同級生の浴衣
「ま、こんなものか」
微妙な表情をしながら、総司は洗面所の鏡の前で呟く。
普段はロクに使いもしないワックスで髪型を整え、服装のチェックをしていた。
マウンテンパーカーとスキニーパンツを紺色で揃え、インナーは無地の白シャツ。
おかしなところがないか全身を確かめてみる。
自分でも一瞬誰だろうかと戸惑うぐらいなので、とりあえずパッと見は問題ないだろう。
そうすると総司は洗面所を後にして、リビングのソファに腰掛け野球中継を流し見る。
そうやってだらだらと過ごしていればインターフォンが鳴った。
「わざわざこっちに来てもらって悪いな」
今日は真白と約束をしていた花火大会の日だ。
誰がやって来たのか分かっていたので、そのままドアを開ければ予想通り真白が立っていた。
そして、目に映る彼女の浴衣姿に総司はボケっとしてしまった。
浴衣も着こなすだろうと容易に想像はついていたが、実際に見るとこれほどかと思わせられる。
水色を基調とした浴衣には黒、赤、白と様々な金魚が泳いでいて、全体的に淡く真白の銀色の髪とよくマッチしていた。
髪はいつも通りのストレートだが、花の髪留めで可愛らしさが演出されている。
日常生活において化粧をあまり好まない真白も、今日ばかりは上品に薄めの化粧を施しているせいか、どこか艶っぽい。
普段より真白が大人びて見え、和服美人とはこういう人のことを言うのだろうと思わせられた。
「変じゃないとは思うんだけど、どう?」
「似合ってるとしか言えないくらい良いと思う」
どこか不安げに真白が尋ねて来るが、ダメな所があるはずがない。
恥ずかしがっているのは真白なのに、なぜだか総司の方が妙に照れてしまう。
それだけ彼女の浴衣姿が魅力的なのだろう。
そんな真白の隣を自分が歩いても良いのだろうかとふと思う。
「ん。良かった。総司くんは浴衣着ないの?」
「実家にはあるんだけどな」
「着たら良かったのに。ちょっと見てみたかった」
総司が答えると真白は少し残念そうだった。
「でも浴衣姿の真白の横に立つと思うと地味に後悔してる。ま、浴衣が似合う訳でもないし、そもそも俺が何しても真白と釣り合うとは思えないけどな」
「そんなことない! 自分をそういう風に言うのは良くないと思う」
何気なく口にしたのだが、急に真白から強めの口調で諭されてしまった。
「総司くんは自分を低く見すぎてるように感じる」
「飛角にも似たようなこと言われたな。大した人間じゃないし、自分を褒められる要素を見つけられないんだよな」
「やっぱり。私も含めてみんな総司くんのこと評価してるよ? だからそんなことを言うのはちょっと悲しい」
怒ったような表情を僅かに見せながら、彼女は不満そうだった。
どうして真白がここまで珍しく感情を露わにするのか、総司には検討がつかない。
それほど変なことを言ったつもりはないのだが。
「しっかりオシャレもしようとしてるし、勉強も家事も頑張ってる。ちゃんと努力してるんだから、もう少し自分を認めてもいいと思う」
「そうだなぁ。そう言われると多少は自信持てるかもな」
「うん。大丈夫、私が保証する」
総司が納得して頷けば、真白ははにかむようにそう言った。
オマケに「総司くんはちゃんとかっこいいよ」と付け加え、背伸びした彼女から頭を撫でられる。
そのまま「これが保証するって意味」と続け様にボソっと告げてきた。
(反則すぎるだろ……)
不意打ちを食らった総司は呆けながら、胸の奥で強く脈を打つものを感じて、熱を抑えるようにパーカーを羽織り直す。
そんな総司の様子に満足したのか、真白はくるりと背を向ければしたり顔で笑みを溢していた。
「あー、えーっと、真白」
「ん? なに?」
「その浴衣姿だけど俺、今かなりテンション上がってる。可愛いって言うか今日はめっちゃ美人だよな。自分を自虐気味に言ったのは真白を褒めるつもりもあったんだぞ」
やり返す目的では無く総司は素直に真白を褒めた。
単純に自分が褒められたのだから、真白にちゃんと言わなければならないと思っての事だった。
プールの時、真白が褒めるようにねだっていたので、それを学習した結果でもある。
ただそれは真白にとってはしっかりと不意を打たれる形になったようだ。
「そういうことはすぐできるのに……」
と、真白はぷいっと顔を逸らせば、右足をぶらぶらさせ下駄で床をカツカツと鳴らす。
いじけてるようでいて、けれども口元を何度か引き締める仕草をしたりと、真白が表情を忙しそうに切り替えていた。
ついでに「ばかたれ」と小さく聴こえた。
年明けから、投稿ペースを戻そうと思いつつ、ずるずるともう4月も半ば。
これでは作品内の季節に追いついてしまいそうです( ´ A ` 。 )
やりたいことが多いことは良いと思っていたのですが、考えものですね。
とりあえず、今年度も頑張ってまいりますのでよろしくお願いします!




