第五十六章 〜 結界 〜
「マーラの体が物質化したらどうなるの? 」
「まず、器である、アッデスが必要なくなる。 」
「え!? っていうことは・・・。 」
「一旦、私は城に帰るわ。 私が留守にしている間に、植物園の植物がどうなっているかも心配だし。 希少な種類の植物は、全部半分、ここに避難させてはいるんだけど・・・・。 私が居ない間は、研究所から一歩も出ないで。 ここに張った結界には、まだしばらくマーラは入れないはず。 」
「分かったよ。 約束する。 だから、サティアさんも、気を付けてね。 ここのことは心配しないで下さい。 何とか頑張ります! 」
サティアは、眉毛を八の字にさせて、にっこりと大きな笑顔でため息をついた。
「ん。 信じてる。 」
そう言うと、サティアは、雄紀の額にキスをした。
その後、サティアは、おじさんとしばらく話をして、研究所を後にした。
サティアが、去った後、研究資料を持って、雄紀は所長室を訪れた。
今日のデータや、資料を手渡しながら、おじさんに話しかけた。
「おじさん、サティアは大丈夫でしょうか? お城は、どんな状況なのでしょうか? 」
「そうだね。 彼女のことだから、大丈夫だと思うよ。 城では、皆、まるで独裁者の様になったアッデスを恐れて、ビクビクしている様だ。 時々、訳の分からないことが起こるしね。 」
「訳の分からない事って? 」
「城の中に、異様に冷たい場所が出来たり、 城の庭の草木が枯れたり、皆、訳もなく落ち込んだり、イライラしたり・・そんなところだ。 」
「・・大丈夫なんでしょうか? 」
「城のみんなは分からない。 でも、そのことは、サティアが、ある程度は何とか出来るだろうけど・・。 」
「けど、何ですか? 」
「マーラから、危険要因だと、見なされたらサティアに危険が及ぶから・・。 “ある程度”に押さえておけば、安全だと思うけど・・。 マーラは、サティアを利用したいと思っているらしいから。 」
「僕、やっぱり、サティアさんが心配です。 」
「そうだね。 彼女の性格を考えると、そうだね。 でも、“サティアが、城に戻る”と言う選択肢よりも、良い選択肢があるかい? 城や、ジャイナや、世界を守るために、良いアイデアはあるかい? 」
「・・・・。 」
自分の不甲斐なさに腹が立った。
雄紀は、力が欲しかった。
そして、強さが欲しかった。
雄紀は、気持ちを落ち着ける為に仮眠室に行った。
仮眠室の床には、サティアが瞑想するために使っていた、ラグがそのまま置いてあった。
雄紀は、靴を脱ぎ、ラグの上に上がり、座った。
サティアは、瞑想をする前に、いつも、何か呪文を唱えていた。
「何て言っていただろう・・・・。 」
雄紀は、目をつぶった。
「ॐ सह नाववतु सह नौ भुनक्तु सह वीर्यं करवावहै तेजस्वि नावधीतमस्तु मा विद्विषावहै
ॐ शान्तिः शान्तिः शान्तिः・・・・。 」
何となく、古い記憶のどこからか、流れる様に、呪文が雄紀の口から流れて来た。
何だか、ふわふわといい気持ちになって来た・・・・。




