その手稿はオーパーツと称される
※ホラー作品です。
M大学の周辺では、ここ数ヶ月に渡り行方不明者が多発していた。
「すまないね、君。わざわざ車を出してもらって」
助手席の教授が言った。
「いえ、教授のお住まいが近所とはいえ、最近は物騒ですから……これくらいは」
ハンドルを握りながら私は答える。
教授の研究室に所属している私にとっては帰り道の途中だし、実際たいした労苦には感じていなかった。
教授はそれきりおし黙る。
無理もない。
教授は先日、最愛の奥さんを亡くしたばかりだ。交通事故だったという。
沈黙に耐えられず、私は喋った。
「そういえば、いま学生の間で広まっている噂、知ってますか」
「噂?」
「ある遺跡から発掘された手稿で、そこには現代科学を軽く凌駕し、死者すら蘇らせることができるという医療技術が詳細に綴られている。事実とすればまさにオーパーツ。それがいま、研究のため当大学のどこかに保管されているのだとか……」
「感心しないね、君。いたずらにオーパーツなどというレッテルをつけて自ら思考停止を招くのは、学究の徒としてあるべき姿勢ではない」
辛辣な教授の反応に、いつもの調子が戻ってきたと、私は少し嬉しくなる。
しかし続く彼の言葉に、私は耳を疑った。
「手稿の技術は至極合理的で、充分に説明可能なものだよ」
「……」
「ここでいい。停めてくれたまえ」
道路脇に車を停めると、教授は哀しげな溜息をついた。
「死者は蘇る。私の妻、カレンも生き返った。だが代償は伴う。やむを得ないが、罪深いことだ」
「教授……何を言って――」
思わず伸ばした片手の自分の指先が見えない。
ぼたぼたと、シートに血が落ちる音がした。
「あ……?」
手首まで消え、さらに肘先まで腕が消える。
吹き出す自分の血液がシートに溜まり、尻を濡らした。
「あ、あああ、ああああッ?」
気付けば私は絶叫していた。
「な、何だこれ! た、助け――」
残った手でドアを開け、逃げようとした途端に車道に転げ落ちる。
足先が消え、そこから血が噴き出ていた。
「が……ああああッ?」
教授はうつろな瞳で私の様子を眺めている。
「すまないね、君。愛するカレンがこの世に存在し続けるためには、犠牲を欠かせないのだ」
まさか、大学周辺で多発している行方不明者とは――。
いると言うのか、ここに。
教授の奥さんが。
否、教授にはアレが奥さんに見えているとでも言うのか。
私の血に塗れてぬらぬらと光っている、あのどろどろで不定形の塊が――私の眼前に迫る、蠢く吐瀉物のようなものが!
なろうラジオ大賞3 応募作品です。
・1,000文字以下
・テーマ:オーパーツ
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