お料理教室開催&白熱のリバーシ
「なるほどな。そうすれば魚は上手く捌けるんだな」
「そう、ちゃんとやりやすい順番があるの」
買い物から帰ってきた総司は、真白に一つ一つ手取り足取り教えられていた。
彼女の手際はテレビに出ているプロが見せるような手捌きではないが、丁寧でしっかりと基本を押さえた技術と経験に裏打ちされたもので、総司はとても感心した。
それと、横に立っていると彼女が動くたびに、甘めの香りがするし、教えるために距離が近くなってちょっとそわそわしてしまった。
「で、後はさっき用意したタレを塗って焼くだけ」
「おお! めちゃくちゃ料理してる気になるな」
「ちゃんと料理してるからね」
グリル付きのコンロのため、本当に後は任せるだけだ。
米もすでに予約して炊飯器をセットしてあるし、みそ汁や副菜も出来上っている。
これで、調理終了だと思えば呆気無かった。
自分が面倒くさがっていただけなのだと、思い知らされた。
「待つ間、なんかゲームする?」
ただ、待つのも暇だ。
真白は期待する眼差しで、ちらりとボードゲームなどが置いてある棚を見ながら言った。
「元からそのつもりだしな。棚から好きなゲーム持ってきていいぞ」
彼がそう言えば、真白は棚の方へ歩いていくが、その後ろ姿は子犬みたいでちょっと楽しそうだった。
今まで、友人たちとあまり趣味の話で盛り上がれなかったのだから、嬉しくなるのも頷ける。
無論、総司の方も本格的に付き合ってくれる友人は少ないので、テンションは高めだ。
「これ、やりたい」
「あーそれな。それは四人いないと駄目だ。三人でもいいけど」
「そう……」
彼女が持ってきたのは麻雀セット。おそらく遊んだことがないから、二人で遊べないことを知らずに持ってきたのだろう。
総司が言うと、真白は残念そうに俯いた。さっきから、反応が小動物的で可愛らしい。
因みに、真白はそれほど身長は小さくない。女子の中ではむしろ高い方で、スタイルが良い少女である。
「だったら、これがしたい」
「リバーシか。良いな。長くは掛からないし。よし、やろう」
リバーシをリアルでするのは久しぶりだ。
リバーシは白か黒を選び、自分の駒で相手の駒を挟み込めばひっくり返して自分の駒にし、最終的な駒の数を競うボードゲームである。
二人で遊ぶボードゲームと言えば、リバーシの名前が上がるほど定番だ。
やると決まれば、ダイニングテーブルの上に盤を用意して、二人はゲームを始めた。
# # #
「一体いつから、角を取れば最強だと錯覚していた?」
「なん……だと……?」
始めてから数分、熱い戦いが繰り広げられていた。
角をテンポよく確保していく総司に、陣地は少ないながらも相手の駒の置ける場所を減らしていく真白。
角を三つも取った総司は勝ちを確信していたが、徐々に形勢が傾きつつあって焦り始めていた。
「よし、もう角は取らん。とにかく数さえ稼げばなんとか……」
どうにか物量で押し切ろうと、総司は作戦を立て直す。
「司さん、多分負けると思う」
「うわ! 置けるとこが無いじゃないか」
結局は戦略的に進めた真白に詰まされてしまった。
自分の駒を置ける場所が無くなり、後は一方的に順番を消化され、屈辱的にも自分の駒を彼女に差し出す羽目になった。
「くそう、もう一戦やろう!」
「良いよ」
悔しくて総司は再戦を申し入れる。
真白も勝ち逃げをするつもりはないようで、すぐに準備をしてゲームを始める。
今度こそは勝ってやると意気込んだが……
「また、負けた」
「ぶい。勝った」
先よりは善戦したものの、総司は見事に敗北を喫した。
真白は表情を変化させることは無いが、Vサインをして勝利宣言していて、そこには勝者の貫禄があった。
「もう一回する?」
「いや、そろそろご飯も炊けるし片付けようか。今日はこの辺で」
「分かった」
二回も戦えば、ちょうどいい時間になった。
すでに魚は焼きあがりご飯を待つのみで、リバーシを片付けたり、食器を出したりしていれば炊き上がるはずだ。
彼女に勝ちたい気持ちはあったが、いずれリベンジすると誓い総司は片付けに取り掛かった。
# # #
「じゃあな気を付けて帰れよ?」
「うん」
片付けを終え、帰宅する真白を総司は玄関で見送っていた。
彼女には彼女の献立があるし、一緒に食事をする理由もないので、夕食は総司の分しか作っていない。
ただ、料理を教えて貰ってリバーシで遊んだだけだ。
「しばらくは教えに来るから。今度は別の話もしたいし」
「了解だ。来る時は適当に連絡してくれ。あ、そうか。連絡先知らなかったな」
「はい。これ、ID」
彼女は躊躇いなく、チャットアプリのIDを教えてくれる。
クラスの男子たちは、彼女と番号を交換することに躍起になっていたが、あっさり総司は手に入れてしまった。
「登録したぞ。基本的には暇だから、大体は返事できると思う」
「私も」
「今日はありがとうな」
「こっちが言い出したことだから。司さんが料理をしなくなって、また体調崩しても寝覚めが悪いし」
「そうだな。俺もいつ飽きてカップ麺生活をし出すか分からん」
彼女的にそういうことらしい。
確かに、総司の立場でも同じような事を思うかもしれない。
しばらくは、真白の世話になりそうだ。
「じゃあ、もう、帰るから」
「おう、また学校でな」
「さようなら」
総司が片手をあげてそう言うと、会釈だけして真白は玄関から出て行った。
「また、学校で……か」
彼は彼女が完全にいなくなってから呟く。
最近までは深く関わることもないと思っていたが、ちょっとおかしな距離感ではあるものの、どうやらクラスメイトとして交流することになったみたいだ。
不思議な気分を感じながら、総司は夕食の良い匂いがする部屋に戻るのだった。
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