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おおみそか

作者: HERMES

 200X年、最後の日。大晦日。

 この日、日本で局地的に時空の歪みが発生していた。

 それに二人の若い男女が影響を受けた。

 これに影響を受けるのは、強い霊的磁場の発生する場所にいる潜在霊力の高い者達だ。


 ……まぁそんな小難しい話はとにかく、読んでくれれば分かる↓



(男)


「今年も終わりか〜何しようかな」

 一人の男が、こたつの中でテレビを見ながらそんなことを考えていた。

 時計はもう10時を回り、あと2時間で新年になる。

「今更なにが出来るってもんでもないか。今年はさんざんな目にあったし、せめて夢くらい良いもの見よう……」

 そして、男はこたつに潜り込んで眠ってしまった。


 一方、別の場所で


(女)


「あぁ〜正月が来るぅ〜!」

 机の上で悶え苦しんでいる女がいた。上下スウェットで、参考書を広げて頭を抱えている。

 どうやら勉強しているようだったが、はかどっている様子はなかった。

「わからないよー……」

 女は今年、大学受験なのだが、志望校を決めるのに8月、勉強を始めるのに10月まで掛かってしまったため、クリスマスも誕生日もかなぐり捨てて、急ピッチで受験勉強をしていたのだ。

 彼女は寝る間も惜しんで勉強した。予備校にも通い始め(10月から)、友達や彼氏と遊ぶのも我慢して勉強した。

 だが

“国語20点、英語3点、数学8点……”

 ……才能がなかった。

 真面目に勉強しておけば良かったと、遅すぎる後悔をする。


『別にバイトやってりゃよくね? んで一緒にアパート借りて住もうぜ』

 ニートの彼氏がそんなことをほざいていたが、聞き流した。

 そろそろ、この彼氏にも嫌気が差してきたところだった。

「大学行けばもっといい男いっぱいいるだろうし」

 入れればの話だが。

 とにかく、いくら考えても分からない。数式、アルファベット、漢字、化学式、年号……何一つ頭に入らなかった。

 

「……寝よう」

 女は諦めて寝ることにした。正月は、神社にお参りに行こう。んで、神様に頼んで受験もうまくいくように祈ろう。

 絵馬10枚ぐらい書いたら聞いてくれるかな。

 そんなことを考えながら、眠りにつく。

 時計は、もうすぐ11時になろうとしていた。



(男)


 男はふと目を覚ました。

 まだ授業中のようで、前の方では教授が何かを説明している。

 幸い、ノートはそこまで進んでいなかった。

「あれ?」

 何か違和感がある。

「あ、起きたか。次お前当てられるぞ」

 隣に座っている友達がにやにやしている。

 男は慌てて教科書を読み始めた。そして、なんとか質問にも答えることが出来た。

「良かったなー。お前、寝てたらまた減点されるとこやったぞ」

 友達はまだにやにやしている。

「そうなんかー……まぁよかったな」


 男の意識はそこで途切れた。


 男は目を覚ました。

 ぼーっとしながら歩いていたのか、ふと気が付くと、道路の真ん中にいた。

「おい、危ないぞ!」

「え?」

 突然、信号を無視して猛スピードで突っ込んでくる車が見えた。

 ビービー、とクラクションを鳴らしながら真っ正面に突っ込んでくる。スピードを緩める様子はない。

「う、うわぁぁ!」

 男は必死でその場を離れ、車をかわして地面を転がった。

 ゴロゴロゴロ、と何とか向こう側まで辿り着くことが出来た。危うく死ぬところだった事故の現場を見て、野次馬が駆け寄ってくる。

「兄ちゃん、大丈夫か?」

「あ、はい。なんとか……」

 おっさんが伸ばしてきた手を掴んで、どうにか立ち上がる。


 ……と、そこでまた、男の意識は途絶える。


 男はふと目を覚ました。

「もー何寝てるんよ」

 誰かに揺さぶられて、目を覚ます。

 隣には、男の彼女がいた。

「あぁ、ごめん」

 男の自宅で一緒にテレビを見ていて、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 テレビでは、デスノートの前編が丁度終わったところだった。

 彼女は笑って

「まぁええよ。それはそうと……」

「ん?」

「別れてくれん?」

 男は頭が真っ白になった。

「なんか疲れたし……」

 と、そこで男は彼女に抱きついた。

「きゃっ」

「ごめん、不安にさせて」

「…うん」

「だから、別れるなんて言うなよ」

「…………」


 ………と、そこで男の意識は途切れた。


「……なんなんだ一体……」

 男は混濁した意識の中を彷徨っていった。



(女)


 女はふと目を覚ました。

「暑っ!」

 と、同時に扇風機とエアコンを付けた。すでにTシャツと短パンは汗まみれになっている。

「あ〜勉強しなくちゃ」

 期末テストがもうすぐ始まる。

 テストが難しいと噂の教授に媚びへつらうこと半年。全ては単位のため。

 出席点は完璧だし、なんとしてでもここで点数を取っておかないといけない。

「あのハゲ、どこでるって言ったっけ? ……電話して聞いてみようかな」

 女は、彼氏に電話をして聞いてみた。

 トゥルルルル……

「おかしいな。出ないな……」

 寝てるのかな。そう思った時、

『……もしもし』

 彼氏の不機嫌そうな声が聞こえた。

「あ、起きてた? ちょっと聞きたいことがあって……」

『……誰ですか? 間違えてません?』

 まだ不機嫌そうだった。本格的に寝ぼけてるのだろうか。

「誰って? あんたの彼女ですよ。何、寝ぼけてんの?」

『……こんな時に、いたずらは止めろ。切るぞ』 

 そっけなくそう言われ、切られてしまった。

 女は困惑した。

「あれ? ……確か私は……」

 頭がこんがらがる。

 大学? 単位? 何の話だ。

 それに、彼氏はニートだったはずだ。

「あ」

 途端に、彼女は眠くなった。

 そして結論が出た。

 これは夢だ。それにしても、恐ろしくリアルな。

 それに気付いたとき、彼女の意識は途切れた。


「う〜ん……」

 彼女は目を覚ました。今度は本当に。

「寒っ!」

 とりあえずハロゲンヒーターと、エアコンを付ける。もちろん暖房だ。

 そして、目の前に散らばる参考書とノートを見て、ここが現実だと理解した。

「……リアルな夢だったなぁ」

 夢の内容ははっきり覚えていた。何の違和感もなく、大学生として過ごす日々。

 そして、どうやら彼氏が出来るらしいということ。

「予知夢、かな」

 何故だか、あれが未来であると確信を持って思えた。

 頑張れば、大学にも入れるし彼氏も出来る! ということ。

「よーし、そうと分かれば勉強しよ! やる気出てきたな〜」

 こうして女は寝る間も惜しんで勉強に励むことになった。


(男)


「う〜ん……頭痛てぇ」

 男はこたつの中から這い出して、今度こそ目を覚ました。

 やけにリアルな夢を見ていた。はっきりと夢の内容まで覚えている。

「今年あった悪いこと、全部修正する夢か……」


 男は今年さんざんな目に遭っていた。

 重要な授業で寝てしまい、減点されて単位を落としたのに始まり、彼女に振られて、挙げ句に交通事故にあって、全治3ヶ月の怪我を負った。今も治療中だ。


「リアルだったな、本当に」

 男はふと時計を見た。すでに12時は過ぎていた。もう新年になったのだった。

「今年こそはいい年にしたいな……便所でもいくか」

 そう言い、男はこたつから抜け出して、立ち上がった。

 そして、トイレまでスタスタと歩いていく。


「……ん?」

 歩いている……? まさか、まだ事故の後遺症で松葉杖がないと歩けないはずなのに。

 男は驚いて自分の足を見た。松葉杖どころか、包帯すら巻かれてない太もも。普通にズボンを履いて、体重を支えている。


「まさか!?」

 その場で飛び跳ねてみる。……痛くもかゆくもない。まるで事故などなかったかのように、男は軽々とジャンプした。

 さらに、部屋のどこを見渡しても松葉杖も包帯も薬も見あたらない。


「……まじかよ、奇跡だ」

 本当に夢の内容が現実になるとは思わなかった。しばらく男は驚いて声も出なかった。


 そして、今度は机の中から成績表を引っ張り出してきた。前見たときは『不可』だったが。

「……良、か」

 『不可』だった教科の欄には、はっきりと『良』と記されている。

 重要な授業だったので、これを落とすと来年から補習地獄が待っているところだった。

 本当に、夢が現実になっていたのだ。


「と、すると……まさか彼女とも」

 男はこたつの上に置いてあった携帯電話を取り上げ、元彼女……いや、彼女の名前を探した。

 ……見つからない。結構前に消したのは覚えていたが。

「どこかに残ってるはずだ」

 正直未練はありすぎて困っていた。このくらいじゃ諦めない。

 着信履歴から探すことにした。元々電話はあまりしないので、何ヶ月も前の着信履歴がまだ残っていた。その中で、一番多く残っていた番号……これが恐らく、彼女の番号だろう。

「よし、かけるか」

 震える手で、ボタンを押す。そして、耳に当てる。

『……おかけになった番号は、現在使われておりません』

 ピッ。男は電話を切った。だが、まだ諦めない。今度は、メールの履歴から彼女のものを探し出して、そして送った。

 返事はすぐに返ってきた。

『Postmaster@……』

「ははは……」

 どうやら、これだけは現実にならなかったらしい。男は携帯をこたつの上に置いて、後ろに倒れ込んだ。

「一番修正したい過去だけが変わらないなんて……中途半端なことしてくれるなー神様」

 そして、ため息をついた。


 まぁ、怪我も成績もなかったことになったんだ。それだけでも贅沢なもんだ。そう思うことにした。なんにせよ、新しい年が始まるのだ。また何かいいことがあればいいな。

 いや、今回で使い切ってしまったかもしれないが……。


 そんなことを考えていると


『ヴーヴーヴー……』

 こたつの上で携帯が鳴っていた。電話のようだった。

 こんな時間に誰だろう……見てみると、知らない番号だった。

「怪しいな」

 知らない番号には極力出ないようにしている男は、無視しようと決めた。だが、いくら放っておいても一向に止む気配がない。

『ヴーヴーヴー』

「……」

『ヴーヴーヴー』

「あー鬱陶しい!」

 ついに電話に出てしまった。

「……もしもし」

『あ、起きてた? ちょっと聞きたいことがあって……』

 女の声がした。だが聞き覚えはない。

 そもそも知らない番号から掛かってきたのだから。間違い電話だろう。

「……誰ですか? 間違えてません?」

『誰って? あんたの彼女ですよ。何、寝ぼけてんの?』

 彼女……今一番聞きたくない言葉だ。

「……こんな時に、いたずらは止めろ。切るぞ」

 いい加減、嫌気が差した男は乱暴に電話を切った。


「何だよ、全く。はぁ……寝直すか」


 男は、また眠りについた。

 いい年になりますように。ただ、それだけを願って。

 今度は、夢を見なかった。

 願いは、時間差で叶えられることになった。


 そして春。



(男女)


「サークルいかがっすかー」

 男は勧誘をしていた。

「あ、そこの人。どうですか? 話聞いていきません?」

「あ、はい。それじゃちょっとだけ」

 女は椅子に腰掛け、男と話し始める。

「どっから来たの?」

「地元ですよ」

「へー試験難しかった?」

「はい、それはもう……死ぬかと思うぐらい勉強してやっと補欠合格で……運良く入れたんですよ」

「大変だったねぇ」


 そこから話は弾み


「先輩って、彼女いるんですか?」

「いやいないよ。大分前に別れたし連絡もない。君は?」

「私も大学入学と同時に、ニートに見切りを付けました」


 そして


「大学生活で、何か気を付けることとかありますか?」

「そうだなぁ……」

 男は少し考えてから

「とりあえず、事故には気を付けて。松葉杖の生活はしんどいよ……」

「それから……ハゲの教授は必須の授業だけど単位取りにくいから気を付けた方がいいよ。特に寝てたりしたらすぐに減点されて不可になるから」

「なるほど〜」

 女は律儀に頷いて答えた。

「あとは……知らない番号は極力でないようにね。変な電話だといたずらされるし」

「いたずら、ですか?」

「そうなんだよ、あれは去年の大晦日だったな……」


 そう言って、しばらく会話は続いた。


「じゃ、知らない番号からかかってくるのも嫌なんで、番号教えて下さいよ」

「いいよー。サークル入ってくれたらね」


 やがて女はサークルに入り、男と付き合うことになる。だがそれはまた別の話。


昔流行ってたケータイ小説を書こうと思って出来た、変なやつです。

やっぱ恋愛小説はむずい

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