第三十一章 〜 心の傷 〜
雄紀は、頭を抱えて座り込んでしまった。
雄紀は、ジャイナに来る前、自分だけの領域の中でルティーン(日課)かした毎日を送るのが心地良いと感じていた。
そして、その生活を守っていた。
ジャイナに来てから、おばさんや、おじさん、ヴィッディーに、研究室のみんな、そしてサティアに出会って、少しずつ自分の領域に人を受け入れることが出来るようになって来た。
しかし、やっぱり、その生活を守っていた。
雄紀は、自分は受動的な人間であると認識していた。
何かを起こす側では無く、あくまでも受け入れる側。
「“この世界を救う?” 、“ヒーロー”!? やっぱり、僕には出来ません・・・。 」
雄紀は、頭を持ち上げて言った。
「私は、君を困らせようとしている訳では無い。 もし、その様に聞こえてしまったのなら、すまない。 でも、心の隅には置いておいて欲しい。 君は、自分で、自分自身を枠にはめ込んでいるんだ。 私は、なぜなのかを知っている。 しかし、私が教えることは出来ない。 その枠を見つけて自分をその枠から解き放つことが、君の課題なんだ。 」
雄紀は、光を見つめた。
光は、話を続けた。
「この課題を克服した時に、君の人生は、180度変わる。 正確には、君の人生自体が変わる訳では無い。 君の認識が変わることで 君の人生が、君の本当に望む方向へ動き出すんだ。 」
雄紀は、昔、深夜の番組で、自己啓発系の話を熱く語っていた人のことを思い出した。
あの時、あの番組と、それを見ていた自分との間の温度差と、同じものを感じ始めていた。
心が、ちょっとずつ締め付けられる様に辛くなって来た。
『面倒くさい・・。 』
雄紀は、心の中で思った。
「・・知ってるかい? “面倒くさい”っていう気持ちは、“諦め”から出てくる言葉なんだ。 そして、“諦め”は、裏を返せば“悲しみ”だ。 」
『え!? 口に出してないよね・・。 』
雄紀は、心の中でつぶやいた。
「口には、出してないよ。 」
雄紀は、追い詰められた気がした。
他人には、知られたくない 自分自身を光に知られてしまった。
「大したことないよ。 もっと気楽に考えて。 」
『いや、絶対にがっかりされた。 』
「どうして、がっかりするの? 私は、君と こうして話せていることが嬉しいんだよ。 がっかりする理由が無い。 君は、少し勘違いをしている。 人が、他人にがっかりする時は、相手に問題があるのではなく、がっかりする側に問題があるんだよ。 」
「え? 」
「人が、他者に“がっかり”と言う感情を持つ時、その人は、その他者に対して、的外れな期待をしているんだ。 」
「・・・! 」




