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ステキなステラ  作者: 脱水カルボナーラ
8/14

第八話 伝説の飼育員

更新です!


2025/02/08 追記:リライト版更新しました!!!!!!!

「困った、ジュディスが死んでしまったじゃないか!」

ボスはいよいよ水槽の中で取り乱して震え始めた。

「死んどらんっつーのに!」

博士は狼狽えるボスに呆れ、長い首をくねらせていた。

「マジでこっち来てるぞ! ステラ!」

ゼンの言う通り、高速でこちらに向かってくるはぐれバーガックスは、あと三十秒ほどで私たちの隠れているポイントに到着しそうだ。

 久々に脳の回路が熱で焼き切れそうなほど、頭の中で何かを練った。大学入試ぶりかも!

「あと少し……思いつきそう」

私の頭に入っている膨大な宇宙の知識から、必死にバーガックスについての情報を検索した。宇宙生物の図鑑、猛獣と出会した時のサバイバル術、肉食宇宙生物の生態、保護区に立ち入る密猟者を追うドキュメンタリー。そして、伝説の飼育員の手記。

「——あ」

目の前に銀河屈指の猛獣バーガックスが迫ってきている中、私は最初で最後、一か八かで尚且つ一番期待できる作戦を閃いた。

「ゼン、あんた今すぐあのバーガックスのとこまで飛んでいける?」

タイムリミットはあと三十秒。バーガックスは強靭な脚で大地を踏み鳴らしながら、雄叫びを上げている。

「できるけど……ぶっ倒せってことか?」とゼンが聞いた。

「そうだ! ガグーア人のゼンなら、あいつの腑を引き摺り出すくらい造作もないことだろう! 首をへし折り、それから——」

「ボス……」

ほとんど半狂乱状態のボスが猟奇的なことを口走るのを、姐さんは冷ややかな目で見ていた。

 私はゼンの眼をまっすぐ見つめた。

「倒せって言ってんじゃない! よく聞いて。あのバーガックスのとこまで行ったら——」

私が伝えた作戦を聞いて、ゼンは驚いて声を漏らした。

「は!?」

「いいからやって! あんたしか出来ないの! 本気で無理と思ったら投げ飛ばしていい。無茶させて申し訳ないけど……」

「……おう。分かった、任せろ!」

ゼンはそう言ってまたあの真剣な瞳で私を見つめたかと思うと、それも束の間に大きな翼を広げ、空気を裂いて飛び立った。

「まじ、絶対成功させなさいよ……」

祈るようにそう呟いた。ボスはショックで気絶してしまったらしく、水槽の底に横たわっている。

 はぐれバーガックスが、手前五十メートルほどの地点までやってきたところで、ゼンが真正面から対峙した。普段は鬱陶しいくらい大きいゼンが小さく見える。はぐれバーガックスはゼンをそのまま喰らうつもりなのか、ゼンの背丈をゆうに越すほどに口を大きく開き、足を止めることなく突っ込んで来た。ゼンはその場を動かない。

「ゼンがやばいぞ! なんて指示したんだ!?」

グレイ先輩は焦ったのか、ゼンの方を指して私の方を向いた。

「——大丈夫です。ゼンを信じましょう」

私はゼンの背中を見つめてそう言った。うまくいく保証はない。でも、私の頭が弾き出した答えだ。ゼンはそれを信じてくれた。癪だけど、今は発案者の私こそが一番ゼンを信頼してやらなければならない。

「ステラ……」と姐さんが呟いた。

 バーガックスがゼンを一口で食らおうと長い首を振りかぶった瞬間。ゼンはその隙を見逃さなかった。

 猛獣と猛獣の衝突。その時の衝撃は凄まじく、橙色の荒野に響き渡った。

「止まれええええええええええッ!」

ゼンははぐれバーガックスの突進に跳ね飛ばされるどころか、強く羽ばたいてそれを押し返す勢いで受け止めた。ガグーア人の怪力は、やはり目を見張るものがある。

「お、おい。何してんだよ、アレ……」

グレイ先輩はその後ゼンが始めたことに唖然としていたが、それはまさに私の指示通りであった。

「あれでいいんです」と私は言った。

「よしよし。寂しかったんだよな、お前」

ゼンはバーガックスの喉元をさすりながら語りかけた。

「フォフォ。やはりガキの頭の柔らかさにはかなわんの。生意気ぢゃ」

私の隣で博士が何か言ったような気がしたが、気にしないでおこう。いつの間にかバーガックスは顎を閉じて、満足そうに喉を鳴らしたりしている。

「アレって……懐いてる!?」

姐さんは目の前で、先ほどの様子からは全く信じられない程に大人しくなったバーガックスを見て、頭の上のツノを点滅させて驚いていた。

「昔、伝説の飼育員、ジェイン・モモジマの手記を読んだのを思い出したんです」

私は種明かしをするべく話し始めた。

「伝説の飼育員?」

ボスはいつの間にか意識を取り戻し、間抜けな声で会話に割り込んできた。

「伝説の飼育員ジェインは沢山の凶暴な宇宙生物、飼育が困難な生物など、数々の生物を捕獲し、さらに動物園での長期飼育を成功させてきた人物です」

知識をひけらかすのは非常に気分がいい。私はさらに続けた。

「そんなエキスパートがバーガックスについて手記で触れてたのを思い出したんです——バーガックスを家族として迎え入れるなら、家族のいないものにすること。彼らは孤独だ。暴れ狂って手がつかなそうに見えるが、面と向かって抱きしめてやれば、たちまち懐く——って」

「なるほど〜」と姐さんは頷いた。

「ステラは正直、ウチの部署には勿体なすぎるねえ」

私が本の一節を暗唱して引用すると、ボスは助かった喜びでしみじみとした顔をしながらそう言った。博士は黙って満足そうに頷いている。

「お前、居場所がないんだろ? 俺たちが新しい家まで連れてってやるよ!」

「ごるる」

ゼンははぐれバーガックスとすっかり仲良くなったようだ。獣同士、通づるものがあるのかもしれない。

「ステラ! お前やっぱすごいな! ほんとに成功しちまった。俺、ぶっ倒すとかぶっ壊す以外のことも出来るんだな!」

バーガックスの頭の上に座ってこちらを見下ろしながら、ゼンは私に満面の笑みで語りかけてきた。

「はあ、今回ばかりはあんたの手柄。ありがと」と私は目を逸らして言った。

「な、何だよ急に!」

ゼンはなぜかあたふたしながら、いつもの調子で威嚇してきた。人がせっかく礼を言ったのに、なんて奴なのだろうか。

「こっちのセリフよ!」

バーガックスの頭上めがけて、大きな声で叫んだ。

「え? 今更だけど、任務達成?」

姐さんは気が付いたように呟き、みんなもようやく実感が湧いたようだ。

「そ、そうだね……! これでバーバラに顔向け出来る……ステラとゼンがいてくれたおかげだね」

ボスは心に巣食っていた全ての不安が取り除かれたようで、それが反映されたのか台詞の後半は本来の渋い声に戻っていた。

 バーガックスを無事捕獲——ではなく、友達にすることに成功した私たちは、大急ぎでエルラダに戻らねばならなかった。

「こいつと一緒にコンテナに乗ってく! 寂しいだろうし」

ゼンもすっかりバーガックスのことが気に入ったようで、すでに飼い主のような面をしてそう言った。博士が持ってきた牽引コンテナの中にバーガックスとゼンを格納して、私たちもオービット二〇〇〇号のコックピットに乗った。

「なんかだいぶ時間押してない? バーバラのショーまであと五時間くらいしかないんだけど〜」

姐さんは端末を見ながら、さほど危機感もなさそうな声で呟いた。

「ないんだけど〜じゃないよ! まずい、早く出発しなければ!」

ボスはまた青ざめて、水槽の中をぐるぐる泳ぎ始めた。

「ジュディス死んだので、私が運転します。もうさっさと行かないと! みんな、席についてください」

ジュディスに運転の技術を見せつけられないのはいささか悔しいが、そんなことを言っているほど時間は残されていない。多少の無茶を承知で、私はすぐに高速航行の準備を整えた。

『ジュディスウウウウウ!』

マーフィー君は、ただの鉄の塊となってしまったジュディスの一部をいつの間に回収してきたのか、大事そうにそれを両手で抱えながら叫んでいた。ロボットはこういう時涙を流せないのが切ない。

「黙らんか! 帰ったらすぐ復元するわい」

博士は相変わらず薄情なことを言っている。

「エンジン出力全開、発進!」

 全てのレバーを倒した。私たちはすぐさま、バーバラの待つエルラダへ飛び立った。

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