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秋葉ノ原の神  作者: 秋春
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神隠し\後

【ゆめのなか】


夢を見る。

いつものような火の夢でなく、まるで全てが燃え尽きてしまったかのような山のなか。

焦げ付いた石畳と、焼け落ちた櫓と屋台の骨組みのような残骸。そこに添えられるようにある、中途半端に焦げた赤い提灯が目に痛い。

この場で焼け落ちていない物といえば、煤けた赤い鳥居だけだろう。たとえ社であろうとも例外無く焼け落ちたこの景色は、どうにも寂しくて、少し退屈だ。

退屈でしょうがないから、好奇心に従って、焼け落ちた境内へと足を運ぶ。


……ふと、何かを蹴った。

からん、からんと音を立て、転がったのは丸い鈴。お参りの時に鳴らす、あの鈴だ。

からん、からんと足先で転がす。

退屈なまま覚めない景色に苛立って、からん、からんと鈴を蹴る。

からん、からんと鈴が鳴る。

からん、からんと音が響く。

鈴にも飽きて、鳥居へ向かう。


鳥居をくぐったその刹那、炎が夢を掻き消した。




【神隠し】\後


世界に掛かった幕が、焼け落ちたように夢から覚めた。

祭囃子の聞こえる日の落ちた参道に吊るされた、赤い提灯(子供)

目は伍百円、指は百円、舌は、腸は、肝は───

そんな事を書き列ねた木の札を掛け、人間の体を売り物にした人ならざる者達の屋台が並ぶ。

「……うっ」

人間を焼いた香ばしい匂いが鼻へ届き、胃液がせり上がる。

……唐突に、理解した。

この場において自分は異常であり、捕まれば屋台に並ぶ他の人間と同じように、殺され、解体されて売り物にされるのだろう。

それは嫌だ。嫌だが、どう逃げろというのだろう。

周りは化け物ばかり、先程まで居た神社は何処へやら。鳥居をくぐれば夢の中、夢から覚めたら人外魔境。いったい俺が何をした。


そんな得体の無い事をうだうだと考えている内に、いつの間にか祭囃子が止んでいた。

じろり、ぎろり、ギョロギョロと、周りの化け物達が俺を見る。

「………っ」

冷や汗が背を伝う。

化け物の内の一匹が、俺に躙り寄る。

俺はすぐさま踵を返し、前後ろにある鳥居をくぐろうと走る。

「ぐっ!」

しかし、後ろから首を掴み上げられ足が浮く。

「おいおい、上物じゃねぇか。

───オレが捕まえたんだから、オレの物だよなぁ?」

俺の首を掴む、異形の大男が周囲の異形に宣言する。

ワーワー、ギャーギャーと周りの化け物が耳障りな声で騒ぐ。

「いいや」

そこに、とても()()()()が降り立った。

「その子は俺の子でなぁ?

───恥知らずにも己が物だと喚く小童にくれてやる程、我は寛大でも無欲でもないぞ。」

麗人が嗤い、濡羽の翼を広げる。

……いや、()()()

「己が非礼の代償、その命で贖うがいい!」

轟ッ、と俺を掴んでいた異形が燃える。

異形の腕が炭化し、ぼろぼろと崩れ落ちる。

「あっ、ああ……あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「ふむ、よく燃えるではないか。

───慈悲だ、一息で滅してくれよう。」

地に足がつく事に安堵している間に、背後の火が勢いを増し、あの異形が燃え滓に変わる。


「やあ、君からすればはじめましてかな?俺の愛し子。」

周囲の異形が遠巻きに見るなか、目の前の麗人が俺に話しかける。

濡れているようにも見えるほど艶のある黒い短髪。若干タレ目がちながら力強さを感じさせる、整った柔和な顔。話に聞く天狗や山伏のような服。

……なんだか、どこかで見たことがあるような格好だ。

というか、さっきまで背中から黒い羽が生えていたのは何だったのだろう。この男は天狗か何かか?

「ふふ、正解だ。なかなか頭が切れるではないか。」

………は?

いや、口に出してしまっていただろうか。

「いいや?ずっと黙ったままだったぞ。挨拶くらいは返してほしいところだったが、まあそれはそれ。

さあ、早く行くといい。そして、ここの事は夢だと思って忘れてしまえ。」

そう言うと麗人は俺の背を押す。

たららを踏み、鳥居を抜けるとそこはもう、見知った街の風景だった。

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