装備を変更しますか?
最初の街である【ファストグロリオ】だが、入ってみると大きな街ではなく、大きな村といった印象であった。しかし、装備やアイテムが売っている場所はあるし、鍛冶職人NPCがいたりと最序盤の街にしてはしっかり設備が整ってる。
「予算は?」
「5000」
「なら武器が優先かしら」
ソフィアに連れられて入った装備ショップで、渡された武器一覧表、その中でも槍の一覧を見ながら会話を続ける。
このゲームでは、装備ショップや鍛冶スキルを持ったプレイヤーの店で、装備の耐久値や、武器の性能を強化することができるみたいだ。耐久値の回復なら武器や防具のレア度+残り耐久値に応じた金額が必要で、強化するならその強化に必要な素材とお金が必要になる。
それはそれとして。今の俺が買える武器は……青銅の槍、パルチザン、青銅のグレイヴ、ハルバード。全部威力は間違いなく今使っている放浪者の槍よりも強いけど……10違うだけか。
「強化は……あんまり目ぼしいのないな?」
「なら武器生産ね。フィジカリーバードを狩り続けてたのなら、胃石とかもあるでしょ?」
「ん、何個かね」
レアドロップなのか、フィジカリーバードの胃石は何十体に一回落ちるか落ちないかくらいの確率。体感的には7~10%くらいの間だ。中々ではなかろうか。
「あと、こんなのもあるけど……」
「ん? ……あら、珍しいわね。化石片じゃない」
謎の化石片ーーーーこれもフィジカリーバードからドロップしたアイテムだ。ダチョウとかと同じく、フィジカリーバードも石を飲み込んでいるみたいで、その行程で化石を飲み込んだらしい。……謎の、ってなんだよ。気になるだろ。
そんなことを思いながら、武器生産の一覧を確認する。動物系……ボーンスピアとかが見える中、目についたのは一つの槍。
「これお願いします」
「はいよ。ちょっと待っててな」
素材とギールを渡すと部屋の奥ーーーー多分鍛冶場ーーーーに消えていくNPC。それを見送った俺は、他にも何か買えないかと短剣の一覧を確認する。パリィ用の短剣が欲しいのだが、それらしいものは一覧にない。この街では手に入らないのだろうか?
「パリィ用の短剣でも探してるの?」
「なぜバレた?」
「アオヘビ君は盾使わないし」
さすがソフィア。数年来のネトフレだ。俺の戦闘スタイルを理解しきっておられる。
「どうしても欲しいなら、パリィ用の短剣、用意してあげましょうか?」
「いや、いらん。そこまでして欲しがる物じゃないし、それに……籠手があるなら問題なし」
もう一人のNPCから購入したのは武器ではなく、籠手。防具の中にあったそれには、面白い表記があった。
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闘士の籠手
必要ステータス
筋力:20
技術:25
肉体を武器にする闘士達のために仕立てられた頑丈な籠手。その頑丈さは攻撃や武器を弾くことだってできるだろう。それには経験と実力が必須ではあるだろうが。
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この籠手、間違いなくパリィができる。序盤の装備にしてはちょっと要求ステータスが高い……いや、レベリングしてればここまではすぐか。しかもこれ、多分モンクとかがメインで使うような装備だろうからな。
籠手をすぐに装備して具合を確かめる。……うん、槍を握った状態でも使える。左手装備がこれで埋まるのはちょっとだけ不便かもだが、体術系スキルの取得を目的にしていると考えればいいのだ。
「なんだ、残念」
「貸しを作って何をさせようとしていた貴様」
ソフィア曰く、自分の善意には全て打算があるそうだ。例えば……このゲームをやるために頑張った課題を手伝ってくれたのは、俺をこのゲームの沼に沈めるため。初めて現実世界で会ったのも、俺をからかう材料を増やしたいがためと、俺のバイト先の紅茶を飲みたかったから。打算ありきの善意である。
正直打算があると分かっている善意の方が、こちらとしても分かりやすくていい。打算の善意による関係性。まさしくネトフレではないか。
「別に、何でもないわ。……ところで、槍を使うのに、パリィなんてできるの?」
「やれるよ。何なら槍でパリィすればいいし」
「あなたも大概変態よね」
後衛職で前線に飛び込むソフィアには言われたくないね。
「おう、蛇目の兄ちゃん。待たせたな」
そう言いながら奥の部屋から戻ってきたNPCの手に収まっているのは、一振りの槍。化石片、胃石、さらにはタックルボアの毛皮やアルミラージの角を使った、今の俺が作れる一番強い武器だ。
銘は【古草原の槍】。化石片やら、胃石やら……そういった長い年月を経た鉱石類がメインに据えられているからなのか、遥か昔の草原の記憶を宿している……みたいな説明がある。まぁ、それは置いておいて、注目したいのはこの武器が持つ固有の能力である。
「敏捷の数値によってクリティカル威力上昇!これは強いぞ……!」
「へぇ、中々に強武器なのね」
上限はありそうだが、序盤の強武器としてお世話になりそうだ。下手すりゃ後半もずっと。それにしても穏やかな草原って、昔は敏捷ガン振りクリティカルマシマシのスピードパワージャンキーが溢れる魔境だったりしたのだろうか? それが少しずつ弱くなって、今の環境になったのだとするなら、少し寒気がする。
「とりあえず装備はこれでいいわね。次、行くわよ」
「分かったから手を引かないでくださいます?俺は迷子じゃないんですけどぉ?」
遥か昔の草原に想いを馳せていると、ソフィアが俺の手を引いて装備ショップから引きずり出されてしまう。あっ、すれ違う他プレイヤー達の視線が痛い……! まるでだだっ子を引きずる姉弟の構図を見ているかのような視線! 心が! 心が死ぬ! 現実世界の兄達が見たら絶対爆笑するような構図になってる!!
「サブの職業を選ぶわよ。ステータスの補強にもなるし」
「あえて選ばないという選択肢」
「縛りプレイがお好み?」
「選ばないことで何かのイベントがあると見たね」
「本当に変態ねあなた。正解よ」
よっしゃ、今日は冴えてるぜ。