第七十四章 〜 ヴィッディーの思い 〜
「って言う事は、君は・・ソーハム様の生まれ変わりなんだよね。 」
突然、ヴィシュヌが、雄紀に言った。
「・・実は、僕には全く自覚がありません。 大体、ソーハムさんと僕の性格は正反対ですし。 ソーハムさんは、自信に満ちたカリスマ的存在だったって聞いてます。 僕は、自己肯定感がまるで低いですし。 大体、何も出来ない・・。 」
ヴィシュヌが、何かを閃いたような表情をした。
「“ゆうき”だよね。 思い出したよ。 ヴィッディーが、良く君のことを話してたよ。 ヴィッディーが、君のことを話す時、いつも、凄く嬉しそうなんだよ。 昔ね、ソーハムのことを話す時も同じ様に凄く嬉しそうに、楽しそうに、話してたんだけど・・。 ソーハムが、あんなことになってからは、嬉しそうな彼を見たことは無かったんだ。 でも、君が現れたから・・。 君のことが、“楽しみだ”って、“期待してる”って話してたよ。 」
「・・嬉しいです。 ありがとうございます。 僕は、ずっと他の人と交わらない様に生きて来たから、ヴィッディーは初めて出来た本当の友達なんです。 だから・・・・、ありがとうございます。 」
雄紀と、ヴィシュヌは黙って、3人を待っていた。
しばらくして、3人がテーブルに戻って来た。
ラディカは、落ち着きを取り戻している様だった。
「・・まだ起きてない事ですもの。 私が必ず阻止します! 」
ラディカは、雄紀とヴィシュヌを代わる代わる見ながら言った。
「ありがとう。 ヴィッディーは幸せ者です。 あなたにそんなに思ってもらえて・・。 」
ヴィシュヌはラディカに、そう返事をすると、にっこり微笑んだ。
ラディカの頑なだった表情が少し緩んだ。
「まぁ、御茶を頂きましょう。 冷えてしまいましたね。 」
皆、再び結界を張ったテーブルの椅子に座った。
5人とも、黙ってお茶を飲んだ。
その紅茶は、すっきりして、香りが良く、熱かったら本当に美味しかったであろうとものであった。
紅茶の香りには、人を落ち着かせる効果がある。
そのお陰か、皆、表情が少し穏やかになった。
「・・そろそろ、出発しますか? 」
雄紀が、おじさんに声を掛けた。
「そうだね。 あまり時間が無い。 」
いくら、ヴィッディーが、お土産の買い物や、寄り道をしながら、ゆっくり向かっているとは言え、もたもたしている余裕は無かった。
皆で、犯人が現れる前に、現地に到着したかったからだ。
「私が運転しようか? 」
おじさんが言った。
「大丈夫です。 私、運転できます。 」
ラディカが、そう言ったが、やんわり断られた。
5人は、休憩所を後にした。
お店を出た時に、スーリャは、建物の端の所に黒い影を見たような気がした。
しかし、見間違いだと思い、気に留めなかった。




