第五十二章 〜 ヴィッディーの友人 〜
「終わったって・・どういうことですか? 」
「よく考えたら、石は、まだ教会にあるんですよね。 石は、大丈夫なんですか!? 」
「大丈夫も何も・・。 石は解放されたから、エネルギーを放出しているんだ。 マーラには、どうすることも出来ない。 マーラが、あの石に近付こうとすれば、吸い込まれてしまうよ。 あの石のエネルギーが何なのか知ってるかい? 」
「いいえ。 僕は、実は何も知らないんです。 」
「あの石はね、解放されている時は、神と繋がっているんだ。 あの石が浮いているのは、神の世界では、物の質量も、距離も、時間も存在するけど存在しない、そんな概念の無い世界だからだよ。 だから、この世界では、質量が無いように浮くんだ・・。 」
雄紀には、良く分からなかった。
そして、雄紀は、一生懸命理解しようとして、眉間の中心に圧を込めてしまった。
とっても不穏な表情になってる雄紀に、ヴィッディーは噴出した。
「その内、分かるよ。 君は、科学者だからね。 でも、この世界の既存の科学者の常識に囚われている内は理解出来ないよ。 まぁ、君は、短期間に、色んな概念や感覚にさらされて、それらをつい最近、理解し始めたところだからね。 ある日突然分かるようになるんじゃないかな? 」
「そんなものなんですか? 」
「はい、そんなものなんですよ。 」
ヴィッディーは笑った。
「いずれにしても、今、教会は、鍵が占められた上、鎖と南京錠を掛けられて立ち入り禁止になっている。 マーラは、石をあそこに閉め込んで置きたいんだ。 あそこには、強い結界が張られていて、誰も石を持ち出せない様になっているから、マーラに取っては、あそこに閉め込んで置くのが一番都合が良いんだ。 」
「そうなんですね・・。 」
相槌を打ちながら、雄紀は思い出した様に、ヴィッディーに聞いた。
「ところで、どのくらい、港町の友達の所に滞在する予定なんですか? 」
「分からない。 ここでの、私の仕事も、ほぼすべて終わったから、しばらくは羽を伸ばすつもりなんだ。 いつ戻るかは、分からない。 もしかしたら、もうこっちには戻らないかも・・。 」
「どうしてですか・・・・? 」
ヴィッディーは、少し寂しそうに笑った。
「私は、私の友人が幸せになる手伝いをしたいんだ。 私たちが小さい頃、私が海で泳いでいて、離岸流に流されたことがあったんだ。 その時に助けてくれたのが、彼だったんだ。 私の友人は、ヘーゼルマンの漁師が捨てる雑魚を拾って、売って生活をしている家庭に育ったんだ。 だから、とても貧しくて。 学校には通わずに、浜で貝を取ったり、浅瀬で取れる魚を取って売ってたんだ。 だから、今、彼は勉強して、学校に行きたいって。 そして、もっと勉強したいって。 体が光らなくなったら、別の土地に行けば、ヘーゼルマンしか入ることの出来ない図書館にも入れなくはないし。 私は、彼の望みをかなえて上げたいんだ。 彼が居なかったら、私は海の藻屑と消えて、天命を全うすることが出来なかったかも知れない。 」
「良いお友達なんですね。 その人も、ヴィッディーも・・。 」
ヴィッディーは、何かを思い出して、顔色を変えた。




