第八十七章 〜 ヴィッディーの幼馴染だった人 〜
雄紀と、おじさんは、目を合わせた。
『・・誰だろう・・。 』
スーリャが、電話を取った。
雄紀と、おじさんは、スーリャの顔を見つめた。
「はい! はい、あ・・はい。 少々お待ち下さい。 雄紀、電話です。 」
「え? 僕に・・!? 」
雄紀は受話器を受け取って、耳に当てた。
「・・はい。 もしもし・・。 」
電話の向こうの誰かが話し始めた。
「あ、雄紀君かい? サンチェスだよ。 」
「どうも・・。 」
「僕だよ。 浜の町の漁師の。 来てくれるんだろ? ヘスーサンを光らなくする・・何とか言うやつ。 」
「あ、はい! 」
雄紀の頭の中に、突如、今までは無かった記憶が湧いてきた。
湧いてきたと言うよりも、『誰かが雄紀の頭の中に、情報をダウンロードした様な感じ』と、言う表現が合っている。
その記憶とは、
雄紀がジャイナに降り立って、教会を飛び出して、町の外れまで全力疾走した時のことだ。
雄紀は、サンチェスが押している荷車の前に飛び出して、倒れ込んでしまった。
サンチェスは、雄紀を車で引いてしまったと思って、慌てている所に、おばさんが現れた。
そして、サンチェスがおばさんの家である納屋に、雄紀を運んだ。
サンチェスは、それから、ちょくちょくおばさんの家に、雄紀を訪ねて来る様になった・・、と言うものだ。
おばさんの家に、サンチェスが来てくれた時にしてくれた 話によると、サンチェスは、ヘスーサン。
そして、ヘーゼルマンの漁師が捨てる雑魚を拾って、売って生活をしている家庭に育ち、学校には通わずに、浜で貝を取ったり、浅瀬で取れる魚を取って売って生活をしている。
だから、図書館に行って勉強をしたいそうなのだが、図書館は、ヘーゼルマンしか入れない。
光らなくなったら、図書館に行って本を読みたいと語っていた。
そして、いつか学校に行うのが夢だとも語っていた。
『・・多分、サンチェスは、ヴィッディーの幼馴染だった人だ・・。 』
雄紀は思った。
少し心が締め付けられて痛くなった。
しかし、同時に、ヴィッディーの存在を感じることが出来て、少し嬉しくて、心が温かくなった。
「明日は、どうしたら良い? ホテルに行こうか? 」
「そうですね。 場所まで案内して頂けると、ありがたいです。 会場は、どんなところなんですか? 」
「ホテルから、そんなに遠くないよ。 会場は、スラム街は危ないから、ヘーゼルマン居住地区の近くの、安全な場所だよ。建物も、ヘーゼルマンが建てたものなんだ。 」
「そんなところがあるんだ。 」
雄紀は、驚いた。
「ヘーゼルマンの中にも、僕たちが光らなくなるのを応援してくれてる人たちがいるんだ。 彼女たちが居なかったら、その会場は借りることが出来なかったんだ。 じゃ、明日の朝、9時で良いかな? 」
「分かった。 9時ですね。 はい・・。 じゃ、明日・・。 」
雄紀は電話を切った。




