第六十七章 〜 初めての遠出 〜
雄紀に取って、この旅は ジャイナでの初めての遠出だ。
雄紀は、3列席の2列目、景色の見える席に座り、持って来た備品の箱が倒れない様、押さえていた。
運転は、スーリャがしている。
その隣で、ラディカが地図と車のナビゲーションシステムの画面とにらめっこをしていた。
おじさんは、雄紀の斜め後ろの席で、コンピューターのキーボードを叩いていた。
未だ、海は見えない。
しかし、車からの景色は、とても素晴らしいと思った。
全てが、初めての体験であった。
今回の旅で、雄紀が住んで居る、城の周りは、とても開けた町であることを初めて知った。
雄紀の世界の、イタリアの町の様思った。
古き良き時代の建物と、新しい建物が混在して共存している。
しばらく行くと、急に街の雰囲気が暗く変わった。
茶色いレンガの建物は、屋根が無かったり、半分壊れていたり・・。
そして、ぽつぽつ、そこを歩き回っている人々が居た。
その人達が来ている服は、ボロボロで、薄汚れていた。
「スラム街だよ。 ここもずいぶん人が減った。 光らなくなって、殆どの人達が違う土地に移ったんだ。 ここは、特に周りからの差別もひどかった。 今、残っている人たちには、心と体のケアが必要な人達なんだ。 ボランティアの援助しながら、光る人も、光らない人も関係なく働ける仕事に就く為のリハビリテーションをしているんだ。 もちろん、自由参加だから・・受けて無い人もいるんだけれど。 」
「そういう人たちは、どうするんですか? 」
「そうだね・・。 もっと、違ったアプローチが必要なのかも知れないね・・。 」
雄紀は、再び携帯電話に手を掛けた。
未だ、ヴィッディーにも連絡が付かないでいる・・・・。
車に乗り込んでから、雄紀は、ヴィッディーへの焦る気持ちから、何度も何度も電話をかけ直していた。
荷物を押さえているだけの任務は、雄紀の思考力をあまり必要としなかった。
故に、雄紀は自分の思考能力のほとんどを、ヴィッディーに電話を掛けることに費やしていた。
しかし、電話を掛ける度、留守番電話に繋がり、不安を募らせると言う繰り返しになった。
見かねた、おじさんが後ろから声をかけて来た。
「妨害されているのは明らかだ。 そう何度も電話をかけていたら、こちらの手の内を知らせている様なものだよ。 」
「・・・・・・。 」
雄紀は、電話を掛けるのを辞めた。
外に目をやった。
いつの間にか、田舎の風景に変わっていた。
昔、両親と旅をした、アメリカ合衆国のナパ・ヴァリー。
ナパの町の雰囲気は、洗練された小さな町と言った雰囲気だった。
町の外には、ワイン用のヴィニャードが広がっていた。
畑と畑の境目に、小さめのワンボックスカーの様な型の車で、ハンバーガー等や、野菜を売りに来る人々とのたわいのない会話も新鮮だった。
古い町なので、ガレージセールには、歴史的な掘り出し物を見つける為にたくさんの人たちが町内外から訪れていた。
でも、アメリカ国内で、あんなに1つの人種の人しか居ない町は、初めてだった。
雄紀達も、ナパ・ヴァリー出身のお父さんの友達に招待されなければ、ナパ・ヴァリーを訪れることは無かったであろう。
雄紀を乗せた車は、休憩の為にいったん遠距離運転用の道を離れ、町の中に入って行った。




