第七十一章 〜 ラディカとスーリャ 〜
ヴィシュヌの先導で、町を抜けて海岸線に出た。
本来であれば、この美しい海岸と水平線が見えると、大体の人が声をあげる。
しかし、雄紀達の乗る車の中は静まり返っていた。
ヴィシュヌのレストランからは、ラディカが運転して、助手席では、スーリャが、ずっと放心状態だった。
雄紀は、難しい顔をして、荷物を支えながら外を見ていた。
おじさんは、しばらくはキーボードをカチャカチャ言わせていたが、しばらく考え事をする様な表情で、手が止まったままだった。
おじさんが、後ろから声をかけた。
「ラディカ、運転を替わろうか? 」
「いえ。 大丈夫です。 私、多分所長が思っている程、繊細ではありませんので、少なくとも、スーリャの様には・・。 」
「“スーリャの様には・・”とは、どういう事だよ。 僕だって、そんな繊細じゃないよ。 平気ですよ。 」
「本当~? まぁ、どちらでも良いですけど。 私、運転好きなので、まだ全然大丈夫です。 」
ラディカは、スーリャの細やかな抗議に、にこやかに答えて、おじさんの申し出をやんわりと断った。
雄紀は、ラディカは“お嬢様”と聞いていたので、そのちょっと、ぞんざいとも取れる言葉のやり取りに少し驚いた。
ラディカは、バックミラーに手で動かして、ミラー越しに、きょとんとした雄紀と目を合わせた。
「なに? あぁ、私の事、所謂“お嬢様”だと、思ってたでしょ。 ごめんね~、しゃましゃましてて。 特にハンドルを握ると性格が変わるように見えるって、よく言われる。 でも、これが普通なの。 」
ラディカの、皆に取っての意外な表情で車内の空気が変わった。
「ラディカって、結構気さくなんだね。 本当は、どう話しかけて良いか分からなかったから安心したよ。 」
「そうなの? 別に、お嬢様扱いして下さっても良くてよ。 」
「はい、はい。 」
スーリャがラディカに相槌を打った。
みんなが大笑いをした。
「みんな、もしかしたら、また何か想像の範疇を超える様な事が起こるかも知れない。 でも、皆と一緒なら、大丈夫な気がする。 ありがとう・・。 」
雄紀は、皆に話しかけた。
「そうだね。 みんな、ヴィッディーの為によろしく頼む。 」
おじさんも、続けて話した。
「雄紀、所長、何かがあることは最初から分かってました。 ヴィッディーに危機が迫っているのではないかって・・虫の知らせで。 ヴィッディー、大丈夫なんですよね。 」
ラディカが、思いつめた様に雄紀とおじさんに話しかけた。
それに対して、おじさんが答えた。
「すまない。 今は、何も言えないんだ。 君達を巻き込んでしまうかも知れない。 迷惑をかけてしまうかも知れないんだ。 だから・・ 」
「所長、“巻き込んでしまうかも知れない”って、僕達は、もう巻き込まれてますよ。 “迷惑をかける・・”? そんな、悲しいです。 僕は所長に取って、そんなに信頼出来ませんか!? 」
おじさんの言葉を遮って、スーリャが抗議した。
雄紀も、おじさんも2人の気持ちが、嬉しかった。




