第七十章 〜 呪いの人形 〜
ドアベルが鳴って、入り口が開いた。
「何? 何? 何で閉まってるの? 」
突然、40歳くらいの男性が入って来た。
「ごめん、ごめん。 今日は、ちょっとね・・。 」
「え? 」
雄紀が、にこやかに会話を遮った。
「こちらは、何方ですか? 」
「あぁ、友人の・・・・。 」
「じゃ、所長、行きましょうか? 」
雄紀が立ち上がった。
おじさんは、既に立ち上がっていた。
「いかん、いかん。 もう、こんな時間になってしまった。 2人とも、行こうか! 」
スーリャとラディカは、訳が分からないまま立ち上がった。
「ヴィシュヌさん、お願いします! 行きますよ! 」
雄紀の、ただならぬ断言的な表情に、ヴィシュヌも釣られて鍵とカバンを持って店を出ようとした。
「何だよ~。 みんな、ここで話そうよ。 まだ、良いでしょ? 」
ヴィシュヌの友人の目が赤く光った。
「え!? お前は・・? 」
ヴィシュヌは立ち止った。
雄紀は、ヴィシュヌの腕を掴んで、出口の方へ引っ張って行った。
入り口のドアを開けようとした。
開かない。
ヴィシュヌの友人が、こちらに向かって歩き始めた。
ヴィシュヌが力尽くで開けようとする。
やはり、開かない。
ヴィシュヌの友人が、すぐそこまで近付いて来た。
雄紀が、把手を中心にドアに聖水を振りかけた。
そして、把手に手をかけて力いっぱい動かした。
軽く開いた!
みんな、お店から飛び出した。
ヴィシュヌの友人が、走って追いかけて来る。
おじさんに、手が届きそうになった。
雄紀が、振り返って、ヴィシュヌの友人に聖水を振りかけた。
ボッ!!
ヴィシュヌの友人が青い炎に包まれた。
「・・・・!! 」
よく見ると、燃えているものは、人では無い。
木と、布と藁で作った人形の様なものだった。
5人とも、少しの間立ち尽くしていた。
「行きましょう! 時間がありません! 」
雄紀が、みんなに訴えた。
皆黙って、車に乗り込んだ。
ヴィシュヌは、いったん店の入り口に戻り、震える手で鍵をかけた。
そして、自分の車に乗り込んで、雄紀達が乗る車の先導を始めた。
車の中では、しばらく、みんな黙っていた。
今見たものが、起きたことが理解の範疇を超えていたからだ。
「あれは・・、何だったんですか? 」
雄紀が、おじさんに聞いた。
「・・多分、魔術の一種だろうね。 私には専門外なので、良く分からないのだが・・。 」
おじさんは、少し考え事をしたまま答えた。
「私、聞いたことがあります。 無機質な物に、自分の妖力を移す器にすることが出来る人たちがいるそうです。 でも、そんなことが出来るのは、よほど才能があって、尚且つ、物凄く修行を積んだ魔術師か・・・・。 」
ラディカは、そこで言葉を止めた。
「いずれにしても、先を急ごう。 」
雄紀は、皆に告げた。




