④⑨
ヴァンから放たれる威圧感にディオンは言葉も出ないのか、リリアーヌを見ながら目を右往左往させている。
一応、リリアーヌを助けようとしているのか片手が上がるが、すぐに下がってしまい後退していく。
ヴァンの反対側の手が腰に携えている剣の柄が握られていることに気づいてコレットはヴァンの元に一歩踏み出した。
先ほどヴァンが言っていた『僕がヤる』というのは、直接自分がリリアーヌに手を下すという意味だとわかってしまったからだ。
「──ヴァン、やめてっ!」
コレットはヴァンの背中に手を伸ばして服を引く。
そして彼の行動を止めようと腰に腕を回して縋りつく。
「ッ、コレット!?」
コレットの行動に驚いたのか、ヴァンはリリアーヌから手を離してこちらを振り返ろうとしている。
「ヴァン、そんなことをしたらダメよッ」
「…………コレット」
「あなたに手を汚して欲しくないわ」
ヴァンが目を見開いて驚いていることにも気づかずに、コレットはヴァンを引き止めるのに必死だった。
ヴァンの手から力が抜けて、リリアーヌの体がドサリと地面に落ちたのがわかった。
「ゴホッ、ゴホ……ッ、ゲホ」
リリアーヌが思いきり咳き込む声が聞こえる。
「コレット、離してください」
「……っ!」
コレットはヴァンに名前を呼ばれて、ゆっくりと顔を上げた。
ヴァンがいつもの優しい声色に戻ったことに安堵していると、彼はコレットに「もう大丈夫ですから」と言った。
コレットはその言葉を信じて手を離すと、ヴァンは何故かウロとメイメイがいる方に手を伸ばす。
するとすぐに濡れた布が渡されて、ヴァンは手を丁寧に拭ってからウロに布を返している。
コレットはそれを見て首を傾げていた。
それからメイメイから渡される乾いた布で手を拭うとコレットを優しく抱きしめる。
「ヴァン、何を……?」
「汚い手ではコレットには触れられませんから」
〝汚い〟という言葉に唖然とするものの、ヴァンが先ほど触っていたのは〝リリアーヌ〟だ。
そしてあえてシェイメイ帝国の言葉で言わなかったことも意味があるような気がした。
コレットは戸惑いつつもリリアーヌをチラリと見た。
顔には掴まれた跡が残ってはいたが、幸い怪我はなかったようだ。
しかし今まで感じたことのない危険を感じたのだろう。
恐怖からか自らを守るように体を抱きしめてガチガチと歯を鳴らして震えている。
コレットはリリアーヌの怯える姿を初めて見て、どう声をかけていいかわからなかった。
反射的にリリアーヌの方に向かってコレットは手を伸ばす。
彼女を救うように一歩踏み出そうとしたのを見てか、ヴァンはコレットの腕を取り自分の方へ引き寄せる。
コレットは改めて自分が何をしようとしていたかに気づいて思わず唇を噛んだ。
あんなにひどいことを言われていたのに、コレットは無意識にリリアーヌに手を差し伸べようとしたのだ。
次第にリリアーヌが何かを呟いている声が聞こえてくる。
それは次第に大きくなりコレットの耳に届く。
「わたしにっ、こんなことをして許されないんだから」
「……っ!」
「絶対に許さない!今度こそお前を……っ」
涙を流しつつもコレットを睨みつけるリリアーヌを見て、固まってしまったかのように動けなくなる。
指先が急速に冷えていき、息が詰まるような苦しさに襲われる。
しかしリリアーヌの声を掻き消すようにヴァンがコレットに声を掛ける。
「コレット、そろそろ行きましょうか」
「……え?」
ヴァンはリリアーヌからコレットを引き離すように肩を抱いて歩いていく。
コレットはリリアーヌとディオンに背を向けて、ヴァンに促されるまま足を進めた。




