第二章 〜 夢(覚醒) I 〜
・・・雄紀は、いつもの様に研究所に出勤していた。
雄紀が籍を置く部所に関係する人たちが実験室のミーティングスペースに集められた。
教授がそこへ入って来た。
教授の後ろから誰かが入って来た。
彼女だ!
「今日から、研修生として東卿医科大学大学院から3カ月間の予定で来てくれることになった、湯川サティア君です。OJTは、眞弓君に頼むが専門分野が少し違うんだよね。北里君、君も東卿大学大学院の卒業生だったね。彼女も遺伝子工学の方が専門だから、宜しくね。」
「湯川サティアと言います。東卿医科大大学院の研究室で研究生をしております。」
『デジャヴ?』
教授には、適当に返事をしたが、彼女と関わるつもりなど全くなかった。
急に場面が変わった。
雄紀は、自席で研究資料をまとめていた。
今度のミーティングで、研究の進行状況を教授に報告しなければならない。
大まかにはまとめてあるが、資料の作成が間に合っていない。
ミーティングは明日だ。
長丁場になることを覚悟した雄紀は、まず気分転換の紅茶をいれることにした。
マグカップとティーバッグを持つと、椅子から立ち上がった。
「北里さん」
急に名前を呼ばれて、びっくりして振り返った。
そこに、吸い込まれそうな瞳を輝かせて、彼女が立っていた。
「こちらの研究所には、憧れの北里さんがいらっしゃるので、こちらでの研修に申し込んだんです。だから・・とっても嬉しいです!」
『はぁ? 何を言っているんだ!?』
雄紀には、訳が分からない。
雄紀は、単なる一研究者に過ぎない。有名人でもなければ、大学でも大学院でも何か目立ったことをした覚えもない。
大体、彼女とは初対面である。
雄紀が戸惑っていると、いつの間にか彼女は雄紀の右肩に鼻先が触りそうなくらい直ぐ後ろにいた。
ほとんど恐怖に近い、驚きと戸惑いに振り返った雄紀の瞳の奥をじっと見つめながら、彼女はにっこりとほほ笑んだ。
『しまった!』
「北里さんは、何をそんなに恐れてるの?」
『目を合わせてしまった!』
雄紀は、経験したことのない程の窮地に立たされた気がして、思わず目を逸らした。
『直ぐに何かを言わなければ・・言葉が出て来ない。どうしよう・・・!』
雄紀の手から滑るように落ちたマグカップは、硬いタイルの床に打つかり割れた。
その、音はあたりに反響し、隣の部屋まで貫いていった。
しかし、雄紀には、カップの割れる音どころか、握っていたお気に入りのマグカップさえ、意識からすり抜けていった。




