第五十三章 〜 石の護 〜
「雄紀、頑張ってね。 私たちの過去が・・、未来は、君にかかっているんだ。 私たちの希望が繋がっていく為の、君が鍵なんだ。 だから、絶対に、生きて自分の世界に戻ってね。 」
「戻るって・・ 僕には、元に世界に戻る方法すら分からないんだ。 」
「あの石のところに行くんだ。 あの石に飛び込めば、雄紀が居るべき場所に連れて行ってくれる。 教会の周りは、沢山の兵士に厳重に守られていると思う。 それを、突破するのは並大抵な事ではない。 でも、君なら出来るんだ! 」
「やっぱり、僕には無理だと思う。 」
「いいや! 出来るんだ、君には! 元の世界に戻って幸せな自分を想像してごらん。 現在は、雄紀が、元の世界で幸せになる為にあるんだと思い込んでごらん。 全ては、自分が、より幸せになる為だと思い込んでこらん? 出来るから、そうすれば。 」
「良く分からないけど・・やってみるね。 」
雄紀は、何だか良く分からない話に、少し気後れを感じた。
でに、こんなに真剣に前のめりに話す、ヴィッディー、雄紀は始めて見た。
そこに、おじさんと、別室に媚薬を取りに行っていた、サティアが入って来た。
「ヴィッディー、媚薬を持って来たわ。 これを、水で希釈して使って。 ・・今、渡して良い? 」
サティアは、ヴィッディーに媚薬の濃縮液の入った瓶を渡した。
「希釈の割合や、基材として使って良いもの、不向きなもの、それから、保管期間、水で希釈した後の使用期限等々、細かいことはサティアに聞いて、ここに打ち出しておいたから、後でよく読んでおいてくれたまえ。 」
「ありがとうございます。 助かります! 」
「もう直ぐ、行くの? 明日にしたら? 」
「あそこに行ったら、君のことだから、しばらく羽を伸ばすつもりなんだろう? 」
「はい。 どのくらいの期間になるかは分かりませんが、生活の基盤をしばらく、あちらに移すつもりです。 」
「じゃあ、尚更! 今夜は、みんなでお食事しながら話をしません? 」
「ごめんなさい。 今日、発つと決めたんです。 途中で泊まる宿も予約を入れました。 宿屋の人によると、明日は、宿屋の町の隣町の大祭の前夜祭なのだそうです。だから、その宿屋のみならず、他の宿屋も明日から1週間は予約が一杯なのだそうです。 」
「そうなんだ、それじゃあ、しょうがないか・・。 」
「そうね・・。 」
「いつも、ヴィッディーが傍に居てくれたから・・。 」
雄紀は、言葉に詰まった。
ヘスーサンの人々の細胞の研究をしている時、雄紀が、検体や、専門書や、時には飲み物の向こうに目をやると、そこには常に、ヴィッディーの穏やかな横顔があった。
雄紀は、ヴィッディーがここから居なくなることに対しての、自分の心の中の騒めきに初めて気が付いた。
「雄紀、大丈夫だよ! 必ずまた会えるから。 私は、石の護! 覚えておいて欲しい。 そして、必ず、帰るんだ! 」




