラス。経験値美味しい! ドロップアイテムも出た!
「俺は今、乱数の神に温情を与えられている……」
「深夜テンションでおかしくなった?」
失礼な。乱数の神からの温情は大事だぞ。特にドロップ率とかドロップ率とかドロップ率とかドロップ率とか。幸運ステータスを上げればドロップ率は上がる。今度のレベルアップのポイントは幸運とスタミナに振ろう。耐久? どんな攻撃だろうが喰らわなきゃノーダメージだろ。躱せ、弾け。んでもって殴れ。そうすれば敵は死ぬ。
アイテムと経験値の確認を終えた俺は、槍を背中に戻してソフィアに体を向ける。
「ソフィア、この森のエリアボスって誰よ」
「シャームドラゴンね」
「シャーム……? ドラゴン出るの早くないか?」
ドラゴンと言えば、ファンタジー世界の王道オブ王道の存在だろうに。こんな序盤に出ていいモンスターじゃないはずだ。
俺の疑問を感じ取ったのか、ソフィアは小さく笑ってから口を開く。
「シャームドラゴンはただの大きな蜥蜴。つまりはパチモノよ」
「ああ、似非って意味か」
マジのドラゴンが出てきたらどうしようかと思ったよ。ドラゴンにはいい思い出がそこまでないんだよな……焼き肉にされたり、消し炭にされたりしてるから。あと、丸呑みにされたりもした。ふざけやがって。
「アオヘビ君、憎悪が顔に出てるわよ」
「おっと失礼。ドラゴンと聞くと憎悪が」
「どこのドラゴンスレイヤーよ……」
「あいつらのいいところは素材を落としてくれるところぐらいだ」
いかん、思い出したら腹が立ってきた。切り替えていこう。
「とりあえず行こうぜ、ボス戦」
「ええ。ボス戦でも私は待機でいいの?」
「もちろん!ここら辺のモンスター、ソフィアにかかれば雑魚だろ? レベル差がありすぎる」
ボスがいるという場所に向かいながら会話する。このゲームが楽しいだとか、最近リアルでこういうことがあったとか……そういう下らない話だけど。
こういう移動時間、昔のゲームはチャットやボイスチャットを使って会話をしていた。けど、フルダイブ型ゲームだと、面と向かって話せるし、表情も……顔が隠れる装備じゃなければ分かる。コミュニケーション能力を鍛えるためのゲームがあるくらい、VRゲームっていうのは世界のゲームを変えた。レトロなゲームも面白いけど、やっぱり自分がゲームの世界に飛び込めるというワクワク感は、VRゲームじゃないと体験できないものだ。
「そういえば、ソフィアのエンチャントって、どれくらい保つんだ?」
「大体2分くらいかしら。エンチャント延長アクセサリーも合わせると5分くらいね」
魔法属性を武器に付与できる職業、付与魔術師。ソフィア曰く魔法使いから派生する上級職であり、魔法使いが初期から覚えている属性付与魔法のみを最後まで強化することで派生クエストが発生するそうだ。
……そう、それだけを最終強化することで発生するクエストをクリアして、この職業は手に入る。その際、普通の攻撃魔法やバフなどの魔法を強化すると、別の上級職のクエストがーーーー賢者や魔法師という上級職のクエストが発生するという。本来なら広範囲バフなどの支援魔法が豊富な賢者を取るか、強力な攻撃魔法がある魔法師を取るのがセオリー……なのだが、ソフィアはそれを選ばず、付与魔導師の道を走り抜けたのである。
「ソフィアも大概変態だよなぁ」
「あなただけには言われたくないわ……っと、着いたわね」
こんな軽口を叩き合っている間に、件のエリアボスがいる場所に到着したようだ。森の中に、開けたフィールド……間違いなくボスエリア、その中心にいるのは大きな蜥蜴…………?
「あの、ソフィアさん」
「なぁに?」
「あれ、俺の目の錯覚じゃないなら……蜥蜴じゃなくて……」
アルマジロじゃねぇか?
「蜥蜴よ」
「いやぁ、どう見たってありゃアルマジロ……」
「蜥蜴よ」
「……」
「蜥蜴なのよ」
オーケー、分かった。あいつはアルマジロじゃない。ただ丸くなってる蜥蜴だ。
「行動パターンの情報は?」
「いらん。初見クリアしてやるよ!」
夜でレベルが上がってる? こっちだってレベルが上がってるんだよ! あと、格上相手は初見の時が一番ワクワクする!!
俺がボスエリアに入ると、アルマジロ蜥蜴もとい、シャームドラゴンが敵意を宿した瞳で俺を見る。
「さぁ、やろうぜパチモンドラゴンさんよぉ……!」
「グルルル……ギュルルルルォオオオオオオッッ!!」
この世界初めての、ボス戦の始まりだ!!