ステ振りをしよう!
街を目指して早くも3時間半が経過した。…がしかし、中々辿り着かない。別に遠いとか、そういう訳じゃないんだ。理由は分かってる。
「オラァッ!」
この草原エリアにいるモンスターを片っ端から狩っているからだ。角の生えたウサギのアルミラージ、森にいるべきな見た目をしている猪のタックルボア、ダチョウみたいな見た目のフィジカリーバード……様々なモンスターがいるため、見つける度に狩っているから、中々街に辿り着かないのである。
言い訳をさせてもらうのなら、このゲームが面白すぎるのが悪いと思う。これに併せて武器とかのハクスラ要素も存在するんだろ? 最高かよリーヴラシル・フロントライン。
「クルルゥッ…!」
そんなことを考えながら相対するのは、ダチョウみたいな見た目をしながらも、脚がヒクイドリみたいに滅茶苦茶発達している鳥型モンスターのフィジカリーバード。初期エリアのモンスターの中でも、一撃一撃が重く、フィジカルに物を言わせた攻撃が特徴的なモンスターだ。こいつのパリィはちょっと難しい。
「……スキルの方がいいか」
リーヴラシル・フロントラインのスキルは多種多様だ。戦闘で行った行動やレベルアップで取得できるものもあれば、探索や生産などの行動で取得できるものもある。俺も槍を振り回したり、バックラーでパリィし続けたり、回避からの攻撃などを繰り返していたお陰でいくつかスキルを入手している。
「ーーーーここだっ!」
飛び蹴りを放たんと迫ってきたフィジカリーバードを回避行動によって獲得したスキル《クイックステップ》で躱し、フィジカリーバードの首を狙う。
この時ーーーーというか、スキルを使う時は、脳内にスキルの発動ボタンがあるような感じだ。それを押すと、スキルが発動してくれる……と言えばいいのだろうか? 思考誘導みたいな……そういった補助機能がある。
攻撃後、硬直しているフィジカリーバードの首を狙う俺が発動するのは、突きによる高速の一撃を叩き込む《ソニックパイク》。スキルが再度使用できるようになるまでほリキャストが少々長いが、必殺技としてだけでなく、攻撃の隙潰しにも使える意外と便利なスキルだ。
そんなスキルを首に叩き込まれたフィジカリーバードはクリティカルダメージもあって一撃で撃破できた。この辺りのモンスターは初心者向けだからか、スキルでクリティカルダメージを狙えば一撃で倒せるやつらばかりである。
「お、レベルアップ」
タンタランッ、とリズミカルな音が聞こえると共に、レベルアップの表示が出る。3時間半も狩り続けていたからか、レベルは12に到達していた。
ゲーマーお待ちかねのステ振りタイムである。このゲーム、レベル制度があるが、レベルでステータスを上げていくわけではない。レベルアップによって獲得するポイントを利用してステータスをどんどん強化していくのだ。某ソウルライクゲームを彷彿とさせるステータスの上げ方だなぁ。
「えーと……今残ってるのは……40ポイントか。1レベルに対して4ポイント……じゃあこうだな」
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プレイヤーネーム:アオヘビ
レベル:12
職業:戦士
所持金:5000ギール
体力:35
魔力:10
持久:20
筋力:15
敏捷:25→35
技術:36→56
耐久:5(10)
幸運:20
スキル
クイックステップ
ソニックパイク
バックスラッシュ
シールドバッシュ
エンデュアーアジリティ
装備
放浪者の槍
バックラー
頭:戦士の額当て
胴:戦士の胸当て
腕:戦士の腕巻き
腰:戦士の腰布
脚:戦士の靴
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スタミナの上限値を増やせる持久に振っても良かったんだけど、とりあえず俺の好きなビルドを組むために必要な技術と敏捷を優先した。次のレベルアップでスタミナをがっつり振るつもりである。
取得したスキルだが、《クイックステップ》はスタミナを使わずに高速で動ける回避行動。リキャストもあまり長くはないから使いやすい。《ソニックパイク》はさっきの通り。
次に《バックスラッシュ》は背後から攻撃するとダメージやクリティカル判定に補正が入る横薙ぎの技。これは俺が今使っているショートスピアよりも斧槍ーーーーグレイヴとか、パルチザンみたいなのだと使いやすそうだ。
それで《シールドバッシュ》だけど……言葉の通り、盾ぶん殴るスキル……なのだが、俺の求めている装備構成にすると使えなくなるんだよな……俺は盾使わないし。
最後に《エンデュアーアジリティ》。これはパリィや回避など、相手の攻撃を凌ぐ行動に対する敏捷補正。つまりはパッシブスキル。俺のスタイルに間違いなく噛み合うスキルだ。
「さてと……やっと着いたな」
心の中でシステムウインドウを閉じた俺の目の前にある入り口。初心者の街とされる最初の街、【ファストグローリオ】。多分最初の栄光とかそういう意味なんだと思う。
門を守る番兵みたいなNPCもおらず、入り口の先には俺と同じ新規プレイヤーや初心者プレイヤーが多くいるみたいだ。
「えーと、ソフィアはこの街で待ってるのか……?」
「ええ、本当に待ちくたびれたわ」
殺気!
突き刺すような、ジトッとした……そう、呆れ果てたようなそんな殺気が込められた視線が俺に突き刺さると共に、別ゲーで培った反応速度と危険察知能力が俺の顔を左に傾ける。
さっきまで顔があった場所に、シミターと呼ばれる曲剣があった。
「殺す気か!?」
「あら、避けられた。殺すつもりで放ったのだけれど」
「鬼か貴様!?」
踊り子と暗殺者を足して2で割ったような黒衣に身を纏った女性プレイヤーが、俺の焦り具合にクスクスと上品に笑う。お前が原因だからな? いや、俺がずっとフィールド探索してたせいでもあるけどさ。
「こんばんは、アオヘビ君。相変わらずの反応速度で安心したわ」
「伊達に掠り傷=即死ビルドの巣窟なロボゲーに籠ってねぇんだわ……こんばんは、ソフィア。遅れてごめん」
「いいわよ。どうせこうなると思ってたし」
俺に攻撃を放ってきた彼女こそが、今日、俺にこの世界をレクチャーしてくれるネトフレのソフィア。
銀が混ざった灰色の長い髪、蠱惑的に輝く琥珀色の瞳、人形と勘違いするくらい整った顔立ちの女性プレイヤーで、俺の類友ーーーーつまりは変態ビルドプレイヤーだ。ちなみに現実で一回だけ会ったことがある。髪の色は違ったけど、今目の前にいる彼女とほぼ変わらない容姿だった。
「それで? どれくらい上げたの?」
「12」
「この草原エリアで12まで上げたの? ……もしかして変態?」
「はっ、お前にだけは言われたくないね。どうせ完全ステルス暗殺者ビルドだろ?」
「残念。メイン付与魔術師でサブ剣士の魔法剣士よ」
「後衛で前線飛び込むのかよ!?」
こいつ、マジで変態だと思う。付与魔術師って確か、HPと筋力の補正が低い代わりに魔力と技術に補正のかかる職業だよな? そこをサブの職業である剣士で補っているのかもしれないが、それでも変態だよ。
「紙装甲タンクビルドに言われたくないわ」
「攻撃受けなきゃいいんだよ」
「タンクの役目かなぐり捨てないでくれる?」
弾き、躱し、殴ってヘイトを買う。そういうタンクに、俺はなりたい。
実際、盾を使うよりも片手を短剣やらガントレットやらにした方がDPSも出るし、対処が楽な時がある。某ソウルライクゲームのVR版で大剣と短剣装備したボスに倒されまくったのはいい思い出。
「まぁ、それは置いておいて……完全に夜になる前に準備しておきましょうか」
「夜になる前……ああ、夜のモンスターってレベルが上がるんだっけ」
リーヴラシル・フロントラインのモンスターは昼間よりも夜間の方が強く、出現モンスターも若干変化するらしい。レベルも平均3~4ぐらい上がっているそうだ。フィジカリーバードはレベル6で、夜になるとその上……レベル10のモンスターなんかも現れるのか。レベリングが捗るな。
「出現モンスターの変化まで大体三時間……大丈夫でしょう」
このゲームは現実世界の日本時間とリンクしている。今の時間が午後4時で……ソフィアの話からして完全に暗くなるのは7時からだ。
「それまでにすることは?」
「まずはサブの職業を手にしてもらいたいわね。それから装備の更新と、夜に出てくるモンスターについて軽く説明するわ」
そういうのは本当にありがたい。どんなゲームであっても先達がいると、後に続く連中が凄く助かるのだ。その恩を仇で返すことはザラだけど。騙して悪いがとか、やってたゲームじゃよくあったし。誰だってそうする。俺だってやってた。……あそこのプレイヤー全員ほぼ闘争狂いみたいなやつらだから、嬉々として騙されてたけど。
ここにもそういうやついたりするのだろうか? ……対人勢とかPK専門の連中ならそういうやついそうだな。