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 部屋に戻ったシルクは机に置かれた原稿用紙を前にして、腕組みしながらウンウンと唸って悩んでいた。シルクを悩ませているのは勿論、反省文の内容について……ではなかった。神殿での召喚を見るまで自分の前世など思い出しもしなかったシルクは、たった5つしかないクイズのゲームが現実化した世界とは一体、どんな世界なんだろうかと自分が今、生きている世界について頭を巡らせていた。


 すると意外と言えば意外で、当然と言えば当然のことなのかもしれないのだけど、”私の恋した魔法使いは世界最強ネギ様!〜恋と葱って、恋と変くらい似てネギ?www”というゲームが現実化した世界とは、ズバリ魔法が実在している世界だった。


 シルクが今いる世界には魔法というものが存在していて、人は生まれながらにして魔力というものを持って生まれてくる。それだけを聞けば前世で魔法に憧れている人々からは、魔法がある世界に転生することが出来るなんて、まさに夢のようだと羨ましがられるだろう。だけれども悲しい哉、ここは夢の世界ではなく、あくまでも現実の世界であった。


 何故ならばシルクが前世で生きた世界のように、この世界にも貧富の差があるのは勿論のことだが、それ以外にも乙女ゲームを装っていたゲームの世界だからか、どことなく中世ヨーロッパ風の世界で、王や貴族が存在していて、身分差は前世以上に厳しかった。


 それに何より恋ネギの世界だからなのか、魔力格差というものが幅を利かせていたので、この世界は魔法がある分、前世よりもファンタジー感はあるものの、前世以上に世知辛い世界でもあるといえた。


 この世界でも人は皆、一人として同じ人間ではなく、人々が持って生まれてくる魔力も千差万別で、そして多少の個人差はあれど、一般的には髪や瞳の色が濃い者ほど魔力が高く、また平民よりも王侯貴族の方が高い魔力を持って生まれてくる者が多かったからか、大多数の人々は魔力をより多く持っている者を尊び、敬い、男女問わずに髪や瞳の色が濃い者を好む傾向が強かった。


 だからなのか、昔から王侯貴族達は魔力の高い自分達の血を後世にも残したいという考えから、魔力の大きな者同士を政略結婚させていたのだが、それを長年繰り返した結果、異様に魔力が高い子どもが時折生まれてくるようになった。それは一見すると王侯貴族達の望んだ通りになったと言えるのだろうが、実際はそう喜ばしいことにはならなかった。


 赤子の頃から大人並みに魔力が高い子どもが大人に成長すると、持って生まれた魔力は何倍にも育っていくのだが、あまりにも魔力が高すぎるのが仇となって、平民は元より、平民よりも魔力が高いはずの貴族でも、成長した子どもの傍に近づくと魔力酔いを起こすようになってしまったからだ。


 魔力酔いになると、動悸息切れ頭痛目眩悪寒吐き気等々の諸症状に陥り、魔力酔いが酷い場合だと意識混濁を引き起こし、昏睡状態となってしまうことも多かった。しかも膨大な魔力を持って生まれてくるのは何故か男児ばかり。彼らと同等の魔力を持って生まれてくる女児は一人もいなかったため、大人になった彼らと釣り合う魔力を持つ女性は誰もいなかった。


 王侯貴族達は魔力の強過ぎる彼らの血を増やしたいとの思いから、無理やり貴族令嬢と政略結婚させようとしたが、婚約式前の初顔合わせで彼らの魔力に耐えきれずに魔力酔いで昏倒する女性が続出したため、無理矢理添わせることが物理的に出来ないことが判明し、折角強い魔力を持ち合わせても添える相手がいないせいで、魔力の高すぎる貴族男性は、独り身で生涯を終えるしかなかった。


 そして良い打開策が見つからないまま数十年経った現在、ついに大問題が生じてしまった。その大問題とは国王の4人いる息子のことだった。4人共、膨大な魔力を持って生まれてきてしまったために、婚約者を用意することが出来ず、後継者問題が深刻化してしまったのだ。


 王族である彼らは、何が何でも王家の血を引く後継者を作らなければならない。にも関わらず、彼らの魔力に酔わない女性は今の所、一人しかいない。王家は取り敢えず、その女性を第一王子の婚約者候補にしたものの、たった一人では不十分だと考えたのだろう。禁断の召喚魔法に手を出して、魔力に酔わない女性を召喚することにしたのだ。




 前世を思い出したシルクにとって、乙女の召喚は国による拉致誘拐にしか思えない、非道な行いだった。だから人道に大いに反する鬼畜な所業を国が行うなんて世も末だなとシルクはゲンナリしつつも、……ああっ、それでなのか。なるほどな……と独り、ごちた。何故ならシルクは、もしも自分が前世を思い出していなければ、この後シルクは前世で見た乙女ゲームの悪役令嬢のようになっていたかもしれないと思ったからだ。


 先程、リョクシュウが言っていた通り、一応シルクは第一王子の婚約者候補ということになっている。なのに王家も実父である公爵も、魔力に酔わない乙女を召喚することや、その召喚の場に第一王子を立ち合わせることをシルクに黙って行っていた。


 もしもシルクが自分の前世を思い出していなかったら、それを見たシルクは、自分勝手に振り回しておいて、また裏切るのかと憤慨する気持ちを何の罪もない乙女にぶつけてしまっていたかもしれない。そうしたら乙女を守るという大義名分を得たシルクを嫌う者達によって、シルクは断罪されてしまうだろう。


 そう考えたシルクは前世を思い出せて良かったとシミジミと思いながら、机の引き出しから手鏡を取り出し、自分の顔を見た。そこには実父や王侯貴族達がシルクを嫌い、多分そのせいもあって、彼らが魔法陣で召喚を行うことにしただろう理由が映っていた。

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