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今日、コレットは病弱だと嘘をつき続けている妹に何もかもを奪われた。



「ずっと病気で何もできなかったわたしに、婚約者をちょうだい?これくらいいいでしょう?」



これくらいいいでしょう?

その言葉はコレットの心を大きく抉った。



「……リリアーヌ、本気で言ってるの?」


「えぇ、だって仕方ないじゃない。コレットお姉様が悪いのよ?」


「すまないな、コレット。俺はリリアーヌと結婚する」


「……ッ!」


「病がよくなったリリアーヌに嫉妬して、陰で虐げていたなんて。許されることではないだろう?」



妹、リリアーヌの桃色の唇が綺麗に弧を描いている。


リリアーヌとコレットは一歳差の姉妹だ。

プラチナブロンドの髪が嫌味なほどにサラリと揺れた。

婚約者のディオンは、いつもの胡散臭い笑顔が嘘のように眉を吊り上げてコレットを睨みつけている。



「ミリアクト伯爵にはもう話はしてある。すぐに手続きをしてくれるそうだ。お前には失望したよ、コレット」


「ディオン様……コレットお姉様を責めないでくださいませ。きっと何か理由があってこんなことをしたと思うの。それにわたしはコレットお姉様がダメな人でも、ずっと一緒にいてあげたいと思っているのよ?」


「……!」


「これからもここにいて、わたしたちを支えていいから。ね?」



その言葉にゾッとして全身に鳥肌が立った。

リリアーヌとずっと一緒にいるなんて死んでもごめんだ。

そう心が叫んでいた。



「リリアーヌは優しいんだな」


「…………」


「ありがとうございます。ディオン様」



「それに比べてコレットは……」



当然のようにリリアーヌとコレットが比べられて、コレットが悪いと責められるのはいつものことだ。


(それに比べてコレットは……?あなたにだけは言われたくない。もう、この男と一緒にいるのはうんざりだわ)


コレットは怒りと悔しさから手のひらをグッと握る。



「コレットお姉様は〝可哀想〟な人だから、わたしもお姉様を許すわ」


「リリアーヌの優しさに感謝したほうがいい。それから己の身のふり方に気をつけるように。伯爵家を継げないお前に口を出す権限はないんだよ」



その言葉を聞いた瞬間、コレットの中で何かが壊れた。




* * *




コレット・ミリアクトには病弱な妹がいる。


それがリリアーヌ・ミリアクトだ。

プラチナブロンドの髪に宝石のような金色の瞳。

いつもベッドで寝ているからか、真っ白な肌に細い体。

じっとしていれば、まるで人形のように見えるリリアーヌ。


美しくて弱い……そんなリリアーヌを両親はとても可愛がっていたように思う。

コレットもリリアーヌが生まれてからずっと彼女を気遣ってきた。


外にも行けず、令嬢とのお茶会にもパーティーにも出席できずにずっとベッドの上にいるリリアーヌをコレットは『可哀想』だと思っていた。


だけどいつからだろうか。

その『可哀想』が『羨ましい』に変わったのは。


コレットに物心ついた時からリリアーヌはお姫様扱いだった。

両親は病弱なリリアーヌにつきっきりだった。

コレットは両親と過ごした時間よりも侍女や講師達と過ごした時間の方が長いだろう。


幼い頃は仕方ないと思っていた。

リリアーヌは体が弱いから、と。


だけど周りが見えてくるにつれてコレットの心境に変化が訪れる。

リリアーヌが羨ましくて仕方ない。

けれどそう考えてしまう自分に罪悪感すら抱いていた。


(リリアーヌは病気だから仕方ないの。わたくしが我慢しないと。リリアーヌの分までがんばらないと!)


しかし両親はそんなコレットの気持ちをどうでもいいと言いたげに踏み躙る。

両親は健康で元気なコレットにキツくあたった。


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