第六十三章 〜 秘密の入り口 〜
ソーハムは、嬉しそうに微笑んだ。
「さすが、進化形態の私だ! ありがとう。 」
「いえ。 僕自身の為でもあるのですから! 皆の為になるのも嬉しいし。 今以上に頑張ります! 」
ソーハムの瞳の奥に、薄っすらと涙が浮かんでいた。
「ちょっと、伝えておきたいことがあるんだ。 」
ソーハムは、そう言うと、雄紀の体に触れた。
ピ ―――――――――――。
ピッチの高い音がして、空気が張り詰めた。
周りの、白い光るモヤモヤが晴れていく・・。
モヤモヤが晴れていくにつれて、まわりに何かが見え始めた。
目の前に大きな建物が見えて来た。
雄紀は、そこに来たことがあった。
「あ・・、ここは・・。 」
「そうだよ。 ここは、君が、ジャイナに来た時に、最初に辿り着いた場所。 教会だよ。 」
「え? 」
雄紀とソーハムは、教会の前の広場に立っていた。
広場は、沢山の人や車、が入り乱れている。
しかし、そこにいる誰も、雄紀とソーハムには気が付かない様だった。
「・・・・・・? 」
「大丈夫。 私たちは実態を持たないからね。 誰にも見えないよ。 それどころか、誰にもぶつかりもしない。 ただ、すり抜けて通り過ぎるだけだよ。 サティアは、話が違うけどね。 」
雄紀は、ほっとした。
雄紀は、教会に取ってはお尋ね者だと、おばさんから聞いていたからだ。
雄紀は、教会に目をやった。
教会の窓と言う窓、戸と言う戸には、板が打ち付けてあり、ドアノブには南京錠がかけられていた。
「ヴィッディーが言ってた通りだ・・・。 」
「聞いたんだ。 なら、話が早い。」
そう言うと、ソーハムは、雄紀に付いて来るように合図した。
「ここはね、私が幼い頃、遊び場だったんだ。 こっちだよ。 」
そう言うと、ソーハムは、雄紀を教会の前広場の東側の端に連れて来た。
そこには、何本か気が植わっていたが、一本だけ雰囲気が違った。
ソーハムは、その木の根元の所に立った。
「この木はね、阿輸迦って言う木なんだ。神聖な木なんだ。 」
そして、そこに雄紀を連れて来た。
「ここに入り口がある。 」
「え? 」
「この入り口のことは、私と、私の両親とサティアしか知らない。 サティアが魔術師になった頃から、この入り口のことが他に知られない様に、結界を張って貰ったんだ。 定期的に、張りなおされているから、まだばれていないと思う・・・。 」
ソーハムが、そう言うと、再び、キラキラ光るモヤモヤが再び、周りを覆った。
ソーハムが、雄紀に身を低くする様に手で合図した。
雄紀が屈むと、ソーハムは目をつぶって雄紀の額に自分の額をくっつけた。
すると、ソーハムが幼い頃、阿輸迦の木のところの入り口から、こっそり教会に入って行って遊んだ思い出が、まるで自分の思い出の様に流れ込んで来た。
幼いソーハムは、しっかりとその入り口のドアに鍵をして、自分の部屋のカーペットの下の床の穴に鍵を隠した。
ソーハムは、にっこりとしながら、雄紀の額から、自分の額を離した。
「!? 」
ソーハムの右肩の奥で何かが光った。
「え!? 」
そして、その光は、丸くなって広がった。
そして、人の形を作った。
「ヴィッディー!?」




