2)宣告
その日、軍司令部からの移動の知らせに、艦内は騒然となった。
“歌姫”の移動を命じる書類だった。兵士の移動は珍しいものではない。今回の移動でも、かなりの人数の乗務員が入れ替わる。問題は移動する乗員の一人が、“歌姫”だったことだ。
「お願いです。彼がいるこの船にこのまま所属させてください」
“歌姫“の願いは、聞き入れられなかった。
治療槽から出る事ができない“闘神”は、この戦艦から離れることが出来ない。
「もう、何度も断った。だが今回ばかりは、無理だった。すまない」
艦長はいった。
「戦況が変わった。お前は優秀な“ダイバー“だ。お前を必要としている戦地がある」
その日も、艦内に“歌姫”の歌声が響いた。
いつもよりもずっと悲しげな呼びかけに、多くのものが涙した。
「可哀想にな」
「上も酷いことをする」
「俺たちのことなんて、何も考えてないんだよ」
「何のための戦争でしょうね」
長く続いた戦争だ。厭戦気分は前線で戦う戦艦でも珍しいものではなくなっていた。
―目を覚まして、お願いだから。もう会えなくなってしまう。お別れなのー
“歌姫”は一晩中呼びかけ続けた。“闘神”は目覚めなかった。