第三十二章 〜 心の中の枠 〜
人は、それぞれ みんな違う目的を持って生まれて来る。 そして、様々な違う才能を持って来るんだ。 だけど、他者の過度な期待や望み等の感情を受けて、それらを見失ってしまう。 そして、その理由が 過去の自分自身からの物であることもある、君の場合は、だけどね。 」
「僕の才能は、自分で分かってます。 僕は、例え同じ作業の繰り返しを何万回と積み重ねなければならなくても、やり遂げる自信があります。 独りも平気です。 」
「でも、それらの能力は後天的に身に付けたものなんだよ。 君が持つべくして持って来た能力ではない。 君は、自分自身を決めつけて、色眼鏡ごしに見ていて・・。 見ようともしていないんだ。 」
「・・・。 」
「そして、自分の色眼鏡越しの自分自身のイメージに縋り付いている内は、何も見えてこないよ。 」
雄紀は、少しイライラし始めていた。
「それで、何が理想なんですか? 僕は今のままでいてはいけないのですか!? 」
「幸せだと、心から感じること。 もし本当に、君が心の底から幸せだと感じているのなら、君の人生も、それを肯定したものになる。 」
雄紀は、サティアのことを思い出した。
雄紀の世界のサティアは突然雄紀の前に現れた。
彼女が何かをしたわけではない。
しかし、彼女が現れることによって、雄紀自身が壊れてしまった。
光は、雄紀の様子を見ていて言った。
「そうだね。 君は、自分で自分を壊してしまったんだ。 自分にはめていた枠に、自分自身が入り切れなくなってしまったんだ。 君の人生の本当の目的は、サティアと一緒でなければ成し遂げられないからね。 」
「でも、きっとサティアは違う人を選ぶと思いますよ。 彼女には、もっと見た目も社会的地位も上の人がお似合いだし、彼女も その方が幸せになるだろうし・・。 」
「君は、全く理解しようとしていないね。 ・・まぁ、良いさ。 今は、自分の枠に自分を押し込むことで“自分”を保っているのかも知れない・・。 」
「・・・。 」
光との話の内容は、受け入れがたかった。
雄紀は、自分を守ることに必死になっていたからだ。
確かに、ここの研究室での研究は楽しい。 しかし、昼も夜もなく、全ての時間を注いでいるのは、自分の頭の中に存在する“サティア”から、自分自身を守る為であった。
「じゃ、行こうか。 」
「どこに!? 」
「君に見せたいものがあるんだ。 」
光は、そう言うと、雄紀の額に触れた。




