叡智と深淵の愛を舞え 6
水分補給を終え、リヴラインの世界に戻ってきた俺は、ヘイズとフラウヤからマジかお前みたいな目を向けられながらも坑道の中を進んでいた。まぁ、ソフィアもマジかお前みたいな目を向けられていたが。それにしても、本当に坑道に訪れるのは久しぶりな気がする――――実際久しぶりか。
「いやはや、強くなったもんだなぁ、この数週間で」
「マジのパワーレベリングしたし、当然だけどな!」
別ゲーで鍛えられた蹴りを飛来するコウモリに叩き込み、坑道ゴブリンの顔面を巨骸骨刀で叩き潰す。当たり前だが、全然経験値が手に入らない。俺は強くなり過ぎた――――いや待て、強くなったのか? レベル50で職業レベルを上げてるから合計レベルが80を突破しているだけであって、そこまで強くなっていないのでは? 慢心して負けるとか煽られたり罵られたりしても文句を言えないので、慢心してはいけない。
「フヒヒヒ……射線開けてくれるの助かる……」
おお、ヘッドショット。弓自体の性能もだが、フラウヤ自身のエイム力が高いし、俺達がシューティング系のゲームを多くやっている連中で集まってるから、どう動けばフラウヤの射線が通るのかを考えて動けるのだ。俺も含めて、ヘイズはBMW、ソフィアは芋デスにいたほぼ廃人プレイヤーに片足突っ込んでいた人間だし。
「オーアフロッグもいないとは……平和なもんだなぁ」
「そもそもオーアフロッグはレアモンスターよ。坑道にいたのだってクエストの影響もあったでしょうし」
巨骸骨刀を片手に、槍を振り回す。うーむ、やはり槍と刀の二刀流というのは練習しないといけないか……刀と短剣、槍と短剣という戦闘スタイルは使い物になるレベルにまでは到達している……はず。ソフィアと軽く戦ってみたが、ある程度は戦えるレベルに至っていた。ソフィアは手加減していたから、本当に使い物になるのかは分からないが……うーむ……闘技場に行って【グラディタンズ】に相手をしてもらうべきだっただろうか?
少しだけ悩みながらもソフィアの横でモンスターを倒しながら坑道を進んでいくと、外に繋がっていることを強く主張する光が見えた。
「戦いの会場になるのはこの先か」
「そういや、この先に行ったことあるのって副団長くらいか?」
「フヒヒヒ……一応私も行ったことあるよ……」
ソフィアから行ってからのお楽しみと言われていたが……どんなところなのだろうかと思いつつ、坑道の外に出ると、淡い光を放つ橙色の花が一面に咲き誇る美しい空間が広がっていた。
「おお……」
「こりゃ凄いな……!」
これ、もしかして月鈴花の仲間なのか? デザインが似ているし、無関係ということはあるまい。一輪だけ摘んでみてアイテムを確認してみてもいいが、蜂騎士みたいなやべーやつが飛んできても怖いし……止めておくか。うーむ、それにしても……
「地面からも太陽の光を浴びてるみたいだ……昼寝したら気持ちいいだろうな」
俺は寒いよりかは暖かい方が好きだ。まぁ、物凄く暑いっていうのは苦手なんだが……蛇ノ目一家は冬よりも夏、秋よりも春が好きな人間なのでな。変温動物? どこからどう見ても恒温動物だろうが。
「昼寝って……まぁ、確かにいいかもな!」
「フヒヒヒ……まぁ、ここは戦場になるんだけどね……」
カリュドーン戦のための広場として、この花畑を利用するのは少し気が引けるが、こういう明るい所でカリュドーンと戦うというのも悪くないだろう。ここは穴場なのか、あまりプレイヤーもやって来ないという話だし。
「最終確認だ、皆。カリュドーンは滅茶苦茶強くてヤバいやつだ。全滅だって考えられ――――まぁ、考えなくていいか」
「締まらないわね……まぁ、負ける前提で挑むのは、ナンセンスだから同意するけど」
ソフィアの言葉に全員が頷き、フラウヤから渡されていたバフポーションをがぶ飲みして、戦いの準備を整える。さぁ……いざドラゴン狩りリベンジと行こうか。
「来い……カリュドーン。俺はここにいるぞ……!」
インベントリから雷を纏うドラゴスパイクを取り出し、空に突き立てると、ズシン、ズシンと力強く地面を踏み鳴らす音が聞えてくる。その足音が次第に大きくなるにつれ、周囲が薄暗くなり、緑色が混ざった雷が俺達の目の前に落ち――――そいつは現れた。
「ブモォオオオ……」
『追憶の獣、【猪竜カリュドーン】と遭遇しました』
こちらを睨みつけながらも、悪友、または好敵手と出会ったように口元を歪めているように見えるドラゴン、猪竜カリュドーンが、俺達の目の前にいる。薄暗い坑道の広場で見た時も思ったが、やはり巨大だ。三~四メートルくらいのシャームドラゴンよりも少し小さいくらいのサイズのはずなのに、纏う気配が大きすぎて巨大に見える。
立ち塞がるもの悉くを粉砕して進むであろう牙、数々の戦いを経てきたのであろうことがはっきりと分かる古傷、巨人が放つ攻撃でも弾き飛ばし、逆に傷つけるのではないかと思う程に鋭く、荒々しい毛皮と鱗。野生の中に確かな理性を感じさせる、威風堂々とした姿に、少しだけ怯みそうになるが、現れてくれたカリュドーンや、ソフィア達の手前、何とか踏ん張る。
「聞いてた通り、だけど……!」
「フヒヒヒ……! マジでヤバそうだね……!」
「ビリビリくるわね……間違いなく、他の追憶の獣よりも強いわ」
そりゃクエストの最後に現れるモンスターなんだし、強いに決まってるわな。
「よぉ、久しぶりだな、瓜坊」
「ブモ……」
やはり上等なAIが積まれているようで、俺の言葉に反応したようにくぐもった鳴き声を上げるカリュドーンに対して、俺は、俺達は武器を構える。
「この前は悪かったな。お前みたいに強いやつの相手をするには釣り合わないような素人でよ」
「……」
「だけど、この数週間で、俺は強くなったぞ。何のために? ……決まってんだろ」
これから始まる戦いに対する若干の不安を捻じ伏せ、期待に心を震わせるように目を閉じてから開き、カリュドーンに向かって武器を向けて叫ぶ。
「てめぇをぶっ倒すためだよ。てめぇを倒して、友達の約束を果たすためにだ!!」
「……ブモ」
ニィイッ、と、お互いの口元に笑みが浮かぶ。
俺は、一度お前に負けた。でも、今回は違う。俺が――――俺達が勝つ。勝って、その先に進む。あの時の勝率が0.1%だったとするのなら、今の勝率は100%だ。
「勝負だカリュドーン……!! てめぇのドロップアイテム片手に、前に進んでやるよ!!」
「ブモオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
雄叫びと共に突進してくるカリュドーンに対する選択肢は、あの時とほぼ変わらない。呪金の腕輪を起動し、パリングカウンター!! 弾き飛ばしたところに、俺はスキルを発動したのを確認する。ドラゴンとの戦闘で勝手に起動するドラゴンスレイもといドラゴンロアが、俺のステータス……今回は筋力を引き上げた。これで俺の筋力は35+4+(35×2.5)=126!! 小数点は切り捨てられるようだ。
「んじゃあ、あいさつ代わりだ! 人間の咆哮喰らっとけ!! ――――――――ウオオァアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「ブモォッ……!?」
スキル融合により手にしたスキル、ドラゴンロア。ヘイトを増加すると共に、叫ぶことで数回のダメージ判定を発生させるスキルによって、空気が振動し、カリュドーンに微々たるものだがダメージを与える。しかも小さい怯みを発生させるおまけつき。パリングカウンターとドラゴンロアによって怯まされたカリュドーンに迫るのは、金属性をエンチャントしたシミターを両手に持つソフィアと、風の剣を構えたヘイズ。クリティカルの気持ちがいい音とエフェクトがカリュドーンの体から出現するが、効いている感じがしない。……そういえば、あの時も逆鱗はともかく、雷を纏っている毛皮や鱗にクリティカルが発生してもダメージが通っている感じがしなかったな。もしや、毒になると違ったりするか?
「っし、呪毒状態発生!」
俺の周囲に毒の霧が発生し、いつの間にか近付いてきていたフラウヤも含めた全員の体に呪毒が回る。これで木属性の雷は怖くねぇ! まぁ、雷を封じたところで素の攻撃力が高そうなカリュドーンの攻撃を一撃でも喰らったら終わりだけどな!!
「さっさと毒になりやがれこの猪野郎!!」
「ブモォオオオ!!」
「おっと、俺達を忘れるなよ!」
「呪術の毒をばら撒けるのは別に、アオヘビ君だけじゃないわよ、カリュドーン」
俺だけにかまけていると、ソフィアとヘイズのDPS班が攻撃してくる。攻撃が効いていないのか、カスダメしか入っていないのかは分からないが、チクチクと何度も攻撃されれば煩わしく感じるだろうが、ドラゴンロアと道化の面の効果によって俺にヘイトが向いている。毒霧に雷が当たる度に弾かれて霧散し、パリィや攻撃でクリティカルが発生する度に金属性のエフェクトがカリュドーンの体を蝕む。やつの攻撃が苛立ちを帯び始めたと思った直後、やつの口からどす黒い液体が零れるようなエフェクトが発生する。
「ブホッ……! ブモォオオオ……!!」
「よし、叩くぞ!! フラウヤ!!」
「フヒヒヒ……デバフ入るよ……!」
デバフポーションが矢と共に飛来し、カリュドーンの体にそれらがぶちまけられる。毒状態になった瞬間に動きが止まったカリュドーンに持ち合わせている攻撃を叩き込んでいく。
「せっかくだし、弱点剥き出しにしてやるぜ! 『拳獣・熊』!!」
ヘイズがそう叫ぶと、彼の両手に獣――――熊の強靭な腕のようなエフェクトが出現し、潜り込んだヘイズがカリュドーンの下顎をかち上げた。……かち上げたぁ!?
「ヘイズ、なんだそりゃ!?」
「へへっ、いいだろこれ! モンクが覚える魔法? 呪術? まぁいいや。とにかくMPを消費して、一定数倒したことがある動物系モンスターの部位を再現するって魔法!」
「なんだそれ面白そう!!」
くそー……鍛冶師もいいんだけど、こうして色んな技を見ると他の職業も面白そうに見えるんだよなぁ……!
「ジョブについての話もいいけど、今は集中してくれる?」
「フヒヒヒ……ポーションもタダじゃないんだよねぇ……」
「「サーセン! 働きます!!」」
鍛冶師もレベルマックスにしたら、ティアラに相談して転職も考えるかなぁ……
激突! 雷猪VS変態四人!!
こんな呑気にしているが、呑気にできているのはガンメタ+四人のプレイヤースキルがまぁまぁ高いからです。雷がなければ物理がヤバイただの猪よ……




