第二十七章 〜 まじない 〜
雄紀は、眠っている。
バイタルは、弱いが安定してる。
今は、眠って回復することが一番だと 医者は言っていた。
サティアは、雄紀の傍らにいた。
雄紀に、呪文を呟いている。
「ॐ त्र्यम्बकं यजामहे सुगन्धिं पुष्टिवर्धनम् ・・・ 」
「雄紀は、どう? 」
おじさんが入って来た。
「変化はありません。 」
「サティア、少し休んだら? 」
「大丈夫です。 雄紀が、目覚めたら 少し気を抜かせて頂きます。 」
「君は、強いね。 」
「いえ。 私は解っているだけです。 」
おじさんは、サティアの隣に椅子を持って来て座った。
「・・・どうしたら、守れる? 」
「私にも分りません。 原因を突き止めないと・・。 」
「でも、君がここにいる間は・・ 」
「雄紀が目覚めたら、私が調べます。 」
「危険だよ! 」
「他に方法がありますか? 」
「・・・。 」
「雄紀には、何れ、生きて 元の世界に帰って貰わなければなりません。 そうしなければ、私たちが 守って来た全てが水の泡になります。 」
「でも危険過ぎるよ! 」
「しかし、殿下・・ 」
「その呼び方はやめたまえ。 」
「失礼いたしました。 」
「・・・。 全ては未来の為に··? 」
「はい。 そして、戻って行く為に。 」
「···。 」
「今は、雄紀の目が覚めるのを待ちましょう。 雄紀が回復しなければ何も始めることは出来ません・・。 」
「何か食べるかい? 」
「結構です。 私は、この部屋の空間を守らなければなりません。 」
おじさんは、しばらく雄紀の顔を見つめて、部屋を後にした。
サティアは、雄紀の顔を見ながら少しの間 考え事をして呪文を終りまで唱えた。
そして、床に一畳程のカーペットを敷き、その上に蓮華座に座った。
右手を右ひざの上、左手を左ひざの上に上向きに置いた。
しばらく、目をつぶり、一度 大きく息を吐き、細く長い呼吸を始めた。
「ॐ सह नाववतु । सह नौ भुनक्तु ・・・」
サティアは呪文を唱え始めた。
「ॐ शान्तिः शान्तिः शान्तिः 」
唱え終わると、サティアは、しばらく目を閉じたまま 座っていた。
膝の上の両手を、上にあげながら、再び唱えた。
「ॐ शान्तिः शान्तिः शान्तिः 」
すると、サティアの両手の間に、光の玉が現れた。
星屑石と同じ色だ。
そして、それはだんだん大きくなり、サティアの手と手の間の空間を埋め尽くした。
サティアは、目を開いて両手を一度方の高さまで下げて、その光の玉を上に放り投げた。
光の玉は、サティアの手を離れ、空へと消えていった。
空間は浄化された。
これで、この呪いが聞いている間は、呪術のネガティブな波動を帯びたものに この部屋は存在しない。
サティアは、ゆっくり立ち上がると、雄紀の傍に戻った。
雄紀の顔を見つめる サティアの目は、愛おしいものを見る様な、悲しそうな複雑な表情を帯びていた。




