第八十二章 〜 黒い霧 〜
皆、玄関先のソファに座った。
「飲み物をもって来よう。 紅茶にしようか・・。 」
ヴィッディーは、そう言うと、台所に向かった。
「僕も手伝います。 」
雄紀は、ヴィッディーを追いかけた。
「ちょっと待ってて・・。 」
そう言うと、ヴィッディーは台所と向かいのお手洗いに入って行った。
雄紀は、台所で勝手がわからないので、台所の前で、ヴィッディーを待っていた。
すると、ヴィシュヌは、ヴィッディーと、雄紀を追いかけて来た。
ヴィシュヌは、雄紀の隣に立った。
「ヴィシュヌさん、そう言えば、さっき食事の用意をして下さったんですよね? 」
「そうか? 」
「僕は、ヴィッディーの台所に入るのは初めてなので、どこに何があるのか分かりません。 ヴィッディーを待ちます。 ヴィシュヌさん、は先に行ってて良いですよ。 」
「・・・・。 」
ヴィシュヌは、ギョロっとした目で、表情を変えずに雄紀を見つめた。
その顔色は、青白さを通り越して、緑がかった、淡い黄灰色に近かった。
雄紀は、突然、体も、思考も蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなった。
ヴィシュヌは、雄紀の顎をつかむと自分の口を少し開いた。
雄紀の頬の上から上顎と下あごの関節の間に指を突っ込んで、雄紀の口を少し開いた。
ヴィシュヌは、自分の口を雄紀の口に近づけた。
その時、おじさんが、2人の様子をみつけた。
おじさんは、2人に向かって走り出した。
周りのみんなは、急に駆け出した、おじさんを見ている。
ヴィッディーが、お手洗いから出て来た。
ヴィッディーは、瞬間的に何が起きているのかを察知した。
ヴィッディーが雄紀を突き飛ばした。
「ヴィッディー!! 」
ラディカが叫んだ。
ヴィシュヌの体が崩れ落ちた。
ヴィシュヌの体が、たった今まで存在していた空間に、黒い霧の様な陰りだけが残った。
黒い霧の真ん中には真っ赤な目玉がギョロギョロしている。
霧の一部が、細長く変わった。
それは、まるで剣のようなになった。
そして、一瞬、金属の光を放ち、ヴィッディーの胸を突き抜けた。
ヴィッディーは、ヴィシュヌの隣に崩れ落ちた。
ヴィッディーは、横たわりながら、ヴィシュヌの生気の消えた頬に触れた。
雄紀は、黒い霧に聖水を降りかけた。
黒い霧は、その瞬間、消えていた。
おじさんが、雄紀に覆いかぶさった。
皆が、駆け寄って来た。
「ヴィッディー!!!! 」
ラディカが、駆け寄って来た。
ヴィッディーの胸から、心臓の鼓動に合わせて血液が滲み出てきているのが服の上からでも分かった。
ヴィッディーは、遠のいていく意識の中、ヴィシュヌの二の腕を掴んで擦った。
しかし、ヴィシュヌの体はピクリともしなかった。




