愉快なレベリングはまだまだ続く
キノコ狩りを済ませたら、第三段階へと突入する。第三段階、初めて体験するが、達成条件を確認すると……不思議なことが記載されている。
「……未確認モンスターの撃破……?」
達成条件、『未確認モンスターの撃破』。未確認モンスターって、どういうことだ? 穏やかな草原のモンスターで見つけていないモンスターを撃破しろ、ということか? でも初期エリアにそんなにたくさんのモンスターが現れるなんてことないよな?
「ソフィア、未確認モンスターって?」
「ああ、言ってなかったわね。いわゆる外来種的なものよ」
「外来種?」
「ええ。今後のアップデートで実装されるエリアのモンスターが現れるの」
ほほう……今後のアップデートのお手付きができるのか……ん? やはりこの自然闘技場のクエストはやるべきなのでは? やろうぜ皆。そうすることで次のエリアの考察とか、次のエリアのモンスターにどんなやつが多いかもしれないみたいなのが分かるはずだ。平均レベルのモンスターなわけだし、いい予行練習になると思うんだけどな。
「第三段階はその外来種を撃破することが達成条件。だけど、ここで問題があるのよね」
「「問題」」
「フヒヒヒ……平均レベル+20相当のモンスターが現れるんだよ」
なるほど、レベル差のあるステータスの暴力で薙ぎ倒されるということか。うーん、それはそれは……
「楽しいボス戦の始まりってことでよろしいか?」
「そう思うのは俺達とか、トップ層の連中ぐらいだろうな!」
俺達の平均レベル+20のボスモンスターということは、レベル88相当のモンスターということ。格上との戦闘こそこういうゲームの醍醐味よ……俺達にとっては、という話なので異論はもちろん認める。ゲームは楽しんだ者勝ちなのだから、その人その人で別の楽しみ方があって当然だ。初心者狩り? PK? うんうん、それもまた一つの楽しみ方だよね。だが殺す。殺されても文句はねぇよな?
「で、外来種って何が来るんだ?」
「蜘蛛サソリ」
「蜘蛛サソリ」
スパイダーでスコーピオンなのか……どんな見た目をしているのか楽しみではあるが、SAN値が減りそうな見た目をしていそうでちょっと怖いな。攻撃手段は蜘蛛の糸、サソリの毒針、ハサミが主流だろうが、そこで終わらないのがファンタジー。フィジカルでゴリ押してくるモンスター、ファンタジーな攻撃で戦ってくるモンスター……たくさんいるよな。どちらかと言えばフィジカルモンスターが好きです……
「私も戦うのは初めてね。そもそもここに訪れることも稀だし」
「フヒヒヒ……まぁ、アプデで追加されるモンスターがランダムで出現するみたいだからねぇ……仕方なし」
へぇ、ランダムに出現するとなると、結構引き出しがあるんだなサプライズグッド社。まぁ、馬鹿みたいに増やしていくとか言ってたし、引き出しがたくさんあるのは当たり前か。
「ん? ならどうして蜘蛛サソリって分かるんだ?」
「一応運営からアナウンスがあるのよ。プレイヤーはほぼ見てないけど」
へー……あ、本当だ。メッセージのところに運営からのお知らせが置いてある。そこに確かに出現モンスターが表記されている。ソフィア曰く蜘蛛サソリ――――正式名称雷滅の尖兵は、名前だけ見るのなら、雷を利用して戦うモンスターだと思うのだが……ということは、だ。
「こいつの試運転と行こうか」
インベントリから取り出した呪金の腕輪を装備して、軽く手首を回す。うん、結構動かしやすいが、手袋が消えたせいで武器の質感をよく感じる。それはいいが、ふとした拍子に落としそうだ。システム的にそれはあり得ないんだけど、そんな感じがしてならない。
「雷だからな。生体電気とかそういうのじゃないなら金で呪毒にできるだろ」
「となりゃ、カリュドーン前の試運転にはうってつけだな!」
まさかカリュドーンの前に雷を使うモンスターと戦えるとは思っていなかったが、これは幸運というやつではなかろうか。この腕輪にMPを注ぎ込むことで、装備者を呪毒状態にする。そして呪毒状態になった場合、自分の周囲に毒霧を撒き散らすことで、木属性の攻撃を軽減または無効化する……うーん、どう見ても神装備。
「よし、じゃあ行こうか」
「キャンプから出たらすぐに現れると思うから注意してね」
ソフィアの忠告に頷き、フラウヤから渡されたバフポーションを飲む。リジェネ効果のみだが、一分も効果が続くとなればこの腕輪とのシナジーが凄いことになりそうだ。呪毒がどれだけ削ってくるかにもよるが。……あ、そういえば。
「ヘイズ、魔法剣とか魔法槍って飛ばせるのか?」
「いや、全く飛ばせないな! それをやるなら、魔法使いと剣士を極めた先で派生する上級職を獲得しないとダメだったはず」
ふむ……魔法剣と魔法槍、投げることができるなら凄く便利な魔法だと思ったが、そういうわけにもいかないらしい。
「ただ、それっぽいことを鍛冶師ができるって言ってたな」
「誰が?」
「ウルカンが!」
ウルカン、お前戦えるのか……いや、まぁ、ドワーフってハンマーとか大斧をぶん回して戦うようなキャラだもんな。戦えても不思議じゃないよな。エルフのティアラも凄く強そうだし……あの人もしかしてとんでもない魔法をバンバン使える人なのでは?
「なんかこう……炉を顕現させる魔法があるらしくてさ。そこからまだ鍛造してない武器を射出するだかなんとか!」
「それでいいのか鍛冶師」
「邪道らしいぞ!」
「ですよね!」
そうじゃなきゃやらねぇわ。ドワーフって物作りにちゃんとしたプライドを持っているから、そんな攻撃の仕方は間違いなく邪道だよな。これで正道って言われたらちょっと驚いていた。驚くと共にどんな魔法なのかを聞きに行っているところだった。
さて、そうこうしている間にバフを全て乗せ切った。リジェネ、攻撃力上昇、クリティカル威力上昇、スタミナ上限一定時間上昇。代わりに耐久ダウンが入ったが、元々紙装甲なので関係無し。うーん、ご覧ください、錬金術師一人いるだけでこれだけの恩恵をいただけるわけですよ。素材が重いせいで人気がないらしいが、錬金術師、パーティーに一人いるだけで我々は滅茶苦茶強くなれる。副作用? そこはプレイヤースキルで補いましょう。練習すれば行ける行ける。BMWか芋デスをお勧めするぞ。他の連中と出会ったゲーム? …………うん。あれも、楽しいよ、慣れれば、だけど。
「さてと……どんなモンスターなんだろうな、その蜘蛛サソリは――――」
俺達がキャンプを出た瞬間、第三段階がスタートした。その後すぐに、遠くからガサガサガサガサ! と嫌いな人はとことん嫌いな動きで接近する巨大な虫――――いや、蟲が見えた。
「……おおん……」
「うーん、SAN値チェックか!」
「フヒヒヒ……ではアオヘビちゃん、ヘイズちゃん、ソフィアちゃん、1D100でダイスロールを……」
お、100面ダイスじゃないですか。いいですね、こういうのもあるってことは、カジノ的な場所もあったりするのか? まぁ、心を落ち着かせてダイスロールをば……
「おっと、99」
「俺は89!」
「私は90ね」
「「「「全員でファンブル!!?」」」」
ゲームマスターも驚くこのダイスの女神に好かれている出目よ――――っと、やっと全体像が見えるところまで近づいてきやがったな、蜘蛛サソリ。…………うん、凄くあれだな。蜘蛛サソリと言われていたけど、こいつは中々……
「中々にイケメンでは?」
「分かる!」
ふ、やはり分かるかヘイズよ……この蜘蛛サソリこと雷滅の尖兵、凄く趣のあるイケメンデザインだ。顔は蜘蛛とサソリを混ぜ合わせた後に甲冑とか武者具足にしたような見た目で、ハサミは切断よりも刺突に特化したような騎槍の形をしている。蜘蛛の脚は機械と言われても信じられるほどメタリックで流線的だ。毒針であろう尻尾には雷を纏った宝石のようなものが輝いており、そこを起点に体に雷を纏っている。男の子というのはこういうメカメカしいというか、鎧チックなデザインにカッコよさを見出してしまう生き物なのだ。
『キキキキキ……ガガガガガガガガ……キガキガキガキガ……』
「んー、機械的な鳴き声。とても生物とは思えない。10点加点」
「フヒ……ちなみに何点満点?」
「10点に決まってんだろ、言わせるなよ」
冗談はさておき、お互いに顔合わせといった感じだな。こういったモンスターとは別ゲーで何度も殴り合ったが、この世界では初めましてだ。というわけで、ぜひ楽しんでいこうじゃないか。
「つーわけで雷滅の尖兵……」
『ガガガガ……!』
俺達は歓迎するぜ、お前みたいな凄く強そう――――いや、間違いなく強いであろうモンスターを、強敵を。俺も、ソフィアも、ヘイズも、フラウヤも……ここにいる全員が、お前を倒すために全力を出すから。だから――――
「遊ぼうぜ、文字通り、死ぬまでな!!」
『ガギガガギガッガッガ!!』
まぁ、死ぬのはお前だがな!! 雷滅の尖兵!!
雷滅の尖兵
とても生物とは思えない機械的なデザインの蜘蛛サソリ。ちゃんとした生き物だが、とあるカレイドモンスターの雷を浴びた鉱石やら木材やらを主食とするためか、気付けばこんな姿に。
本来ならレベル120相当のモンスターだが、自然闘技場に現れたのは弱い個体。アオヘビ達の平均レベルが88なので、今回の蜘蛛サソリはレベル88相当の個体となっている。攻略法は打撃で殴るか、魔法で殴るか、が一番楽。盾? 鎧? 君には立派な槍が見えないのかね?