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 これは困ったことになったぞとシルクは思った。夫は何人の人にモテたかったのだろう?そして、どの程度のモテ具合を望んでいたのだろう?さっぱりわからない。どうして前世の自分は具体的なことを何一つ聞かなかったのだ。これでは前世に誓ったことが果たせないではないか。


 困り果てたシルクは夫の言葉を必死に思い出し、そこから夫の望みを推察出来ないだろうかと考えた。夫はモテモテになりたいと言っていた。単にモテたいではなく、モテモテとモテを2回続けて言うからには、単に一人から熱烈に好かれるのではなく、沢山の人々から好意を寄せられたいと考えていたのではないだろうか?


 もしも夫が黒髪の乙女に生まれ変わっていたのなら、夫の望みは直ぐに叶えられるだろう。何故なら乙女は黒色の髪と瞳を持っていた。この世界では髪と瞳の色が濃ければ濃いほど魔力が高く、人々は色の濃い髪や瞳を持つ者を好む傾向が強いから、黒髪の乙女は誰からも好意を持たれるだろう。


 現に4人の青年達は魔法陣に現れた黒髪の乙女を見惚れていたのだから、このシルクの考えは間違ってはいないはずだ。黒髪の乙女は4人の王子達の婚約者候補として召喚されてはいるが、誰もが羨む黒を持ち、そして容姿も美しい彼女は間違いなく他の貴族達にとっても憧れの存在になるだろうし、皆が彼女に親切にしてくれることだろう。


 黒髪の乙女が夫だったのなら、シルクは何の憂いもなく、また平民の生活に戻れる。だけど、もしも夫が4人の王子達の内の一人だったとしたら、夫がモテモテになるのを応援するのは至難の技になるだろう。と、言うのも、4人の王子達は皆、魔力が高すぎるからだ。


 シルクは第一王子の婚約者候補となっているが、まだ正式に第一王子に紹介されたことがなく、城にも行ったことがなかったから、第一王子や他の王子達と直接会って話したことがない。だから王子達の人となりをシルクは知らないが、彼らは王子だから地位は高いし、お金だって持っているだろうし、それに加え、神殿で見た4人は皆、容姿にも恵まれていた。


 それらの条件をすべて兼ね備えている者など、そうそういないだろうから、きっと4人の王子達は以前から貴族達に人気があったはずだ。だけど4人は魔力が高過ぎて、近づくと魔力酔いを起こしてしまうから、他の者達は近づきたくとも近づくことが出来ない。


 シルクは前世でも現世でも、モテモテになったことがないから、これはあくまでも私見に過ぎないが、どれだけモテていても自分がモテていると実感できなければ、モテているとは言えないのではないだろうか?彼ら4人が自分はモテていると自覚するには、常に貴族達が彼らに侍て、持て囃すのが手っ取り早くて確実な方法だが、そうなるためには彼ら4人が自分達の魔力を完璧に抑え込むか、他の者達が魔力酔いを起こさないようになるしかない。


 が、そんな対処法があるのだったら、端から平民として暮らしていたシルクを引っ張り出してきたり、魔法陣で乙女を召喚しようなんてしないはずだから、これらの方法は無いと考えるべきだ。なら、後一つ残された方法は黒髪の乙女から好意を寄せられることしか他に方法はないが、誰が夫なのかが、わからない間は迂闊に誰かを応援することは出来ない。


 それに、もしも夫が沢山の人からモテモテになりたいと望んでいた場合、果たして黒髪の乙女一人分の愛情で満足してもらえるのだろうか?前世の夫ならば、そんな心配はいらなかったのかもしれないが、なにぶん夫は来世では今と違う自分になってモテモテになりたいと望みを口にしていたのだ。姿かたちだけではなく、考え方も変わってしまっている可能性が大いにある。


 もしも、そうだったとしたら王は息子の夢の実現のために、また魔法陣を使って乙女を拉致誘拐するのだろうか?きっと王家は4人の息子全員の婚約者候補に相応しい乙女達を召喚していくのだろう。そうしたら魔力が高すぎる他の貴族達も、きっと魔法陣を使いたがるはずだ。


 前世の記憶があるシルクにとって召喚魔法は、家族や友人や住んでいるところから突然引き離される拉致誘拐にしか見えず、恐ろしい国家犯罪だとしか思えないが、4人の息子のために魔法陣を使う前例を王家が作ってしまったのだ。触れ合える異性を渇望していた者達の歯止めは効かなくなるだろう。


 先ずは夫が誰に転生したのかを知るべきだろうが、夫が前世の記憶を覚えているとは限らない。それに……もし、夫も前世の記憶があったとして、モテモテになっている自分を前世の妻であるシルクに見られるのは、例えシルクが夫に嫉妬しないし、軽蔑もしないと言ったとしても、夫にとっては居心地が良くないだろうし、心置きなく、その状況を楽しめないのではないだろうか?


 夫の夢を叶えるためには、シルクが前世の妻であることを夫に悟られないようにしなければならない。でも夫の夢を応援するためには、夫に夢の内容を具体的に聞かないと、どう応援すれば良いのかが、わからない。これでは八方塞がりで身動きすら出来ないではないか。前世を思い出し、全力で夫を応援しようと高揚していた気持ちが一気に下降したシルクは机に突っ伏した。

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