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花火と気付いた気持ち

「食べ過ぎた。もう腹いっぱいだ」

「ついアレもコレも食べたくなるね」

「こういう日は特にな」

 

 予定通りたこ焼きや焼きそば、カステラを食べ歩きながら二人は出店を巡っていた。

 

 ただ縁日というのは色々な屋台に目移りしてしまうもので、

 二人はその魅力に逆らえず追加でかき氷やジュースを買ったりしてもいた。


 真白に関しては繋いだ手とは反対の手にりんご飴が握られているくらいだ。

 方や総司はほんのり膨れたお腹を擦っていてちょっと苦しそうだった。

 

「唐揚げどうしよう。中は流石に無理だけど小ならいけるかも?」

「やめとけって。食べ過ぎて気持ち悪くなるぞ」

「でも、寝る前になって今なら食べられそうっていつも思うから……」


 未だに出店の食べ物に目移りしている真白を止めようと総司は試みるが、熱い眼差しで唐揚げを見つめる彼女の食欲は止められそうになかった。


 これが育ち盛りというやつだろうか。その点で言えば総司も立派な育ち盛りなのだが真白はそれ以上らしい。

 確かに真白は同世代に比べて身長が割と高い方だし、色々スタイルもいい。寝る子も育つが食べる子も育つようだ。


「分かる。分かるけど食べすぎると罪悪感あるだろ」

「え? ないよ?」

「最強かよお前」


 真白の返答は呆れると言うよりむしろ尊敬を抱くレベルのものだった。

 そこまで言うならもう止める気はしない。

 総司は屋台の列に並ぼうとするが、


「あ、あのね、いっぱい食べる人はおかしい?」


 手を繋いでいた真白が立ち止まったかと思えば恥ずかしげにそう言った。

 どうやら彼女にも普通の女子のようにたくさん食べること、それを見られることに羞恥心があったらしく、いつの間にか真白の耳と顔は赤くなっていた。


「別に? そんなこと微塵も思わん」

「ほんと?」

「そもそも他人の個性なんて自分とは違うんだから変わってて当たり前だろ」


 総司はあっけらかんとした態度で言い切ってみせ、そのまま真白の手を引くと一緒に屋台の列に並ぶ。

 すると同時に繋いでいた左手が強く握られる感触がした。


「そっか。やっぱり総司くんで良かった」

「何が?」

「なんでも。強いて言えば全部」

「?」


 総司の顔も見ず真白は小さく声に出す。

 なんのことか分からなかった総司は首を傾げるが、若干照れ顔の真白にはぐらかされる。


 真白から強く握られる手の感触とその表情から彼女が満足そうだし、言葉の意味が気になるけれどあえて聞くことはしなかった。


# # #


 食べたり遊んだり縁日を満喫している内に花火が打ち上がる頃になって、二人は花火が見えやすい神社の方へ向かうことにしていた。


 境内まで上がっていけば人混みは少なくなってくる。

 1番花火がよく見えるのはここから少し歩いた河川敷の方だが、事前に一花から神社がおすすめのスポットだと教えて貰っていて総司と真白はこちらを選んだ。


「足元に気をつけろよ」

「ん、ありがとう。総司くんが手を繋いでくれてるから大丈夫」

「おう」


 砂利や石畳だったりと慣れない下駄では歩きにくいだろう、と総司が気遣えば彼女は優しく笑いかけてくる。

 ふとした事だがいつもとは違う和装と言うだけで、妙に落ち着かなくなってしまう。

 今日はもう何度も同じことが起きていた。


「今日、クラスのみんなとじゃなくて総司くんと一緒で良かった。なんかデートみたいで楽しいよね」


そして不意に真白から放たれた何気ない一言が総司の感情を強く揺さぶった。

 

 徐々に早まる鼓動。加えて胸が高鳴るのを感じれば、次第に真白から目が離せなくなる。

 手を繋いでいることも相まって総司はより真白のことを意識させられていた。


(これはダメだろ……! いや何考えてんだ。真白は別にそういうのじゃ……)


 さっきまでは賑やかなところにいたから、気なんていくらでも紛らわせられたのだが、物静かな神社だとそうもいかなかった。


 花火を待つだけの時間は手持ち無沙汰で、ある意味冷静になれる。

 昂る気持ちと一緒に冷静になった分、総司は真白対する自分の気持ちに気付くことになった。


(はぁ。色々とダメだな俺は。これ以上誤魔化すのはダサすぎるだろ)


 ドンッ!


 総司が胸の内で湧き上がった感情を処理しているうちに花火が打ち上がった。

 まずは景気づけにとばかり大きな花火が夜空に咲いていた。


「総司くん? 始まったよ」

「あ、ああ」

「綺麗だね」

「だな」


(こんな時なんて言ったらいいんだろうか)


 真白を意識し過ぎた結果、総司の返答はかなり淡白になっていた。

 なにせ花火より花火を眺める真白のことを見つめている時間の方が多いのだからそうなるのも当然だろう。


 時々様子を伺ってくる真白と目が合うのがもうたまらない。

 真白のような美少女と花火を見ているだけで信じられないのに、その彼女が目が合う度にクスリとするのが夢なんかじゃないかと錯覚させられる。


 彼をのぼせ上がらせるのにはそれだけで十分だった。


 純粋に花火を楽しんでいるであろう真白に自分は邪念ばかりで申し訳なくなって、花火に集中しようと思っても1分すら持たない。

 ここまでくれば寧ろ感心するほどだ。


「ほんと綺麗だな」


 思いに耽っていた所為かそれとも見惚れていた所為か、ふと総司が口にした言葉は彼女に向かっていた。


「もう、今こっち見て言うことじゃないよ……」

「あ、いや別に……!」


 しっかりと伝わってしまった真白の頬には紅が差していた。

 慌てて取り繕う総司だが既に遅い。

 ただ、言ってしまったとは思ったがやってしまったというよりも、何故かすっきりとした気持ちが胸の奥の片隅にあった。


「ふふっ。総司くんから褒めてくるの珍しいね。その割に照れてるの可愛い」

「うっせー」

()()()()楽しくなって舞い上がってる?」

「やめろって。めちゃくちゃ恥ずかしいじゃねぇか俺」


 顔を赤らめながらも真白は総司を揶揄う。

 一方の総司は火が出そうなくらいに恥ずかしくなってガシガシと頭を搔いた。

 

「でも、舞い上がってるのは私も一緒だから。だってそうじゃないと手なんて繋いでられないよ」


 視線を総司から逸らして真白がボソッと呟く。

 目線なんてひとつも合わせることが出来ないのか、真白は繋いでいる手を見つめるばかりだった。


(こんなの反則どころの騒ぎじゃないだろ!)


 それは今までみた彼女の中でも屈指の愛らしさで、思わず総司は理性が吹き飛ぶかと思った。


「……なんか恥ずかしいこと言った気がする」

「大丈夫。俺も相当だから」


 確かに真白の言う通り普段ならまともに手を繋ぐなんてできやしないだろうし、思い返してみれば羞恥心しか覚えないような言動ばかりだった。


 これが縁日じゃなければ積極的に手を引くこともなかっただろうし、あんな恥ずかしいことも口にしなかっただろう。


 二人きりで夜に縁日に出かけるという特別感だったり、祭りという独特の高揚感から二人は確かに舞い上がっていたといえる。

 ただ総司にはそれだけでは無い理由もあったが。


「舞い上がってるとか手を繋ぐとか、ほんと今日の私は何言ってるんだろ。うぅ……」


 自分の言動を思い出した真白は俯きながら顔中を真っ赤にして悶えていた。

 そして、総司は総司でそんな真白が可愛くて仕方がなく見つめているばかり。

 おかげで無言が空間を支配していた。 


「は、話してばっかりだし、そろそろ花火見よっか!」

「あ、ああ。そうだな!」


 暫くの間無言が続くと真白が多少の気まずさと羞恥心を振り払うように話題を切り替える。

 二人していそいそと夜空を見上げれば、佳境に入ったのか次々に打ち上がる花火が目に飛び込んでくる。


(来年も一緒に見られるようにしないとな)

(今日は誘って良かった。また一緒に……)


 総司と真白は似たようなことを思い浮かべながら、鮮やかに彩られる夜空を見上げるのだった。

色々と時間が空いてしまいましたが、どうにか投稿が再開出来そうです。

相変わらずコンスタントには行かなさそうですが、どうにかコツコツとお話をお届け出来ればと思います!


また、空いていた期間は新人賞だったり、コンテストなどに応募するために新作を執筆しておりまして、近いうちに公開していくと思います。


それとTwitter(https://twitter.com/Nonakakanon7?s=09)始めました。何かある場合はこちらで呟いていくと思います。

今後ともよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いです、 良い物語をありがとうございます。
[一言] 続きが気になる… 更新待ってます
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