③⑥ リリアーヌside6
コレットが出て行ってから一週間が経とうとしていた。
父は怒りに任せてコレットをミリアクト伯爵家から除籍してしまう。
(あーあ、わたしの言うことを聞かないからこうなるのよ。バカなコレットお姉様)
リリアーヌはベッドの上で窓の外を見ながら考えていた。
新しいテーブルの上に置いてあるハサミを見ると、あの日のコレットを思い出す。
誰にも似ていないオリーブ色の長く伸ばしていた髪を切ってしまったのだ。
それに何の意味があるのかわからないが、コレットの中では大きな決断だったのだろうか。
(せめてわたしと同じ髪色だったらよかったのに……なんてね)
美しい自分とは違って、地味で平凡なコレットを可哀想だと思っていた。
瞳の色は同じなのにイメージは全然違って見える。
幼い頃は輝いていたコレットもリリアーヌが「ずるい」「羨ましい」と言って引き摺り下ろした。
あっという間にコレットはリリアーヌより下になって、そのまま魅力は霞んでいく。
コレットがいなくなり残念だと思っていたが、今回リリアーヌはコレットがいなくなったことで、今までコレットが持っていたすべてを貰い受けることになる。
全部がリリアーヌのものになるのだ。
(イケメンの婚約者も両親からの愛情もミリアクト伯爵家も全部、わたしのものよ!ウフフ……最高の気分)
今だってコレットがいなくなって落ち込んでいると言って、こうしてベッドの上にいる。
父と母が怒りだすため誰もコレットの話をしなくなった。
ただ一つ残念なのは、コレットが苦しむ顔が見れなくなってしまうこと。
しかし失ったのは憂さ晴らしの機会だけ。
その代わりにコレットが持っていたものを手に入れた。
これ以上、最高なことはありはしない。
リリアーヌは上機嫌に鼻歌を歌っていた。
しかし現実はリリアーヌの思った通りには進まなかった。
コレットがいなくなったことで彼女が抱えていたものが全てリリアーヌに降りかかることとなる。
最初に違和感を感じたのは父と母がリリアーヌの部屋に会いにこなかったこと。
忙しそうに屋敷内を駆け回り、苛々している姿をよく見かけるようになった。
リリアーヌのことを気にかけてくれなくなって、食事も一緒に取れなくなる。
どうやら今までコレットに任せきりだった領地の仕事と屋敷の管理をしなければならなくなったらしい。
(お父様もお母様も全然構ってくれないんだもの。つまらないわ……!)
次に気になったのはディオンのことだった。
リリアーヌと婚約した途端、ミリアクト伯爵家に顔を出さなくなった。
リリアーヌはディオンに「会いに来て」と手紙を送っても無視されてしまう。
しかしそれも気のせいだと言い聞かせていた。
(なんで……?わたしのことが大好きなのに言うことを聞いてくれないなんておかしいわ)
たまたま忙しいだけと思っていたが、今まではリリアーヌに会いにくるためにミリアクト伯爵邸に頻繁に通っていたのにおかしいではないか。
両親にそう訴えかけても、ディオンの行動に口を挟めるわけではない。
それに加えて、両親もリリアーヌに対する要求が増えてくることに気付く。
毎日、体調はどうかと問われて食欲があり熱がなければリリアーヌが大嫌いな口煩い講師をあてがわれてしまう。
朝早くから部屋から出されて、挨拶の練習や社交界のマナーを本格的に学べと言われて驚愕する。
(どうして?お父様もお母様もそんなことは言わなかったのに……)
リリアーヌに待っていたのは休みも楽しさもない勉強と厳しい講師たちによるマナーやダンスのレッスンだった。
リリアーヌは体調を言い訳にするも、次第にそれすら許されなくなっていく。
両親も味方をしてくれないし、リリアーヌは苦痛に耐えるしかなかった。
しかしそれも三日ほどで限界を迎えてしまう。
リリアーヌはハラハラと涙を流して、いつものように「嫌だ」と訴えかけた。
こうすれば何もやらなくていいと知っているからだ。
「もう無理、今日は具合が悪いのよっ」
「医師は問題ないと言っているから大丈夫だ」
「リリアーヌ、あなたはミリアクト伯爵家を継ぐのよ!?」
「お父様もお母様も変よっ!今までそんなことは言わなかったじゃない!わたしが具合が悪いって言っているのにどうして休ませてくれないの!?」
「……リリアーヌ」




