第六十二章 〜 心の中の大きな壁 〜
「それは、私からは言えない。 私が伝えれば、君自身の選択を奪ってしまうことになるからね。 それに、私が伝える時に使う表現、言葉の印象で、君が洗脳されてしまう。 実際に、そのことが起きた時に、君が、その事態を色眼鏡で見てしまうでしょ。 私は、君に影響したくない。 君自身の中から生まれる、君自身の行動で切り抜けて欲しいんだ。 言ったでしょ、君は私の進化形だって。 」
雄紀は、疎外感を覚えた。
ソーハムは、再び口を開いた。
「ごめんね。 私は君を頼っているんだ。 サティアも、私の両親も、ヴィッディーも。 全てが、君にかかっているんだ。 何か、助けになる手段があれば、私も皆も、全力でするけど・・・、何もないんだ。 何をしても、悪影響にこそなれ、良い方向へは向かわない。 君に頼るしかないんだよ。 」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 」
雄紀は、うつむいて心を整理した。
ソーハムと話して、疎外感がどんどん膨らんでしまった。
前に会った時、ソーハムと話していると、もっと楽しかった。
『どうしてだろう・・? 』
雄紀は、ソーハムに依存していた自分の気持ちに気付いた。
雄紀は、自分自身がソーハムよりも遜る(へりくだる)ことにより、ソーハムに助けてもらおうとしていた自分に気が付いた。
雄紀の心の中には、疎外感の穴が、ブラックホールの様に、ぽっかり空いていた。 雄紀は、ソーハムから、これから起きるであろう苦難をどうすれば、一番楽な近道で解決出来るのかを教えて欲しいと望んだ。 ところが、ソーハムは、雄紀に、どうしたら良いのかを教えてくれるどころか、自分自身が雄紀に頼っていると打ち明けた。
雄紀は、今まで人に頼られたことが無かった。
『もしかしたら、実は、自分は、いつも無意識に他者に頼ろうとしていたのかも知れない。 』
雄紀は、ドキッとした。
『無意識に自分自身が他者に依存することによって、自分自身の選択の自由を自ら奪ってしまっているのではないか? そして、その、“依存”は、無意識であるが故、そのことに対しての不自由さを人間関係の煩わしさだと思い込んでいるのではないか? 自分が本当に嫌なのは、自分で決断することの煩わしさ、恐怖、不安等のネガティブな気持ちや、責任では無いか? そして、それらを他者に転嫁しようとした時に、断られると、勝手に自分が全否定されたような気持ちになって・・・。 もしかしたら、だから、1人の方が楽だと感じ始めた要因の1つになっていたのかも・・。 』
ソーハムは、雄紀をじっと見ていた。
じっと見つめて、待っていた。
ソーハムの目と口角は、微かに微笑んでいた。
・・・・・・・・。
雄紀は、ソーハムの瞳に目をやった。
「僕、生き延びます! 」




