第百二章 〜 おじさんの急用 〜
午後は、実験室で机の上に、ビーカーや試験管、漏斗等の備品の名称や使い方の講習に入った。
おじさんは、急用ができたそうで、研究室の備品室の備品管理を任されている、自他ともに認める備品おたくのアシスタントの1人が担当した。
雄紀はと、言うと、午前中にまとめたデータの分析をしていた。
データの分析、解析が終わったら、明日、雄紀が担当する講座のシラバスを見ておかなければならない。
ヘスーサンの人々の細胞が、何故光っていたのか・・・。
大まかな、歴史は、おじさんが講義の中で、ある程度触れていた。
だから、雄紀は、その辺のことは、さらっと触れるだけで良いはずである。
雄紀は、講座の行われている実験室を入り口から見た。
“備品おたく”と、聞いていたので、てっきり男性かと思い込んで居たら、女性であった。
『思い込みは良くない・・。 』
と、雄紀は、改めて感じた。
サンチェスは、必死になって、メモを取っていた。
マヤさんは、サンチェスがメモを取る様子を見ながら、時々、サンチェスに何かを言っていた。
雄紀が、しばらく様子を見ていると、休憩に入った。
サンチェスは、雄紀が、入り口から覗いているのに気が付いて、“こっちにおいで・・”と、手で合図した。
雄紀は、マヤさんに聞いた。
「マヤさんは、メモを必要としない人なんですか? 僕の友達にも、恐ろしく記憶力が長けていて、メモを必要としない人が居ました。 うらやましい限りです・・。 」
「いいえ。 私が、講座のメモを取っていないから、そう思うんですか? メモは、サンチェスが取ってくれてるでしょ? サンチェスは、文字を書くのはずいぶん上手になったけど、時々、字がひっくり返ったり、度忘れしたりするの。 だから、そんな時、後ろから教えて上げてるの。 メモは、サンチェスのノートをコピーいたします。 」
「そうなんですね。 サンチェスのメモは、2人で取っているのですね。 」
雄紀は、にっこり微笑んだ。
マヤさんも、微笑みを返した。
「そう言えば、所長さん、どうしたの? 」
サンチェスが、雄紀に聞いた。
「僕にも分からないんです・・。 」
雄紀が答えた。
マヤさんが、心配そうに、こちらを見た。
雄紀は、マヤさんに、ニコッとした。
おじさんはどうしたのだろう?
何があったのだろう・・。
雄紀に、何も言わずに、何処かに行ってしまった。
マヤさんが、雄紀に打ち明ける様に話し始めた。
「いえね、今日の授業の最初は、所長さんが、担当しておられたんですよ。 でも、授業が始まってすぐに、白衣を着た人が入って来て、“緊急です・・”って、こそこそ話をしたんです。 所長さん、急に顔色が変わって、ここを飛び出て行ったんですよ。 本当に、大丈夫かしらね・・。 」




