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パリィタンクが往く、リーヴラシル・フロントライン  作者: ゼノ
空を見上げ叡智を知り、地を見て深淵を知る。
1/68

夏休みの課題を超えて

リーヴラシル・フロントライン

自分だけの最前線を突き進むことができるVRMMO。初心者から上級者まで、誰もが楽しめるゲームとなっている。

 変態ビルド、と呼ばれる装備構成がMMOゲームやハクスラゲームなどに存在する。


 筋力にステータスをガン振りし、防御と敏捷を代償として両手利用前提の超重量武器を二刀流で持ち上げ、凄まじい一撃を叩き込む超脳筋ビルド。


 魔法や呪術を使うための魔力と、武器を使うためある程度の技量にステータス振り、ゼロ距離で魔法や呪術をぶっ放すゼロ距離魔法ビルド。


 あるいは敏捷と幸運にステータスを振り切り、ノーダメージ前提確定クリティカル超高速戦闘を行うクリティカルビルド。


 あるいは魔力と技量にステータスを振り、デバフのみに特化させ、安全圏からチクチク削り取る状態異常ビルド。


 とにかく特化し過ぎてあまり人には勧められず、自分でもやろうとは思えないビルド。あまりにも尖りすぎて人がやろうとしないビルドを、ゲーマー達は変態ビルドと呼んだ。


「…で、回避タンクってどう思う?」


『VRゲームじゃ狂気の産物だと思うわよ、アオヘビ君』


 そして、徹夜明けにコーヒーを飲みながらネトフレと通話している俺ーーーー蛇ノ目碧(じゃのめ あおい)もまた、変態ビルドの虜になっている存在である。


 ゲームだもの、自分が楽しいと思えるビルドで遊びたい。


『そもそもタンクなのにどうして避けるの?味方に攻撃が来るじゃない』


「回避タンクだからだぞ?」


『何を当たり前のことを、みたいな声を出さないでくれる?』


 例年通りの常夏。夏休みに突入する前に徹夜で高校から課せられた課題を全て終わらせた俺は、清々しい表情を浮かべてコーヒーを啜る。


「VRゲームだとソロ前提ビルドと言いますか…」


『オンラインの要素をかなぐり捨ててるじゃない…』


 骨伝導イヤホンから聞こえてくる呆れ果てた声に苦笑した俺は、思い出したように口を開く。


「あ、そういえばソフィア、課題手伝ってもらってありがとうございます」


『気にしないで。私の打算ありきだったもの』


 通話相手のネトフレ、ソフィアの言葉に対して俺はいやいや、と首を振った。


「まーじで助かった。あの先生、なんだこの問題集はよぉ…!」


『完全に趣味の領域があったわね…』


 国語、科学、世界史、英語は普通の課題であった。しかし、数学の課題には、大学の試験でも出ないであろう問題がいくつも掲載されており、答えを見てやっと解けるような趣味の領域があったのだ。


 これに発狂しかけながらも、答えを見ずに攻略。夏休み初日の朝になるまでかかってしまったが、何とか課題全てを突破したのである。本当に馬鹿じゃねぇのあの数学教師。


「これで毎日ゲームができる!バイトで貯めたお金で買ったゲーム!楽しみだ!」


『本当に自分で買ったのね。ダウンロード版?』


「パッケージ版。運良く売ってた」


 片手に持っているのは、今話題のフルダイブVRゲーム『リーヴラシル・フロントライン』。神と竜の戦争から幾星霜の時を経て、プレイヤー達がリーヴラシルという世界を舞台に最前線を駆け抜ける、という意味で付けられたタイトルである。


 ユーザー登録者数も最近何千万という数字へと到達した今最も最先端で、最前線を駆け抜けているゲームだ。今年のゲーム大賞はこの作品が取るであろうというのが、世間の見解である。


 最近は闘争を求めるロボゲーにハマっていたせいでこういったゲームとは疎遠になっていたが、ソフィアに誘われたし、始めてみることにしたのだ。


『今日からプレイするってことでいいの?』


「そのつもり。ソフィアは?」


『私は夜からログインするつもりよ。ちょっと眠いし』


「言われてみれば俺も眠い…」


『コーヒー飲んでるのよね?』


「カフェインレスのな?カフェイン入り過ぎると、ちょっと具合悪くなるんだよ…」


『ああ、なるほどね』


 変なところで繊細ね、とソフィアが言ってくるのを右耳から左耳へと聞き流し、俺はカフェインレスコーヒーを飲み干す。


「じゃあ今日の夜、レクチャー頼むよ、ソフィア」


『ええ。じゃあ夜に向こうで会いましょう』


「あいよ。んじゃお疲れ」


 通話が切れたのを確認した後、軽くシャワーを浴びてベッドに飛び込む。それだけで俺の中に溜め込まれていた疲労感や睡眠欲が溢れ出し、すぐに眠りへと誘われる。蛇ノ目碧、今月一番の熟睡であった。



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