第八十三章 〜 再び4人になって・・ 〜
ラディカが、ヴィッディーの頭と方を包むように両手で抱き上げた。
雄紀は、起き上がって黒い霧に、聖水を降りかけた。
その瞬間、黒い霧は消えて行った。
「ヴィッディー! 」
ラディカが、ヴィッディーの名前を呼んだ。
ヴィッディーは、意識がもうろうとしているようだ。
見る見る、肌の色が青白く変わっていった。
「・・雄紀は? 」
ヴィッディーがラディカに聞いた。
「ヴィッディー、僕はここです。 ヴィッディーの、お陰で無事です。 ヴィッディー、しっかりして! 僕たちは、ヴィッディーを助ける為にここに来たのに・・・・。 」
雄紀は、頭が混乱した。
そして、その混乱の塊は、雄紀の喉を詰まらせた。
「・・雄紀、ソーハムに会って来たよ・・。 」
「え!? 」
「君は、運命を変えようとした。 」
「僕は、ヴィッディーを助けたかったんだ。 ヴィッディーが居なくなるのは、どうしても嫌なんだ! 」
「・・ありがとう。 でも、それは間違っている。 私が死んでしまっても、それは些細なことなんだ・・。 」
ヴィッディーは、咽た。
ヴィッディーの唇に血が滲んでいる。
肺からの出血が上がって来ている様だ。
「ヴィッディー、もう黙っていて。 良くなってから・・。 」
雄紀は、ヴィッディーの言葉を遮った。
ヴィッディーは、ふらふらしながら、ブルブル震えながら、上半身を持ち上げて、雄紀の腕を掴んだ。
雄紀は、驚いて言いかけていた言葉を飲み込んだ。
「雄紀! 私の最後の言葉を聞いて! 君が生きて帰ればすべてが叶うんだ! 君が生きてさえいれば・・! 」
いつも穏やかな、ヴィッディーとは思えない形相に、雄紀は言葉を失った。
ヴィッディーは、最後の力を振り絞って言葉を続けた。
「雄紀、“死”は“死”では無い! 私は、君に、いつでも会えるんだ! そして、また君の世界で・・。 」
ヴィッディーは、一瞬、意識を失った。
そして、再び虚ろに目を開いた。
ヴィッディーの目には、ラディカが映った。
「・・ごめんね・・。 」
ヴィッディーは、にっこり微笑みながら、そう呟いた。
そして、その、ほほ笑んだ瞳が再び開くことは無かった。
ラディカは、しばらく放心状態のまま、ヴィッディーを抱きしめていた。
そして、ラディカの悲鳴のような泣き叫ぶ声を上げた。
◇◆◇◆◇
どれくらい時が経っただろう・・。
外は、もう真っ暗になっていた。
おじさんが、ヴィッディーの頸動脈部分に触った。
そして、ヴィシュヌの脈も確かめた。
「・・遺体は、このままにしては置けない・・。 」
みんなで、中庭に、深い深い穴を2つ掘った。
みんなで、2人を穴に寝かせた。
美しく咲いていた、花を摘んで来て花束を作り、2人に持たせた。
そして、少しづつ、少しづつ土を掛けた。
そして、再び4人になってしまった、雄紀達は、ヴィシュヌが用意してくれた紅茶を飲みながら、サンドイッチを食べた。
紅茶は、冷めて渋くなっていた。
サンドイッチは、きっと、6人で食べていたら、本当に美味しかったであろう。




