第五十四章 〜 ヴィッディーの旅立ち 〜
ヴィッディーは、言葉を詰まらせたままの雄紀を抱きしめた。
「雄紀、元気でね! 」
「また会える? 」
「大丈夫! 生きていれば、また会える! 」
ヴィッディーは、ミニバンサイズの車に荷物を詰め込むと、見送りに出て来た1人1人を抱きしめて、言葉を交わして旅立って行った。
みんなは、ヴィッディーの車が見えなくなるまで見つめていた。
ヴィッディーの車が見えなくなった・・。
研究所のみんなは、それぞれの持ち場に戻って行った。
雄紀は、まだ、ヴィッディーの居なくなった実験室にすぐ戻る気にはなれなかった。
「おじさんは、港町に行ったことはあるんですか? 」
「ああ。 港町は活気があるよ。 若い頃は、シーフードを食べによく行ったな。 」
「今は、行かないんですか? 」
「そうだね。 研究所が忙しかったし・・。 シーフード食べないし。 雄紀もそうでしょ? 」
「僕は、食べますよ。 」
「そうなんだ。 君は、てっきり、食べない人かと思っていたから。 」
『何でだろう? 』
と、雄紀は考えを巡らせると、ふと、心当たりに行き当たった。
『最後に、食べたのは、いつだろう・・?』
最近、お腹が空いた感覚が無い。
研究室に、籠るようになった辺りは全く食事をしなかった。
そのころは、多分、水も飲んでいなかった。
最近は、おばさんが差し入れで持って来てくれる、ジャムとパンやクラッカーを、口さみしい時につまむくらいで、食事らしい食事はとっていない。
「何で、お腹が空かないんだろう? 」
よく考えると、おばさんが食べる所を見たことが無い。
おじさんも、サティアもだ!
ヴィッディーもほとんど、食べ物を口にしなかった。
「おじさん、どういうことですか? おじさんやおばさんは、サティアも、ヴィッディーも食べないんですか? 」
「そうだね。 君もじゃない? 」
「確かに、最近、そうですけど・・、どうしてですか!? 」
「どうしてって、食べない方が体調が良いから・・かな? 」
「栄養は!? 僕、体調悪くないですって言うか、以前よりも体調が良いです。 」
「栄養って・・、よく考えてごらん? 食べ物を食べて、私たちの体は、食べ物を消化して、栄養を吸収して・・って、結局何を食べ物から得ていると思う? 」
「え??? 栄養を吸収して・・エネルギーを貰ってる。 」
「そのエネルギーは、元を辿ると、何処から来ているのかな? 」
「え・・? エネルギーは、モロキュールの波動ですよね。 食べ物の栄養分を、小さな細胞レベルより、もっと小さな粒子になって・・太陽から? 」
「そうだね。 この世界のエネルギーは、太陽から来ている。 食べ物を食べると言うことは、他の生物が、そのほかの生物が食べることで吸収し、集めた太陽のエネルギーを吸収すると言うことだよね。 その太陽のエネルギーを、太陽から吸収したらどうだろう? 」
「え!? 」
「太陽から、直接吸収することが出来れば、食べ物を食べる必要は無くなるんじゃないかな? 」
「理屈としては、そうですが・・そんなこと出来るんですか? 」
「現に、私たちは、ほとんど何も食べなくても平気だ。 」
「それでは、僕が、研究室に泊まり込んでいた時は? 僕は、太陽の光を浴びていなかった。 」
「エネルギーは、太陽からだけではなく、この世界には、色んな所に存在するんだよ。 何だか、そこに居るだけで気持ちが良くなる場所って無いかい? そういうところには、ヴィーリヤ・・私たちは、そう呼んでいるんだけれども、そんなエネルギーが存在するんだ。 」




