雷蜘蛛サソリVS四人の変態
殺意の具現化のような槍鋏で貫かんと迫る雷滅の尖兵に対する対処として、最初はパリングカウンターを叩き込むことを考えたが、ジリジリと焼けつくような殺気を浴びて、すぐに不適切だと察して飛び退く。
「……わぁお」
叩き込まれた槍鋏は地面に音もなく根元まで突き刺さり、何事もなかったかのように滑らかに抜き取られた。あれをパリィするなら、間違いなくパリングカウンターをジャストタイミングで叩き込まなくてはならないだろう。そもそもパリィしたところで武器が耐えられるのかが微妙なところだ。
このモンスターを作った人はいい趣味をしているに違いない。これだけ生活を全てかなぐり捨てたような姿は、まさに尖兵。戦うためだけに進化したような蜘蛛サソリは己の生存を考慮せずに戦う死兵であり、己が戦いの後生存することを全く考えておらず、最期の最期まで戦い抜くための姿をしている。流線的なデザインの脚から放たれる瞬発力と、空気抵抗の無さそうな細身が可能とする速度がやつがどんな戦いをするために進化したのかを雄弁に語っている。
恐らくだが、攻撃力と速度に特化した進化を果たした紙装甲スピードアタッカー。紙装甲、と言ってもそこまでペラペラとは思っていないが。
「ヤバいなこりゃ! まぁ、一回切ってみるか! 『星屑よ、風を纏う星屑となり、我が敵を切り裂け』! 『星屑剣:風』!」
「それでも戦いやすい個体ではあるんじゃないかしら。『火よ、起きよ』」
風の剣と、炎を纏ったシミターが蜘蛛サソリを何度も切り裂く。うん、やはりというべきか、装甲自体はそこまで硬くはない。とすれば、速度と攻撃の痛さに注意しておけば問題はないはず。俺はどんなモンスターに殴られても一発で致命傷か死ぬわけだけど。
『ギギギギギギギギガガガガガガガ!!』
「ラッシュもあるよなぁ、高速型ならさぁ!?」
槍鋏を叩き込んでくる攻撃はさっきの一撃タイプと、今やってきている連続攻撃があるのか。ラッシュは地面への叩き付けではなく、キツツキのように前に向けて攻撃してくるタイプ。そしてラッシュの終わりは尻尾を駆使した薙ぎ払い――――うおおおお!? リーチ長!?
「フラウヤ、後方支援頼むぞ!」
「フヒヒヒ……! 誰に言ってるのかな……!」
離れた場所から援護を行うからか、攻撃の標的にされていないフラウヤにバフ、デバフなどの後方支援を頼みながら、こいつの攻撃パターンを割り出していく。槍鋏の可動域は上下、正面。尻尾はまだ薙ぎ払いしか使っていないが、毒針の突き刺しなんかもしてくるだろう。そして、何より警戒しながらも期待しているのが、やつの雷だ。やつの雷が呪術の雷なら……呪金の腕輪の効果で無効化できる。
「タゲは――――まぁた俺か!?」
飛びかかりからの叩き付け! そのまま引き抜かずに体を回して薙ぎ払いと思いきや、槍鋏を支点にしてかかと落としがごとく尻尾を叩きつけてきやがった!? なんて荒業だよ! 紙装甲だと思ってたけど、結構硬いのか!?
そこから間髪入れずにラッシュ――――じゃない、二本の槍鋏を束ねるようにして突進! けどそれは若干の速度不足だから、受け流し! ただ受け流すだけだとダメージが通るが、ここで俺の直感がスキルの発動を促した。発動するのは、バーストランサー。濃厚な青色のエフェクトを纏った槍が、蜘蛛サソリの槍鋏と激突する――――ことはなく、俺の体を掠めるように蜘蛛サソリの体がカッ飛んでいった。
「よっしゃあ! ぶっつけ本番で成功したぜ攻撃スキルパリィ(受け流し)!」
直感が行けと叫んだのでやってみたら大成功。これができるなら、攻撃スキルを利用したパリィなんかも可能ということでは……? 夢が広がるな!!
「相変わらず曲芸めいたことするなぁ!」
「危なっかしいわね」
生きてればノーカンノーカン。おっと、フラウヤからのポーションが飛んできた。リジェネ更新入りまーす。他のバフは……あと二分持つのか。効果時間が長くていいね。効果時間の長さは正義だ。
ところで、さっきから俺しか狙ってこない蜘蛛サソリ君、君は俺に何か個人的な恨みでもあるのか? 君とは初見のはずなんだが、俺が忘れているだけで君と会ったことがあるのか? 俺は全く覚えがないが。
『ガガガガギギギガガッガ!!』
「団長、何かスキル使ってるか!?」
「いや使って――――あ、ウォークライってやつ使ってるわ!」
叫ぶのかと思ったが、そういう名前のバフらしく、叫ばずとも発動した。叫ぶと効果量がアップするそうだ。
「確か筋力を上げる代償としてヘイトを通常の二倍にするスキルね、それ」
「ああ、そりゃあ狙われるわけだわ」
パンプアップして目立つようになった、みたいな認識でいいのかね。筋力は……お、一レベル分上がるっぽいな、筋力が35になっているし。ということはだ……新しい武器をお披露目できるということだな?
「さぁ、お披露目と行こうか、新武器!」
呪毒の槍と闘士の籠手をインベントリに仕舞い、スライムオブレギオンのドロップアイテム、【巨人の骨片】をベースに作った武器を引っ張り出す。ちなみにこれは俺が作ったものではなく、ウルカンに頼んで作ってもらった新武器だ。あの巨人の骨を使ってどんな武器が生まれるのか、と楽しみにしていたが、これを見た時、思わず笑ってしまった。
「今日からよろしくな、『巨骸骨刀』!」
「何だそれ、鈍器か!?」
「いえ、形状からして刀ね。いつの間に作ってたんだか」
パッと見た感じでは完全に鈍器にしか見えないこの武器だが、カテゴリとしては刀カテゴリに登録されている武器だ。分厚い巨人の骨片を削り、刀身と持ち手の間に磨かれた球体が埋め込まれた無骨な骨の刀は、蜘蛛サソリを全力で粉砕してやろうと日の光を浴びて光る――――わけではないが、ボスモンスターの素材を使った風格を持っている。俺がフルダイブ型ゲームで使ったことがある刀は居合が基本の電磁刀、エンジンがくっついているロボ刀、普通の刀、無駄に長い大太刀。どれもこれも癖が強く、そして強力だった俺の相棒だ。槍、パリィ用の短剣、刀。俺の相棒はいつもその三本だった……銃が使えるのならショットガンやリボルバーがあればなおよし。
「刀のスキルは持ってないが……スキル無しでも使えるもんだってことを証明してやるよ!」
俺を貫かんと迫る蜘蛛サソリをギリギリのタイミングで回避する。槍鋏を突き立てようとしたところで、パリングカウンターを起動し、巨骸骨刀と槍鋏がジャストタイミングで激突する。ただ、レベル差もあるので、ジャストタイミングでのパリィでも軽く手の痺れを感じる重さを感じた。だが、その痺れが甘く感じるくらいのリターンを得ることができるのが、この刀の効果だ。
『ギギギギギ……!?』
「ゼリー……!?」
「フヒヒヒ……スライムと同じものかな、あれ……!」
フラウヤの推測通り、この武器は強い衝撃を受けると埋め込まれた球体――――スライムオブレギオンの核と湿地スライムの核を溶かして混ぜて加工した玉が反応し、スライムゼリーを発生させるという効果を持つ。フラウヤに渡そうと思っていた核だったが、ウルカンに要求されたので渡したらこんなに凄い武器を作ってくれた。最高だぜ、ウルカン!
ただ、攻略サイトで確認したところ、このスライムゼリーは魔法や呪術、とんでもない力などには滅法弱いらしく、スライムゼリーを発生させても弱体化できるのが一瞬だったりするらしい。そうなってくると、防具とかに使った方がお得な気がしないでもない。
『ギガガガガガがガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!』
スライムゼリーが呆気なく剥がれて、やつが纏っていた雷が一段と強くなる。これは……HPが少なくなってきたことで至る、発狂モード的なものだな!
「お怒りモード突入ってか!?」
『ガガガガがギギギギギギギガギガガガガガ――――!』
ん? 何だかカリュドーンのレーザーを放つ瞬間に見えた球体に似たものがやつの尻尾の先端から放たれて、体を持ち上げたぞ……? これは……大技的な感じ……か?
「アオヘビ君、準備!」
「できてる! そら、仕事だ呪金の腕輪!」
両手に装着された腕輪を打ち付けると、MPが消費され、HPバーの下に『呪毒』という表記が出現する。その瞬間、ブワァ! と俺を中心に毒々しい霧が発生し、俺の近くに集まっていたソフィア、ヘイズ、フラウヤを包み、呪毒を与えた。
「今更だけどさ、魔法とか呪術を使うやつには致命的な毒じゃないか、これ」
「まぁ、フラウヤのポーションで何とかなってるからいいだろ!」
「フヒヒヒ……あ、そろそろポーション効果切れるから更新どうぞ」
「このポーション群、買ったらいくらになるのかしら……」
「ざっと十三万くらいじゃない?」
「「「本当にありがとうございます」」」
「フヒヒヒ……どういたしまして」
本当にフラウヤ様々だよ。
そんな掛け合いをしている間に、蜘蛛サソリの大技の準備が整ったようだ。巨大な球体がこちらに向けられ――――極太のレーザーが放たれる。
『ギギギイギギギギギギ――――!!!!』
地面を抉るように放たれるレーザーが、俺達を飲み込まんとする。しかし、それを良しとしないのが、俺達を包んでいる毒霧だ。極太のレーザーは予想通り呪術の木属性だったようで、金属性の毒霧がレーザーと直撃した瞬間に拡散し、霧散していく。そして最後に上空へとレーザーが打ち上げられ、防ぎ切った。
「……神装備認定していいか?」
「いいんじゃねえかな!」
「そうね。私のエンチャントと組み合わせれば、カリュドーンの攻撃も何とかなるんじゃない?」
「フヒヒヒ……あとは短期決戦だよねぇ……って、あれ?」
最大の攻撃を防がれたのが驚きだったのか、蜘蛛サソリが硬直している……? あ、いや、違うこれは……自分の中にあったエネルギーを全て使った最後の一撃……!!
見よ、もはや死以外の結果はあり得ぬはずなのに、それでもなお気高い姿を。俺はどこまでも戦い抜いて、戦場で死ぬのだと言わんばかりの、槍鋏を天に突き上げる蜘蛛サソリ――――雷滅の尖兵の姿を。よく見ると、あいつの体の至る所に傷がある。俺達が付けた傷もあるが、それ以上に古傷が目立つ。つまり……この気高い戦士は、俺達と戦う前にも多くの死線を潜り抜けてここまでやって来た、ということだ。
『ギ……ギ、ガガガ……ギギ……』
「……うん、次に会う時は、お前の全盛を見せてくれ」
死してなお気高く、雄弁な戦士の姿がブレて、爆散する。十分弱しか戦っていないはずなのに、やつのことが好きになってしまったよ、俺は。それはそれとして……第三段階クリアだ。うわ、経験値凄い……レベル44だそうですよ、奥さん。というわけで筋力に4ポイント、残りは全て技術にぶっぱで87だ。
今回戦ったのは群れを追い出された弱い個体です。
なお、スキル無しでガードしようとしたらガードをぶち抜かれます。パリィ、回避、盾のスキルをしっかり使って攻撃を凌ぎましょう。その後は二、三回攻撃できるチャンスがあるので。