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同級生とうわさ

 八月も半ばに入り、登校日を迎えた。

 茹だるような暑さの中、休暇中だった身体にムチを打って登校するのだから面倒くさいことこの上ない。


 席に着くなり総司は机に突っ伏す。

 しばらくクラスの喧騒を聴きながらいれば、前方から椅子を引く音がした。


「おー、総司。元気にやっとるか?」

「登校日に元気なやつなんてそうはいねぇよ。五十嵐も体調崩したんだろ?」


 暑さは等しく感じるはずだが、飛角は妙に爽やかな笑みを浮かべている。

 相も変わらず、元気そうで羨ましいものだ。


 一方で雪菜は夏バテしたらしく、今日は休んでいる。

 飛角とラーメンを食べに行く約束をしていたが、中止して午後から真白とシフトに入る予定に切り替わった。


「ま、あっちの方は元気そうやけどな」

「ん?」


 自分と同じようにみんなダルそうにしているのかと思っていたのだが、飛角が顔を振った先では賑わっているようだった。


「極夜さん、彼氏いるってホントー?」

「私、極夜さんがアパートのところで金髪の人とバイトしてたところにたまたま出会ったんだ」

「わたしは一緒に外を歩いてるの見たよ」


 いつものように真白の席の近くに集まった男女達。

 女子は爛々に目を輝かせ、対照的に男子たちは若干苦そうな表情でいる。


 話の内容に思い当たる節しかなく、総司は思わず顔を顰めた。

 まさかバレているとは思わないが、悪いことをしたわけじゃないのにどうしてか落ち着かない。


「そういや、金髪のやつに心当たりあるんやけどなぁ?」

「うっせー。黙ってろ」


 ニマァと口角を上げていた飛角を小突きたくなったが、反応したら負けなので抑えておく。


「あとさー、佐伯君に告白されたって。確か夏休みに図書室でだっけ?」

「え、じゃあ佐伯君と付き合ってるの? 極夜さん、教えて欲しいなぁ」

「えっと、誰とも付き合ってないけど……」

「でも、前に佐伯君と親しそうに話してるの見たよ? ホントに付き合ってないの?」


 困ったように真白は答えるが、女子たちからの質問は途絶えない。

 告白されてもその全てを断ってきた彼女のことだ。いつもはあまり大きな反応を示さないが今回は違った。


 総司と同じ学年で二つ隣のクラスにいるイケメンの男子生徒、佐伯さえき有人ゆうとの話題だからだ。

 女子から人気のある彼の話題、それも恋愛話ともなれば食い付きがいいのは当然だろう。


「うん。付き合ってない。告白はされたけど」

「やっぱりコクられてたんだぁ! え、え、じゃあどうして断ったの?」

「佐伯君、めちゃくちゃかっこいいのにねー!」


 再度否定する真白の言葉に、色めき立つ女子と男子。

 真白を囲んでいる女子の中には、佐伯に想いを寄せている者もいるのだろう。


 また、遠巻きに男子たちは、ヒロイン的存在である真白が誰とも付き合っていないことに喜びを露わにしていた。

 

「総司は彼女が、佐伯から告白されてたの知っとったんか?」

「いや? そもそも俺に話すことでもないだろ」

「ま、それもそうやな」


 真白とそういった話をしないので、総司は全く知らなかった。

 いつの間にと思ったが、聞こえてきた話からしておそらくは総司が髪を元に戻した日のことだろう。


 真白が学校に行っていたのは総司の知る限りその日だけのはず。

 とすれば、彼女があの時に元気がなかったのが気になる。

 何か関係があるのか推測しかねるが、面倒にならないことを祈った。


「あ! 金髪の人以外にも薄い茶髪イケメンの人と歩いてるの見たって、三組のミヤちゃんが言ってた」

「え? じゃあその人と付き合ってるから、佐伯君を振った感じ?」


 至る所から総司と真白の情報が飛び出てくる。

 人目につかないように気をつけてはいたが、遊びに行ったりしているので完全に隠すには無理があった。


 見られたのが見た目を整えていた時で良かったと思うしかない。

 もちろん登校している今は、髪が少し短くなったくらいで夏休み前とほぼ変わらない姿だ。


「良かったやん。イケメンやって」

「俺にはそれが分からん」

「総司って、自己肯定感とか自己評価的なん低いよな。かといってネガティブでもあらへんし。僕にはそっちの方が分からんわ」


 自分では妥当な評価を下していると思うのだが、他人から見れば違うらしい。

 総司は首を傾げつつ、眉間に皺を寄せる。


 飛角ほど分かりやすく、正真正銘のイケメンであれば納得できるのだが。


「オシャレするようになったらそのうち分かるかもな。自分って割とイケてるやん、って」

「お前が言うならそうなのかぁ?」

「知らんけど」

「おい、関西人の悪いとこだぞそれ」


 ちょっと納得しかけたのに、最後の一言で台無しだった。


         # # #

 

「告白一つにしろ、男と歩いてただけで大変だな」

「みんな青春真っ盛りだから」


 学校から帰宅し、午後からバイトなので二号室に集合した総司は、ゲームをしながらそう呟いた。

 隣でクッションを抱え、同じようにコントローラーを握っている真白は気だるげに答える。


 朝の時間に限らず、休み時間は他のクラスからも人が来たりして、同じことを尋ねられていたのだから疲れるのも無理はない。


 何度も何度も同じ対応をしている真白を見て、総司は同情したほどだ。

 それに助けてやることが出来ないのは申し訳ないし心苦しかった。


「そう言う真白さんはなんか枯れてますな」

「人と違う自覚はある。だから仕方ない。そんなことより総司くんにあの手の話がないのは不思議」

「そうかぁ?」


 どうやら総司の身の回りで、恋愛沙汰の噂話がないことに真白は不思議に感じているようだった。


「だって優しいし、料理とか掃除も出来るようになってきて、スペックは高い方だと思うし、あと髪も整えたら良くなるし」

「それは学校生活じゃあ見せないから仕方ないな」

「勿体ない。学校でも同じようにしてたら良いのに」


 総司の暮らしぶりはガラッと変わった。

 でも、真白と出かける時のようにオシャレをしないし、掃除をする時だって適当だし、あまり人とも関わりあったりしない。


 そんな総司に真白はちょっと呆れたようだった。

 だけど、だらしないというか面倒くさがり屋な性格なのだから仕方がない、自分の生活面くらいでしか頑張れないのだ。

 

「そう言えるのも全部真白のお陰だな。ありがとう。真白と知り合えて良かったと思えるくらいには、すげぇ感謝してる」

「そんなことない。全部総司くんの努力の結果だし」

「まぁ、真白には何一つ敵わないけど。勉強、家事が出来て、おまけに可愛いんだからほんと凄いと思うわ」

「ん」


 総司が素直に感謝を述べると、隣からはいつもの短く小さな返事が聞こえたが、画面の方では真白の操作していたキャラが飛び跳ねた。


「あ、死んだ。……ちょ、ちょうどいいタイミングだしバイトの準備してくる」


 クッションを抱えたまま、真白がそう言って立ち上がる。

 既に彼女はシャワー浴びていたり着替えているので、後は管理室に向かうだけなのだが……


 隣で立った真白を見やれば、じんわりと頬に赤みが差していた。

 思わぬ過度な褒め言葉に彼女は照れているようだった。


 ようやくそこで彼は、自分が割と恥ずかしいことを言ったのだと気付いた。

 そこからは互いに羞恥が支配していき、総司も「ああ……下で待ってる」と口にするだけ。


 一方の彼女は抱えていたクッションに一度顔を埋めたと思えば、ぽすっとソファに投げ捨ててリビングを出て行った。

 その時はもう耳まで赤くなっていた。


(うわぁ……恥ずかしいことしたな)


 真白を筆頭に飛角にしろ雪菜にしろ、総司は三人をかなり評価しているのだが、こうして本人の目の前で口にすることはあまりない。


 慣れない事をしたせいで、可愛いとかつい口にしてしまった。

 思い返すほどに羞恥心で悶えそうになる。

 自宅だったらうわぁぁ! と声にしていたかもしれない。


 下に降りる時間まで総司はしばらくゲームをして気を紛らわすことにした。

 ただ、先に進め過ぎて後で真白に怒られたのは別の話である。

最近、気付いたら誤字報告がいっぱい来ててびっくりしましたw

確定申告やら何やらで忙しい中、過去の投稿を遡ってチェックもできてないので、とてもありがたいです(*´▽`人)

小説を書いていて、常々読者の皆様のご好意を感じます。


ついでにブックマークとか、またページ下の☆☆☆☆☆をタップして頂ければ評価とかできますので、よろしければそちらもお願い致します!

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