第五十章 〜 古い友人 〜
ヘスーサンの町から光が消えて、一月近くが経った。
町の中で、時折、“引っ越し”と言う言葉を聞くようになった。
今や、街灯の無い、夜真っ暗なヘスーサンの居住区は、ヘスーサンの人々に取って住み難い場所になりつつあった。
故に、比較的、裕福な人々は、街灯のある場所へ引っ越したいと考えるのは自然な流れなのかも知れないと、人々は考え始めていた。
雄紀達の生活も少しずつ変わって来た。
おばさんも、雄紀も光らなくなったので、家の中の各部屋にランタンを置いていた。
雄紀達の研究は、継続されていたが今までの様な実験は殆どなくなって、経過観察が日課となった・・・。
「この媚薬の効力は、どのくらいの期間なのですか? 」
「別の用途に使った場合、この媚薬の効力は半永久的なのよ。 元に戻したい時は、改めて、その効果の為の媚薬を調合しなければならないの。 」
「と、言うことは、発光は完全に消えたと考えて良いんですか? 」
「そうだね、雄紀。 サティアが作った薬だから効果は完璧だ。 」
おじさんは、サティアにウィンクした。
サティアは、笑って返事をした。
「おじさん、これからは、どうしますか? ここの居住区の希望者には、全て投与したんですよね。 他にも、ヘスーサンの人々が住んで居る所はあるんですか? 」
「ああ。 南に下ったところにある、港町の外れにも小さな居住区があるんだ。 小舟を出して漁をしたり、ヘーゼルマンの漁師達が捨てる雑魚を貰って売って生活をしている人々が居るんだ。 」
「そこの人達にも知らせなければなりませんね。 」
「そうだね。 ただ、あそこはスラム街だから、君やサティアは行けない。 ヴィッディーは知り合いが居るんだったよね。 」
「はい。 私は、古い友人が、そこに住んでます。 検体のお願いする時も、その友人に頼みました。 何度か、あそこを行き来する内に、殆どの人が顔見知りになったので、大丈夫だと思いますが。 一応、友人に連絡をします。 事情を話したら、手伝ってくれると思います。 」
「じゃあ、君に任せたよ、ヴィッディー。 」
「はい。 」
「じゃあ、僕らは用意を手伝います。 」
サティアは、媚薬を調合し始めた。
雄紀は、荷造りを始めた。
港町の友人に連絡を取りに行った、ヴィッディーが戻って来た。
「大喜びしてました。 300人分は持って来て欲しいと言ってました。 島に住んで居る、ヘスーサンの人々にも声をかけてくれました。 」
「余剰を持って行った方が良いかも知れないね。 サティア、雄紀、頼んだよ。 」
おじさんは、別の部屋で準備をしている、サティアと雄紀に、インターフォンごしに言った。
インターフォンごしでも、ヴィッディーが嬉しそうだったのは見て取れた。
あんなに嬉しそうな、ヴィッディーを雄紀は、始めて見た。
考えてみると、雄紀は、ヴィッディーのことを殆ど知らなかった。
ヴィッディーと個人的に話をしたことも殆ど無かった。
雄紀は、ヴィッディーに確かめてみたいことがあった。




